女たちのお買い物
エンジーの町は東西に広かった。そして貿易港だからだろうか、かなり商店の数は多い。そして、高い建物も多くて、よく区画は整理されている。
ここはその中でも、一番店の数が多い通りのようだ。ずっと伸びた真直ぐな道には、左右に色々な露店や店舗が並んでいる。武器屋、道具屋、洋服店など。人の往来も激しい。
街の中に水路が通っているあのゼルシップの風景は美しかったけれど、内容的な面で言えばこの街の方が素晴らしかった。
「さてさて、目当てのお店はどこかしら?」
先頭を歩くは上機嫌なマリカさん。きょろきょろと周囲に顔を向けている。目につくもの全てが新しくてワクワクしているみたい。それはわたしも同様だけど。……昨日の不機嫌さはどこへ行ったのやら。訊かぬが花ね、これは。
昨日の長い長い話し合いの結果、マリカさんを正式に仲間として受け入れることになった。元々反対していたのは、勇者様くらいだったけど。彼は最後まで渋い表情だった。
こんなことなら、最初からみんなに話しておけばよかったと思う。無理して、わたしとキャサリンさん、そしてソフィアさんで宥めようとしたのが失敗だった。
全くあの時間を返して欲しい。わたしだって、甲板で潮風を味わいたかったというのに。結局、道中ずっと部屋に籠って、同じような話をぐるぐる繰り返していた。
「ねー、マリー、洋服見に行こーよ!」
「あのキャサリンちゃん? いきなり脱線しようとするのは止めてもらえないかしら?」
「はあ。お姫ちゃんは真面目だねぇ」
「ちょっと二人とも! 会話の内容には気を付けてよね、どこで誰が聞いてるかわかったもんじゃない」
「それでどうしてあたしを見るのかしら、おチビちゃん?」
「マリカちゃん、そうやってザラちゃんをすぐ揶揄うのは止めてください」
……やっぱりパーティバランスがおかしいと思うのよね、あたしは。適当なことを言ったあの優男を恨む。
『やっぱり買い出しと言えば、女子だよね!』
ありありと脳裏にあのムカつく笑顔が浮かんだ……いけない、いけない、わたしったら。どうしても、魔王のせいでああゆうキザっぽいのには余計に反感を覚えるのよね。
ということで、わたしたち女子五人(一人見た目野郎が入ってるけど)が街を闊歩しているのだ。血の気の多い男三人(こちらも以下略)は街の外で魔物を狩っている。……お金稼ぎのために。
というのも、今回買うもので有り金が殆どなくなると思われた。……予測を立てたのは、わたしじゃないけど。こういうのは妹様とソフィアさん――そして新たにマリカさん――の仕事だった。
「だってそうでしょ。部下のやつらにザラたちを監視させてただなんて!」
「それは仕方ないですよ。私たち余所者だったわけですし」
「そうそう、ソフィアの言う通りよ。全くあんたは見かけも中身も子供ねぇ……」
「だ、だから煽らないでくださいってば!」
間に入っているソフィアさんのことが気の毒になってきた。でもわたしにはエールしか送れない。頑張れ、ソフィアさん!
火の粉が降りかかってくるならまだしも、自ら浴びに行くのはちょっと……そして、わたしには重要な任務がある。それは――
「ああ、ちょっとキャサリンさん!」
彼女はわたしたちからちょっと離れたところの店先で立ち止まっていた。もうすぐこんな調子なのよね。勇者様からもよく見張っておくよう頼まれた。――わたしが直々に!
彼女のところまで歩いて行って、その手を握って引っ張ってくる。まったくこれじゃあろくに進まない。
「キャサリンねえの気持ちもわかるわ。でもまずは馬車よ。この大人数で町の外を歩くとなっては絶対に必要だわ」
「そうそう。この大陸は広いっていうし。ここから首都までも、ラディアングリスからゼルシップくらいはゆうにあるのよ」
それが今回の買い物の主目的だ。もちろん、他の日用品や食料の買い込みもあるけれど。
宿屋の主人に訊いた結果この先にそうした旅の道具を扱う店があるらしい。この街一番大きい店舗、この国では有名な『ネコネコ商会』という名前らしい。
「うーんと、あれかもね」
マリカさんが顎をしゃくった。その先はT字路になっていて、違う道と交差している。その合流地点のところに、大きな店舗があった。看板には探していた店の名前が記されている。
それにしても……なにかしら、あの格好? 猫耳を付けて、メイド服姿の女性が店先に立っている。身に着けているエプロンに店名が書いてあるから店名なんだろうけど。
「店主の好みでしょ。やーね、いやらしい」
「あのこっちを睨まれても困るんだけど……」
「あら、ごめんなさい。ほら、見た目が男性なものだから、つい……」
「マラートさんとか好きそうですよね、ああいうの」
「町長の息子だからってやりたい放題やってそ~」
「アハハ、わかる、わかる。キャサリンちゃん、面白いこと言うよねー」
……本人がいないところで言いたい放題である。まあ、それっぽいからいいか。わたしとしても、全く違和感を覚えなかった。
とりあえず、店の前まで進んできた。軒先の棚にはいろいろなものが並んでいる。確かにそれだけ見るだけで、品揃えがいいことがわかる。
「あのちょっといいかしら?」
「小さなものから大きなものまで、何でも揃うネコネコ商店ですニャン! 何用ですかニャン?」
「……ニャン?」
繰り返すマリカさんの顔はとても渋かった。眉間に皺を寄せて、ひたすらに目をぱちくりしている。
おそるべし『ネコネコ商店』……よくもまあ、こんな店が流行るものね。むしろこれくらいの特色がないといけないのかもしれない。
「馬車を探しているのだけれど」
「どれくらいの大きさでしょうかニャン?」
「八人がすっぽり収まるくらいかしら」
「かしこまりましたニャン。少々お待ちくださいニャン。担当者を呼んでまいりますニャン」
そう言うと、猫耳メイドの女の子は店の中へ消えて行った。そして、ちょっと疲れた顔を見せるマリカお嬢様。……気持ちはわかる。
少しの間、わたしはもう一度商品を見てみることにした。ここには日用品が並んでいる。水桶、テントの杭、箒……統一感がまるでない。これぞまさに雑貨屋。なんちゃって。
「お待たせしました。店長のパリーでございます」
やってきたのはちょび髭小太りの中年男性。頭には、ライオンの耳が付いている。……何なの、この店? 疑問は尽きない。
「馬車自体はあちらにございますが、馬はどういたしましょう?」
「馬もいるのね。ぜひ頼むわ」
「はい、かしこまりました。色々と必要なものをお付けして――」
ぱちぱちと軽やかにソロバンを叩くおじさん。そしてはじき出された金額とは――
「金貨千枚でいかがでしょう?」
「……高いわね。もう少し何とかならないの?」
「ううん、これ以上は……こちらも身を削っているので」
「マリカさん、マリカさん、ちょっと――」
ザラちゃんが彼女のドレスを引っ張った。そしてわたしたちも呼び寄せる。彼女はとある名案を離してくれた――




