喜劇
クルルには目の前で起きたことが理解できなかった。
「なの……? ごしゅじんさまーおきてなのー……」
何故か、魔族領で仲良くなった2人と帝国へ移動する山越えの前に仲良くなったルナールが彼女の主に近付き、武器を出したが敵は、まだ生きている。片目を奪われて混乱しているが生きているのだ。
「あれ……ごしゅじんさま、ちが……アシュリーちゃん。なおしてなの。」
「あ、ぅ……ぐ……」
どうやら、彼女の主は相手の目を奪う際に怪我をしてしまったようだ。クルルはアシュリーに回復を頼もうとするが彼女の様子もおかしい。
「……アシュリーちゃん?」
「い、ま……話、かけない……でぇ……っ!」
「でも、ごしゅじんさまがけが……」
「殺さなきゃ……でも、いや……だ……! 私は、そんなこと……!」
アシュリーはどこかおかしくなっているようだ。クルルは仕方がないので自分で出来る限り手当をしようとして部屋の端まで吹き飛ばされた。
「な、なの……」
彼女の主人は気を失っているのか別方向に吹き飛ばされた。その腕は変な方向に折れ曲がっている。
敵は、激昂していた顔を取り繕うようにして両目を伏せると殊更優しげな笑顔で何かの術を掛けると両手でニーナとサーシャの頬を撫でた。
「あなたたちは、英雄よ……人間を救ってくれた、別種族の英傑。いい物語になりそうね……」
浮遊しながらそう告げる女神ヒュマイン。クルルは痛む体をおして今村を連れて一度撤退するために移動を開始した。
「……あれ……ルナは……何を……?」
隣で女神がニーナとサーシャのことを褒めている。だが、ルナールは先ほど自分がやったことの意味が分からない。
「……あるじ……を……刺した……? ルナが……?」
一部だけ獣化した爪には血がべったり付着しており、感触も手に残っている。だが、信じられなかった。
「竜人族、魔人族、狐人族、猫人族、鳥人族……魔族と化した大罪人を殺し、人間の下でこの世界に楽園をもたらす……それが、あなた方の使命です。」
女神はニーナ、サーシャ、ルナール、アシュリー、そしてローナのことを示してそう高らかに宣言する。
そして今村の亡骸へと向かっているクルルを見下して冷酷に告げる。
「手始めに、あの者を殺しなさい。大罪人に組するあの魔鳥を。」
「みんな……どうしちゃったなの……?」
クルルの怯えと不安、そして不思議な物を見る目に対してルナールはニーナとサーシャをその尾で止めた。
「……狐人?」
「く、クルルちゃんは……単独では、何もできないから……見逃してあげても……いいんじゃ……」
「……私に意見するつもりですか?」
女神の視線が鋭くなり、死の香りが漂い始める。
受け止めたルナールが目を逸らさずに女神を見据える中、更に濃密に漂い始める出汁の香り。
「私の、魔物ですら許すという、この慈悲深き言葉を……無下に?」
コッカッカ……
女神が地面に舞い降り、靴の音が不機嫌そうに鳴る。
カツカツカツ……
そして女神はルナールの下へ足早に近づいて見下すと無表情に告げた。
「……許しを乞うのであれば今回限り、一度だけ赦して差し上げます。」
「ご、ごめんなさい……」
「……口の利き方には気を付けなさい。これだから獣は……」
吐き捨てるように女神はそう言うとクルルがいた場所を指さし口を開く。そして残った目を見開いた。
そこには卵を白米に舞い落とし、卵殻を割る音を小気味よく鳴らして箸でよく混ぜて玉子かけご飯をメレンゲみたいにして食べている存在が。
「いやー玉子かけご飯喰いたかったんだよね。いい加減。ヒューマノイド……いや調味スライム。今までご苦労。そこに転がってる俺の抜け殻食っていいよ。まぁ魔力は俺が貰ったけど。因みにクルルは完全に混ぜる派? 混ぜない派?」
「なの……ごしゅじんさまー……? いちおう、みんなまじめにたたかってるなの……ごはんのじかんじゃないなの……」
「な、ぜ……?」
そこには黒いローブをまとった今村がごく自然とそこにいて、黄金色に染まった玉子かけご飯を食べていた。
「……あ、終わったっぽい。……じゃあまぁ……俺が食べ終わるまでこれと遊んどいてくれ。【玉子王子の化物化】」
先程割ったと思われる卵の殻、調理済みであるので玉子の殻と言うべきだろうか。それを放り投げる今村。するとそれは見るのも馬鹿らしくなるような魔力を伴って内部に闇を溜めこむと何かを生み出した。
