帝都の交渉
帝都に着いた今村たちはそのまま城内へと案内された。
「朱雀将軍ってのは、アレクのことか?」
「そうだよ! 白虎がクリス! ところで手合せしよう!」
「文法が滅茶苦茶だぞアレク……」
「手合せねぇ……俺はこの後謁見もあるしアシュリー、戦ってみて。」
うっかりで殺しかねない程強くなってしまっているので今村はアシュリーの方を見てそう言った。
「は、はい……」
「アシュリーさんと……?」
「いやぁ……流石に、それは……」
アレクとクリスが躊躇っているとアシュリーが若干ムッとした。
「ご主人様が言われたんです。それに……私を倒せないのにご主人様に触れられると思うんですか?」
「怪我はしないように気を付けてね……?」
「その、攻撃とかいろんなところに当たるかもしれないけど、不可抗力だから……いい?」
完全に舐められているとアシュリーは気配を読み解きつつ今村を見た。今村は万に1つもアシュリーが負けるとは思っていないようだ。
(……信じられてる……嬉しい……)
この中では弱いが、今村に習って武芸をしていてよかったと思いつつアレクとクリスを連れて訓練場へと移動していくアシュリー。ルナールも審判としてそれに付いて行った。
「さて……そろそろ謁見の時間だが……」
「揉めてるのだ。予知した女の子をおっさんたちが吊し上げして今回ばかりは信じられないとか言ってるのだ。」
「何が見えたのかねぇ……」
ニーナ曰く揉めているらしいが、時間になったので今村のことを兵士が呼びに来る。クルルは荷物番としてこの場に残り、サーシャとニーナが今村に付いて謁見の間に移動して行った。
「……ではこれより会議を行う。イマムラ ヒトシ。汝の上奏を。」
「はい。「なー下級種族どもに何でそんなに畏まるのだ?」……お前……」
開始20秒。ニーナの言葉によって場の空気はぶち壊された。一先ず今村は割と本気でニーナを殴って床を突き抜けさせておくが、すぐに文句を言いながら飛び上がって来た。
「ま、魔族風情が……!」
「う~スキンシップが強いのだ……って、あん? あたしが魔族……?」
「皆さん! この方は魔族ではありません! 宝石老龍様です!」
剣呑な目つきになるニーナに対して帝国の滅亡を予見してしまったサリーシャが素早くそう叫んだ。そうすると重臣たちが騒ぎ始める。
「こ、小娘が……! 人民の血を欲する悪魔め! 竜王様の名を騙ってまでして我らを謀りたいのか!」
「……交渉が滅茶苦茶だ……竜「ニーナ。」ニーナ。龍の姿を取って黙って空中に浮いてくれる?」
「むー……お腹空くんだけど……まぁダーリンが言うなら仕方ない……」
服を脱ぐとこの場にいた重鎮、各ギルドの権力者たちが全員ニーナの裸体に釘付けになり、次の瞬間ドラゴンと化した彼女を見て言葉を失う。
「【悪魔王の方途】……いいか、ニーナ黙ってろよ? 頷くとか、行動ならしても構わんが……」
こくりと頷くドラゴン。それだけで暴風が生み出されて城の床が抉られて穴が生まれる。
「さて、帝国の皆さん方……王国の暴挙は知っていますね? 共和国への襲撃を行い、今まさに魔国へ奇襲をかけ、敗北することで異界の民を大量に召致したという暴挙を。狂人と化した石山などからも聞いていると伺いました。」
静まり返る中で帝王は頷いて返す。
「して……?」
「魔国は反撃に出ました。白昼堂々と城のど真ん中に乗り込み、王を弑そうとする異界の民たちの凶行から身を守るために。荒らされる山脈と言う名の国境の民を守るために。そして魔族と同法の兄弟である共和国の救援のために。」
今村の言葉に誰かがそれに我らの何が関係あると言葉を漏らす。
「関係ないと思うのですか? 現在、王国の戦の真っ最中で人民を出稼ぎに向かわせている冒険者ギルドの皆さん。物資を送ってその利を得ている商業ギルドさん。その装備を整えている鍛冶、服飾、薬学、魔薬、その他の皆さん方!」
「平時において、それは問題あるま……い……」
「……そうですね。利を得ることが当然です。では……その言葉の続きは王国の土地を全て魔族領にされてから伺いますか。短期的な利だけを追い求めて破滅すると良いですよ。はぁ、マジ何なの……真面目にやろうと思ってたのにこの体たらくだよ畜生が……いっそ今から皆殺しにして失敗をなかったことにしよっかなぁ……まぁしないけど……」
ちょっとした動きすら睨みつけるニーナのお蔭で失神者が相次ぎ話にならないと今村は失敗したと諦めることにする。
「ま、待て……そのドラゴンは……いや、竜神様は我々に……」
返事は宝石の槍の雨だった。それを行った後、ニーナは人型に戻る。
「お腹空いたし戻るのだ。……服。あ、城が崩れて来たのだ。」
「お前の所為だろ……あ、良い事考えた。」
この後今村は【悪魔王の方途】と【音玉】の力を使って竜神が王国との戦争をする際に加護をもたらすと言う流言をばら撒きながら謁見の間を後にした。
