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12/13

鈴は......

ああ、これは夢だ。

瞬時にそう理解した。


どこまでも広がる白い部屋。上も、横も、下にも広がっている。


俺は、その中でただひとつ、ポツンと存在していた。


(明晰夢......か)


「そう思ってくれても構わないよ。実際、君の夢に介入している訳だから夢に変わりは無い」


(!! 誰だっ!?)


視界の外から聞こえてきた声に、咄嗟に振り向く。

そこに居たのは、白い布を一枚纏った中性的な人物だった。


「ああ、自己紹介が遅れたね。ボクが神だ」


(こいつは何を言っているんだ?)


一体、『私が神だ』等と言われて信じる人がどれだけいるだろうか。信じたあなたは、壺を買わない方が良いだろう。


ともすれば十代前半にも見える自称神は、俺に指を突きつけて来た。


「あまり失礼な事を考えると、現実世界で天罰を与えるよ?」


(そうかそうか。タンスの角に小指をぶつける呪いだろ?)


そんなことは良いんだ。早く起きなければ。起きて、鈴を探さなければ......


「小猫君が見つからなくても良いのかい? ボクなら、君の元に帰してあげられるけど」


(っっ!! ......鈴をどこにやったんだ!?)


自称神の口からでた鈴の名前に、思わず過剰に反応してしまう。


「あははっ!! 小猫君はボクが失踪させたんじゃない。自分から消えたんだ。勘違いが過ぎるよ?」


しかし、今の俺はそれが聞けただけで満足だ。少なくとも、何か事件に巻き込まれた訳じゃ無さそうだからな。


「まだボクを笑わせる気? だからって小猫君が帰ってくると思うの? ......キミ、自意識過剰じゃない?」


(鈴は......だって......)


「小猫君に、帰りたくない事情ができたんだとすれば? キミと会いたくない事情ができたんだとすれば?」


(でも、俺を好きだって言ってくれたんだ......だからきっと......)


「だからこそ、じゃないかな? 好きな人に自分の醜い姿を見せたくない。ボクには理解できない感情だ。もっとも、そもそも好きという感情が理解できないんだけどねっ」


(お前は......本当に鈴を帰せるのか?)


「ボクは神だよ? 出来ないと思う?」


(対価はなんだ?)


「対価? キミにボクが欲しがるモノが用意出来るとでも? そんなわけ無いよね。このくらい無償でやってあげるよ。その代わり......」


そこで、俺の意識は浮上した。




「最高のエンターテイメントを見せてね?」




「............っっ!! 鈴! 鈴!!」


目が覚めた。寝汗か、それともさっきまで走り回っていたせいか、体がベットリしている。


鈴はいつ帰ってくるのだろうか。

俺は探しに行くべきだろうか。




子猫だった時、雨に濡れて震えていた鈴の姿が。初めて人間として出会った時の鈴の姿が。好きだと言ってくれた鈴の姿が、記憶の中から呼び起こされる。

居ても立っても居られない。

早く____早く鈴に会いたい。


やっぱり、探しに行こう。

倒れていた玄関の床から起き上がり、そのまま扉を開ける。




外はいつか見たような雨だった。

ザアザアを通り越し、むしろドオドオと擬音が聞こえる様な雨の中に____


一匹の猫が、座っていた。


「れ、い......鈴......なのか?」

「ニャ~ン......」

「鈴......」


猫になっていても分かる____訂正。一時期人間になっていても分かる。


俺が好きになったあの目は


俺が好きになったあの毛色は


俺が好きになったあの仕草は


紛れも無く、鈴だった。

以前助けた猫は、美少女になって____そして猫になって戻ってきた。


「鈴......お帰り。さ、中に入ろう」


何も思わないのか、と聞かれたら、否と答える。

ほんの少し前まで意志疎通が可能だった恋人が、急に猫に戻ったら驚くし、少し寂しい。

でも......変わらないと思う。何も。

だって俺が好きになったのは、人間でも猫でもなく、鈴そのものだから。


「コーヒーと紅茶と......ホットミルク、どれが良い? ......って、飲めるのはホットミルクだけだよな」


牛乳ではなく、猫用ミルクを人肌程度に温めて皿に出す。


でも、これで辻褄が合った。

猫耳の様な寝癖を指摘された時、牙のような八重歯を見られた時に顔を青くしたのは、自分が猫に戻りかけている事に気が付いたから。

そして、急に失踪したのは......遂に完全に猫になってしまったから。

思えば、これからの話をしている時だけ、妙に元気が無かった様に感じるし、一ヶ月待ちと言われた時近くの遊園地に変えていた。

お互いに「行ってきます」「行ってらっしゃい」と言い合ったのも、全部......こうなることが分かっていたから。

もう、そんなやり取りが出来なくなると知っていたから......


「鈴」

「ニャ?」

「鈴が人間でも猫でも、ずっと愛してる。大好きだ。だから____せめて話して欲しかった。人間だった頃しか楽しめない事も沢山あったし、急に猫に戻ったら少し寂しい」

「............」

「でも、もう過ぎた事だよな。これからは、猫として楽しもう?」


その夜は、少し泣いた。




ピピピピ、ピピピピ、ピピピ____


無機質なタイマーの音。

しかし、俺の心は軽い。

昨日は鈴が帰ってきたから......あくまで、猫に戻って、だけれど。


ただ、少し悔しい思いもある。

本当なら今日は、鈴と一緒に遊園地に行く予定だったんだ......

お読み頂きありがとうございます。

明日の朝の投稿が難しいそうなのですが、明日の19時投稿か、今日中の投稿かどちらが良いでしょうか......

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― 新着の感想 ―
[一言] 神様が良い神過ぎて安心しました。 神に期待される男、雨川翔。 バッドエンドかぁ…… コメントに書いたら消されかねないような展開が幾つか頭に浮かんできました。 でも、せっかくだからこの作…
[一言] やはりというかなんと言うか猫に戻ってしまいましたね ここからどうなってしまうのか遊園地デートをどうするのか続きがとても気になります 投稿のタイミングはいつでも構いませんよー
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