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幕引き

「あ、お帰りなさいませ。」

「早かったですね!」


 今村に連れられてアシュリー達が来た場所はどうやら別世界のようだ。高層の建物に囲まれた広い屋敷に到着すると今村を様々な種族の女性たちが囲む。


「……嘘……」


 そんな光景を見てアシュリーは絶句して泣きそうになり始めた。彼女の目の前には猫耳と尻尾を生やした美少女達がいる。


「お母さん……」

「うぇっ!?」

「何だミーシャ。お前いつの間に結婚して出産してたんだ?」

「してませんよ!」

「じゃあ芽衣?」

「私は処女です。ご覧になりますか?」

「限言呪だけで十分だ。となると他に?」

「ち、ちが……」


 今村が美少女たちに確認を取るがここに別世界で殺されたアシュリーの母親がいるわけがない。アシュリーはただ、滅ぼされた同族たちとそっくりな姿を取る彼女たちを見て幼い記憶を蘇らせてそう呟いただけだ。


「なの……はーれむなの……」


 クルルの思わずと言った呟きにこの中でも別格に美しい白髪の少女がにこやかに頷いた。


「はい、そうですよ。入りまぁっ! 「違う。孤児院が進化して会社になっただけ。よく見ろ。男もいるだろ。」うぅ……」


 発言の途中で今村はその少女を吹き飛ばす。壁に全身を強かに打ち付けた彼女を見ておそらく死んだのではないかとクルルは心配するが、普通に戻って来た。


「……それで先生、休暇は……」

「まぁいつも通りだが割と酷かったな。いや、この前行った世界あるだろ? そこの知識を入れて軽く別アバターにしてみたがやっぱ最後は裏切られて殺されたよ。何になろうが俺は誰も信じちゃいけないな。うん。やったぜ。」


 無言で苦虫を噛み潰したようにその美しい顔を歪める女性。その会話に猫人族の面々から慰められていたアシュリーが参加する。


「あの……ご主人様は……いったい何者なんですか……?」

「化物だけど……あぁ、説明しようかね。……ここじゃうるさいし別世界で。」


 今村はUSBメモリーを3つと大量の書類を受け取ってクルルとアシュリーを連れて再び別の空間への穴を開いた。






「……まーだ自治区南部でデモ行進やってんのか……基地移設反対。ふむ。じゃあウチの会社でもう少し離れた所に別地区の範囲として島を作って国に買い取らせるか。予算はその地区の補助金を回せばいいだろ。よい、出来た。……さて、質問をどーぞ。あ、取り敢えずクルルはごめんな。お前が人形態になったのは亜人の神の仕業と思って間違いない。」

「なの……?」

「他の介入を防ぐために奴がそうしたんだよ。一応俺の方でそれの解除とでかい鳥になれるように人化以外にも変身できるようにしておいた。まぁ、質問があるなら君らに与えることが出来る情報の範囲で答えるからどうぞ。」


 アシュリーは電話でどこかと話しながら会話を開始した今村に驚いて背筋を跳ね上げた後に少し考えて質問を開始する。クルルは先程の今村の言葉に首を傾げていた。


「あの……何故、ルナールさんたちは最後、ご主人様を……」

「あぁ、アレ。あの女神の洗脳だね。アシュリーとクルルは俺の【玉成】が初期からかかっていたこと、あの亜人の神の保護がかかっていたこと。人間化してたとは言え、俺から多少の指導を受けたことが合わさって免れたが、他は無理だった。」


 今村は魔術などのオカルト反対派の動きを示した書類を見て背後関係を洗いつつ簡単に滅ぼすか洗脳しながらアシュリーの問いに答える。


「そ、その……ラクシャ様が、来臨なされたのであれば……私たちは気付くと思うのですが……いつ……」

「反乱軍の大賢者とか言われてた幽霊居ただろ? アレと会った時。」


 アシュリーの問いを汲み取って今村は説明する。


「あの幽霊は過去の記録を見せた時点で役目を果たして成仏したんだよ。その後に俺だけ奴と会ってる。まぁ気絶してる間に付与されたから気付かなかったんだろうね。」


 今村も今思い出せば出会った時点と気絶後では女性の声と口調は変わっていなかったものの、敬語が抜け切れていないような喋り方になっていた。

 それに、今村は彼女から【皇】の能力による寿命現象に対抗できる丸薬を受け取り、先代の勇者の死後生み出したのかなど考えたが、不毛に近い紛争地帯から採取できるような物とは思えないし、紛争地帯から離れられたのであれば王国に来ていただろう。