「ご、ご主人様……!」
「んー……まぁいいんだけど。取り敢えずアシュリーはほい。頑張りました。そこの腐れ雑魚の宗教ゾンビ術に対抗したのでこれをあげます。」
【エッグモンスター】に腕を千切られ、神氣を垂れ流しつつ戦う女神を余所に今村はアシュリーに鰉を調理した物をあげる。
「さて、食べ終わったところで……批評。タマゴロン。こっちおいで。」
【エッグモンスター】に適当な名前を付けた今村はそう言ってその魔物を呼び戻してニーナとサーシャ、そしてルナールとローナに掛けられた術を解く。
「はい、竜人。お前は殺す。サーシャ……まぁ本持ってたから……まぁお咎めなしだけど本は全部俺が押収する。ルナールは……惜しかったな。九尾になれば【玉藻】として【玉】に保護されてたのに……残念ですが死刑。ローナは……まぁ普通に死刑でいいか。」
一方的に今村がそう告げた後、空から一筋の光が舞い降りて来て紛争地帯で禁術を教えた大賢者が平伏した。
「【魔神大帝】様……此度はこちらの不手際で誠に申し訳ありませんでした……まさか姉と弟が共謀して私を殺すとは思っておりませんでして……」
「……はぁ俺がこの世界の人間として言わされた通りだ。許さざるを得ん。俺が人間の時に言質取っておく辺り厭らしいなお前。」
「えぇ……そうでもしなければ殺されるので……」
「ら、ラクシャ……!? 何で、あなたが……」
女神ヒュマインは驚きに目を見開きながらその場に現れた大賢者、平伏したと同時に姿を変えて天女の格好をした美女にそう尋ねる。
今村が連れて来ていた一行が驚きに目を見開く中で天女は地面に正座したまま彼女の姉に向かって怒気を発す。
「それは勿論、【魔神大帝】様にこの世界を滅ぼされる前に謝罪しに来たんですよ。あなたが出て来なければバカンス代わりの転移は復讐劇になるだけで済んだのですが、随分とまぁ余計な真似をしてくれましたね……?」
「……バカンスが復讐劇になるってそれなりに悲劇なんだが。まぁいい。ここで死ぬまでは仕事忘れて休暇だったんだけどなー……この国で、選考された異世界人たちと協力してたら元の世界水準の生活が魔術で出来たはずなんだが……はぁ。もう遅いけどね。」
そう言って今村は立ち上がり周囲を見る。
「よし、じゃあ戦争の続きをしようか。安心しろ。俺は【玉】だけで戦ってやるから。【原玉操作】」
今村は笑顔でそう告げて勇者の一人を原子レベルまで分解した。そうしているとこの場にまた別の神物が現れる。
「おー……やっぱ大将だった。俺の加護を持ち出した人間が喧嘩売ってたから慌てて止めたけど……」
「ぶ、【武威神】様!」
ヒュマインが平伏し、現れた男神に助けてもらおうと助力を願う前にその男神は今村に対して土下座していた。
「何気に、マジギレじゃないですか……」
「よぉタナトス……今、俺は仕事に、強制的に、30年分くらい前倒しで戻されそうになって大変不機嫌だ。」
「俺あんまり関係ない……」
【魔神大帝】の言葉に何とも言えない顔をしながら顔を上げる【武威神】だが今村は歪んだ笑みを浮かべつつ告げる。
「そこの腐れ女はお前の管轄みたいだからな……第3世界の、人間界を司ってるお前のなぁ……」
「うわぁ……」
「取り敢えず地獄の特訓と仕事の肩代わり、それと寧々に愛の言葉を囁くということで手打ちな。」
目の前で自分より高位の神が許しを乞うている。その光景に顔色を悪くする女神ヒュマインだが、そんな彼女に今村は告げる。
「……お前は……決めた。【エッグモンスター】と融合して俺がこの前創った世界の現在のステージのラスボスになってもらおうか。何度殺されてもリポップして素材を剥ぎ取られ、こんなゴミは要らないと超低確率の小数点コンマ以下の誤差で宝石を手に入れられるまで何千回、何万回と殺され続けるがいい……そしてそのステージが終わった後は何もない、何もできない状態でその場に居続けろ……」
女神は抵抗らしき抵抗をする間もなく別世界へと飛ばされた。そして今村は次にと勇者一行を見る。
「お前らは……そうだな。お前ら自体にはそこまで恨みはないし、この世界でのストレスの元凶はたった今断罪した……さて、元の世界の家族たちをお前らの目の前で惨殺してからどうしようか……」
「な……何で家族を……関係ない……」
「お前ら……お前らの大事な家族だろ! 別世界に来たから関係ないなんて寂しいこと言ってんじゃねぇ! 全く……」
