ショウの夢 1
朝、目覚めたとき、美空ショウは泣いていた。
「……カズヤさん」
夢で握ったボールの感触が、いまも手にのこっている。
夢の中で、ショウはカズヤさんとキャッチボールをしていた。
でも、したのはキャッチボールだけじゃない。バッティング練習もしたし、カズヤさんからヒットを打つこともできた。
あこがれの人と一緒に野球をする。
それは、ここ数か月で見た最高の夢だった。
だから本当はこの感触をのこしておきたい。
たとえ夢であっても、大好きな野球への想いをこの手で感じていたい。
けど、ショウは自分でその想いを断ち切った。
このまま野球への想いが強まれば、消そうとしている野球選手になりたいという夢が、消えなくなる気がしたからだ。
「夢なんて持たないほうがいいんだ」
野球への情熱を押しとどめるために。
そして夢を完全に消すために。
ショウはそう自分にいいきかせるのだった。
その日の夕方――。
家に帰るとちゅう、ショウは河川敷でおかしな人物と出会った。
歳は16歳ぐらいだろうか。
おどろくほど特徴のない顔をした、どこにでもいそうな、ふつうすぎるお兄さんが、よつんばいになって草むらをかきわけている。
「ない、ない、ない」
そんなことをつぶやきながら、ハイハイであっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
どうやら、お兄さんは探し物をしているらしい。
「ああ、困ったぞ。いったいどこに落としたんだろう」
下を向いたまま、お兄さんがハイハイでこちらにやってきた。
(事情は知らないけど、関わったらメンドーなことになりそうだな)
そのままショウは立ち去ろうとしたが、
「困っている人がいたら、助けてあげるんだぞ」
以前にカズヤさんにいわれたことを思いだした。
「……なにか落としたんですか?」
勇気を出して声をかけると、お兄さんが顔をあげた。
「あれ?」
ショウを見て、お兄さんが一瞬まゆをひそめた。
「きみはたしか――」
「?」
「あ、いや、なんでもありません。じつはこのあたりにスマホを落としたみたいで、それをさがしているんです」
お兄さんが、いかにも困ったという顔をした。
「散歩中のワンちゃんが気持ちよさそうに草むらの上でゴロゴロしているのを見て、ぼくもマネしてみたんです。どうやら、そのときにどこかに落としてしまったみたいで……」
お兄さんはひたいに手をあてると、
「タンスの角に小指をぶつけるし、妹に同じフィギュアを7個も買ってたのがバレるし、おまけにスマホもなくすし……はあ、きょうは本当にツイてないなぁ」
肩を落として、大げさなため息をついた。
(ヤバい……ヤバいぞ。この人、想像以上にヤバい人だ!)
だが、どんなにヤバくても、こちらから話しかけた以上、このまま帰るわけにはいかない。
「ええと、落とし物なら一緒にさがしますよ」
「いいんですか!」
お兄さんの顔がかがやいた。
「おれ、スマホ持ってないから鳴らすことはできないけど、それでもいいなら一緒にさがしますよ」
「もちろんです。ありがとうございます」
お兄さんはショウの手を握ると、振り子みたいにぶんぶん振った。
「ちなみに、どんなスマホですか?」
「スマホケースに油性のマジックで『まえだたろう』って書いてます」
「え、ケースに自分の名前、書いてるんですか?」
「はい。あとカニのシールも貼ってあるから、見たら一発でわかると思いますよ」
そういうと、太郎お兄さんは得意げに両手でチョキをつくってみせた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




