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10.幕間~一方その頃

オルヴィス殿下とミレディによる幕間。今回は少し短めです。


 王宮のとある一角にて。


 柔らかなソファにどさりと腰を下ろしたミレディは、憂鬱そうにため息をつき髪をかき上げた。先ほどまで浮かべていた慈愛に満ちた笑みは、すっかり鳴りを潜めている。


「まったく……どうして下賤の者なんかに、わたくしが魔法をかけてあげなければならないのかしら。疲れるし、無駄な笑顔をふりまかなくではだし、もう面倒ったら」

「まあ、そう言うな。これも計画のうちだ。なんだ、聖女様と持て囃されて、随分と気分よさげにふるまっていたのになあ?」


 ミレディに相対しているは、第二王子のオルヴィスだ。侍女の入れた紅茶を手に、ククと喉を鳴らしながらミレディを揶揄する。実際、聖女効果は抜群だった。臣下や民たちに取り囲まれ、畏敬の念をもって見られればオルヴィスだって悪い気はしない。自尊心を擽られるのは、非常に快い。ミレディも図星をつかれたのか、わずかに頬に朱を上らせツンと顎をそらした。


「賛辞を浴びるのは当然でしてよ。フン……。ねえ、オルヴィス殿下、これで本当にルクス様の気を引けるんでしょうね!?」

「叔父上は魔法が大好きだからな。レアな魔法を使えるお前の話を耳にして、我慢できるものではあるまい」

「であればいいのですけれど……。早くルクス様の目を覚まして差し上げなければ。オルヴィス殿下も、とっととあの女をどうにかしてくださいませ!」

「うるさいな……」


 気まずげにちっと舌を打つオルヴィスに、役に立たない男だとミレディは内心で毒づいた。

 ミレディは幼少のみぎりに、ルクスと出会ってから一途に彼のことが好きだった。儚くも美麗な恵まれた容姿、類まれなる能力に加え王弟という権力までひっさげ、更に莫大な財産もある。そんな極上の男に選ばれるのは、銀薔薇と社交界でも評判の美貌を誇る淑女たる自分なのだと、ミレディは自信を持っていた。王子妃候補や国内外の有力貴族たちから、ミレディを嫁にと求める話はいくらでもあったが、全て断り続けたのはひとえに愛するルクスのため。

 それなのに。


 ぎ、と手に持った扇に力が入る。

 どれだけアプローチをかけても魔法魔法でルクスはつれないし、いつの間にか現れた冴えない聖女とやらにいたくご執心の模様。どうしてあんな小娘が! ミレディのイライラは、限界にきていたのだ。


「わたくしだって、光属性持ちなのに! 魔力……魔力さえあれば…!」

 嫉妬にまみれた嘆きは、どういった運命の悪戯か、第二王子派の元へと届いてしまった。

「ルクス殿下が、欲しくはないかしら?」

 妖艶な側妃により仕掛けられた誘惑は、甘く優しくミレディを堕とした。己の望みを叶えるべく、彼女はいとも容易く悪魔の囁きを受け入れた。そう、だって身分も財力も容姿も釣り合うミレディが、ルクスの隣に立てないわけがない。これはきっと、神々の試練に違いないのだ。


「しかし、聖女に聖女をぶつけるとは、果たしてどうなることかと思いきや、こんなに上手くいくとはな。ははは、民衆など所詮チョロいものだ」

「これもオルヴィス殿下、ひいては側妃様のおかげですわ。わたくしだけではどうにもなりませんでしたもの。そもそも、わたくしのような高貴な淑女に、魔法など必要ございませんでしょう? 魔力も少ないしと秘していた光属性が、こんな形で脚光を浴びるなんて。殿下からいただいた『これ』があればこそですわ」


 ミレディは、にいっと目を細めた。首から下がっているペンダントトップの石は、卵のようにつるんとした形をして、蒼く鈍い光を帯びている。


「聖女などという古臭い肩書き、ばかばかしいことこの上ありませんが、ルクス殿下を手に入れるためなら……うふふ」

「そして、俺は民から絶大な人気を得た聖女ミレディを擁立した功績をもって立太子する。筋書きとしては悪くないな」

「……でも、何か争いが起こるのでしょう? わたくし、そんな野蛮なところに行くのは嫌でしてよ」


 ミレディは柳眉を潜めた。軍部に行くのだって、正直なところ好きではない。血や汗や泥にまみれた野蛮な姿など、尊い自分の目に入れるのもおぞましい。でも、ルクスをものにするためならばと、必死に我慢しているに過ぎない。


「まあ、そう言うな。きっと、母上たちが上手くやってくれるはずだ。だから、しっかり役に立ってくれよ」

「ええ。お任せ下さいまし。お互いの輝かしい未来のために」


 顔を見合わせ、笑みを交わす。

 この先に訪れる、各々の薔薇色の幸せを信じて疑わずに。


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― 新着の感想 ―
[一言] 政争の具にしちゃいけない役割ってあるけどその認識は無さそうだな
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