歪んだ嘲笑を浮かべた今村はこの場に彼らと近しいとされる人々を全員召喚して原子を操り適当に合体させる。
「な、何だ!?」
「俺の足が! 何で母さんの足と!?」
「勝手に体が動く!?」
気味の悪い生物が生まれた所で今村は斬り倒してはいたものの殺し切れておらず息のあった【光】の勇者に呪いをかけた。
「それの面倒を永遠に見続けろ。じゃないとお前もその中に入ってこの世界の魔力がすべて消滅するまで飢えながら魔力だけで延命することになるぞ?」
「う、っぐ……急に、腹が……!」
「あぁ、お腹空いてるみたいだね。誰かは分からんが……取り敢えずこの中の誰かが空腹みたいだからそれとリンクしてる。バッドステータスだけな。」
今村は笑顔でそう言って城の汚水の場所だけ教えて別の勇者を見た。
「んーとねぇ。俺に直接関係ない人々を後52人殺せるんだが……まぁ一々考えるの面倒だからこれで。【易老不死】。常人の20倍近い速さで老けるけど不死になれるよ! やったね! お代は取り敢えず君の20年分の若さ。」
急激に老け始めた勇者を笑顔で蹴り飛ばして魔力を全て奪い取ると次に移動する。
「……お! 【獣】……お前が俺の死体モドキを獣に食わせたんだよなぁ……」
「ひ、ひぃっ……!」
「おっと、もういい加減汚水にまみれるのは嫌でね。まぁ優しい俺は獣が大好きな君には魔物どもに獣姦されるように仕向けて終わりにするよ。俺って超優しいから!」
目の前の少女を不死にした後、魔物や獣などを発情させる猛毒を術で付与して今村は狂った笑顔で告げる。
「まぁ代わりに何に触れられても激痛が走るけどね。安心して? 死なないように不死にしておいたから。お代に魔力は貰うよ。」
「ぎゃああぁぁぁっ! っ! っ!」
「さて、後は小野と古美門……小野は、まぁ……この世界に置いて行くくらいの罰でいいか。古美門は……そこの奴らを潰した後で罰ゲームをしてやるから楽しみにしてろ。不死の呪い。」
顔面を蒼白にしている古美門に呪いをかけた後、今村はこの場に連れて来た自分側の面子を見てにこやかに近づく。
「あ、あは……」
「どこに行こうとしてるんだ?」
「ご、ごめんなさいなのだ……あたし、操られて……」
「そうか。じゃあ俺も間違えて殺すわ。」
「ひぃっ! あ、ぐっ……」
ニーナを恐怖のまま固まらせて怯えた像をその場に生み出すとサーシャの頭に手を置いてその固有術式を奪い取り、記憶を変質させてから笑って見逃す。
「まぁあいつは正直竜人の攻撃の余波で開けられた穴を通しただけだしな。竜人の彫像化の2次被害で十分。でもルナールは……きっちり、俺の脇腹に刺してくれたもんな?」
「……覚悟は、できてるから……本当に、ごめんなさい……」
「そういう態度だと殺し辛い。」
今村はそう言って別のことを考えると頷いた。
「じゃあ、ルナールのこれまでの記憶を食べるか。ついでに力の源のその尻尾を千切って、獣に帰らせよう。」
「……ぅ。ご、ごめんなさい……」
今村がそう決めた次の瞬間、今村の目の前には小さな子狐の姿があるだけだった。それは今村を見るなり怯えてすぐに逃げて行く。
「おやおや、俺の特製の発情薬を塗った変態女がいるのに逃げるか……まぁ俺が居るから仕方ない。で、どうする?」
今村は一通り処理を済ませると周囲に目もくれずに食事をしていたアシュリーとクルルにそう尋ねた。
「ふぇ……?」
「この世界に残るなら残ってもいいし、神になりたいならそこの亜人の神の補佐になれ。仕事を覚えたら世界を斡旋してやる。俺の世界に興味があるなら付いて来てもいい。」
その言葉を受けてクルルとアシュリーは今村に付いて行くことを述べて別空間へと歩み始める。その後ろで今村はふと思い出したようにアシュリーに尋ねた。
「あ、そう言えばアシュリーを虐めてた奴らにはきちんと復讐を済ませた方が良いよな? 契約蟲って奴らがいるから……あぁ、こういうのな。」
今村はそう言ってワームを古美門に発生させる。その蟲たちは古美門の体を食い荒らし始め、古美門が絶叫を上げた。
「こいつらに回復をさせつつ肉体を喰らうとかいう契約でも締結して地獄でも味わわせてみようか。」
そう言って嗤う今村は自世界へとクルルとアシュリーを連れて戻って行った。
前作からの読者さん方、ご協力ありがとうございました!