「……ニーナぁ……お前さぁ、何で空気読まないの……? サーシャだって黙ってたのに……」
「む……まるで私がいつも読まないかのような言葉……」
「いやーあたしから見たら……そうなのだ。だぁりんが急にトカゲと丁寧にお話を始めたように見えたのだ。」
「……そうかい。」
主観の差はどうしようもないと今村は諦める。今回の交渉の失敗は魔国が巨大化して人間族が勢力争いに敗れるのが決定しただけの話だ。
「……まぁ、俺一応人間だったけど今は【魔】っていう何とも言えない種族だから別にいいけどね。」
「それに、ようするに縄張り争いなのだ。王国の上っ側が誰かの物になるのが嫌ならあたしの縄張りにすればいいのだ!」
「……まぁ人間が勝手に滅びの道を選んだんだし、どうでもいいな。」
今村はそう言って自分を納得させるとアシュリーにこの短時間で5回ほど負けているアレクとクリスの様子を見に行った。
「……ふー。あ、ご主人様……勝ちました……!」
「おう、知ってる。」
「か、掠りすらしなかった……」
へたり込んでいるアレクとクリスを見下ろしながら今村はアシュリーが駆け寄るのを受け止めた。
「えへへ……ぐるぐる……」
「……あいつらを消し飛ばせばだぁりんが褒めてくれるのだ……?」
「ザケろタコ。いい加減ぶん殴るぞ。」
そう言いつつ殴った。壁が吹き飛ばされ、先程ニーナによって破壊された城に新たな傷が生まれる。しかし、ニーナは平然と戻って来て憤慨するだけだ。傷一つない。
「もうスキンシップのレベル超えてるのだ! 痛いのだ! DVなのだ!」
ニーナを止めて英雄が負けたとざわめく周囲を睥睨しつつ今村は先ほどの流れと竜王の降臨について殊更聞こえるように兵士に言ってから訓練場を後にする。と見せかけて、空気を覗いて行くために【闇玉】で姿を消して戻った。
(出来れば少しくらい動いて欲しいなぁ……流石に元人間として人類死滅を招くのもアレだし。)
そんなことを考える今村。訓練場ではアレクとクリスが少しの沈黙の後に呟いていた。
「戦争、か……」
「……参加しないと、この国もいずれ魔国に呑まれるだろうな……」
「英雄様、我々は王命などなくともあなた方に付いて行きます……!」
周囲の意見に翻弄されながら英雄としての振る舞いについて考えさせられるアレクとクリスを見て今村は少し考える。
(……視野を狭ませて軍部を暴走させられねぇかな? こいつらはやる気あるみたいだし。)
そう考えた今村は戦争の開始に付いて魔王に連絡を入れた。
「予定より早まる。今から行軍してもらって構わない。」
『中央山脈に穴が開いたのは報告が入っている……だが、竜王様のねぐらに近い場所でな……』
魔王の言葉に今村はあっさりと言葉を返した。
「その竜王様は現在外出中で、その娘さんは今俺の所に居るよ。」
「……ギリギリ普通の生命体なのだ? ねぇ、この人格好いいのだ?」
念話先の魔力から相手を推定してニーナは今村にそう尋ねる。今村がしばし考える素振りを見せてそうだと答える前にサーシャが告げる。
「2Mくらいのオジサン趣味なら……まぁ、そこそこ……」
「げ、あたし無理なのだ。やっぱりだぁりんの卵を産むしかないのだ。」
「サーシャ……そこは黙っておいて魔王ザッファールト様にニーナを押し付けるべきところだろ……」
「でも……敵に回られると厄介だよ……?」
『竜王様がいないのであれば、軍を発しても大丈夫だな……明日、出発して王国領に入れるのは先遣隊が1週間後。まぁそこで大体ケリは着くだろうがな。』
「分かった。まぁ密に連携は取るぞ。では、今回は。」
そう言って今村は魔王との連絡を切った。そしてニーナを見る。
「ザッファールトは俺と違って周囲を優しく、特に本人曰く女は優しく扱うらしいぞ? 向かうと良い。」
「むー……だぁりんに焼き餅やかせようとして言ったのにムカつく答えが返って来るのだ……もう少し頑張ってザッファ何とかのこと褒めるべきだったのだ……」
今村は無視して戦争までの残された期間を割とのんびり暮らし始めた。そして来たるべき日。今村は笑顔で帝国領から飛翔して魔王軍と合流する。
「さぁ、始めようか……」
イマムラ ヒトシ (17) 魔 男
命力:12650
魔力:12504
攻撃力:12823
防御力:21592
素早さ:12520
魔法技術:14568
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】
【上級技能】…【言語翻訳】
【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】
≪称号一覧≫
【不羈なる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【竜の愛人】【薬師】
現在所持金…200万G