 元々あったのであれば先代の【玉】の勇者が使用しまくっていたはずだ。


 今考えると、不自然だった。しかし、その時点では神の力で思考誘導されていたのだろう。


「なの……それで、クルルたちはこのせかいでどうやって……」

「あぁ、身の振り方ね。アシュリーはアレだ。ここで猫猫組に仕事教えてもらって働くか、新世界の神になりたいなら猫神の所に連れて行く。」

「えぇと……その……不安で、あまり離れたくないので……」


 アシュリーは暗に今村に離れてほしくないと伝える。しかし、今村はそんなアシュリーの言葉を素直に受け取って頷いた。


「まぁ不安だろうしな。そうだろ。ここでは色んなケアもあるから安心して生きてくれ。ある程度までは俺の方でも面倒を看よう。大丈夫。ここにいる奴らは大体元奴隷みたいなもんだ。」

「……よろしくお願いします……」


 アシュリーはそう言って引き下がるが胸中には様々な思いが渦巻く。この中の一人として埋もれたくない。自分を自分として見てほしい。しかし、美貌でも頭脳でも勝てそうもない。焦りなどが芽生える彼女に今村は後でフォローしておこうと決めてクルルを見る。


「お前は?」

「クルルは、こんかいのじけんでちからのなさをつーかんしたなの。もっとつよくなるためにがんばりたいなの。」

「ふむ……わくわく触れ合いランドにでも送るか……」


 緩そうな名前にクルルは憤慨する。


「なの! もっとつよくなりたいなの!」

「最下層地獄組にでも行くのか……? 流石にそこはこの辺の神獣でも瞬殺されるような場所だからワンクッション置いた方が良いと思うぞ……」

「呼んだ……?」


 突如として現れる黒兎耳を生やした世にも見ない程の美幼女。思わず呼吸を忘れたまま死にそうになるクルルとアシュリーに今村は軽く術を付与してその幼子を抱えて撫で、首を傾げつつ尋ねる。


「こいつ、ハニバニって言うんだが……こいつが住んでるところが最下層。」

「……あ、死んでるよ?」

「……今の俺の保護じゃ足りないか。ハニバニ、蘇生。」

「蜂蜜飴ちょうだい。お手製の。」


 飴を舐めるハニバニによって蘇生させられるアシュリーとクルル。しっかりと保護されて今村に再度尋ねられた。


「……現時点じゃこいつら俺より強いぞ。クルル、もう一回訊くが……」

「わくわくふれあいランドがいいなの。」

「まぁ賢明だな。そこに調味スライムマザーもいるが……あの世界で俺が重宝していた分体みたいに弱くないから喧嘩は売るなよ?」


 手のひらを返すようにそう告げるクルルに今村は釘を刺す。その発言の中にアシュリーは気になる箇所があったらしく尋ねた。


「調味スライムって……」

「あぁ、ヒューマノイドスライムとか名付けたアレ。俺が生み出した奴。あんな都合のいい生物が乱獲もされず、王国何かに記載もされずにその辺に転がってるわけないだろ?」

「獣人や亜人が腐ってる物の匂いだと分かるから食べないのかと……」

「キタミの野郎どもが来た時、誰も敬遠しなかっただろうに……」


 今村はそう言ってハニバニを抱え、「こいつ最近よく出て来るよな……」と思いつつ仕事を進める。


「他に質問は? ないなら今日は休んで明日から研修を始めてもらうが……」

「が、頑張りますね!」

「なの! クルルもいっしょにいられるようにがんばるなの!」


 意気込む両者を見て頷いた今村は彼女たちを宿泊施設の貴賓室へと飛ばした後にハニバニを元いた世界に飛ばす。

 そして、その世界における神々を僭称するヒュマインに類する精霊たちや信者たちを殺して王城の面々に更に地獄を見せるためにこの世界に移し、小野とアリスとクリスを出会わせて反魔族勢力を立ち上げた所で復讐の旅を終えた。




 ここまでありがとうございました。申し訳ないですがこれにて完結です。


 アリスとクリスの内、クリスは実は転生者。称号【薬師】の本草学講座や拷問「すぺしゃる」実践など色々やりたかったですが、割愛です。読了ありがとうございました。


 因みに5月からは今投稿してある物を含めて10作品位を2~3日に1~2回ランダムに更新します。よろしければどうぞ。


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