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町を出る

「……で、それが何だ?」

「だから、その……約束を破るのは心苦しいが、本は……この町にいる間なら好きに読んでもらって構わないんだが……」

「……ぶっ殺されたいのか?」


 戻ってきた今村は絶賛不機嫌だった。先の魔王軍の比ではない程町を跡形もなくそうかと考える程だ。


「この図書館の本は……サーシャの能力に依存してその形を保ってるんだ……その権能の範囲外になると自動で図書館に戻されるから……」

「……壊すか。この町……更地にしてやる……瓦礫も残ると思うなよ……」


 黒い瘴気が音を立てて今村の周りに現れ、近くの物を呑み込んで行く。それを見て今村の作った食事を摂っていたクルルもやるなの? という顔をして立ち上がった。


「ま、待ってくれ……俺も、詳しくは図書館の仕組みについて知らなかったから、悪かったと思ってる! 他のモノなら何でも渡す!」

「要るか。死ねよ。」

「ま、待って……私が、何とかする……」


 図書館兄と同行して今回の礼を言いに来ていたサーシャが今村と兄の間に割り込んでそう言い放つ。


「……できるのか?」

「よ、要するに……私が付いて行けば、問題ない……」

「サーシャ!?」

「この町の為……仕方ない……」


 視線がクルルの食べている物に向いている気もするが、それでも図書館兄からすればその申し出は本末転倒だ。


「お前……それは……町の為にお前が犠牲になるなんて……!」

「でも、他に手はないでしょ……?」

「…………なの……」


 食べ物、盗られそう……と感じたクルルはサーシャから少し食事を遠ざけて自らの陰に隠しつつそれを食べる。


「サーシャ、お前……食べ物に釣られてるってことはないよな……?」

「な、ないよ? 私は……町が、好きだから、その、行こうって。」

「サーシャ……お前、マジかよ……」


 コントを見ながら今村は混沌のような瘴気を収めて自らも食事を摂る。その干し肉は【炎玉】で炙られると得も知れぬいい香りを醸した。


「……付いてく。」

「……飯なら俺が美味しいの作るから……材料が何なのか分からないけど……」


 妹の初めて見る食欲に何とも言えないような顔をして図書館兄はそう言うが、今村は一応事実を答えておく。


「材料は魔族領の入り口付近にいる草食動物……確か名前はライノデヴィルとか言ってたな。乱獲したから絶滅危惧種だと思う。後、それにソルビットを添加して燻して色々した。」

「……狩れないだろ……」


 確か人語を話し、魔術を操ることもできる猛獣だったはず。目の前で一口を交渉をするサーシャ超可愛いと思いつつ兄は断腸の思いでサーシャの同行を許すことにした。


「俺も……」

「兄さんはこの町の復興があるでしょ……? 私が帰って来た時、故郷がないのは嫌よ……?」

「くっ……イマムラ、さんと言いましたね?」

「イマムラ=サンではないけどな?」

「イマムラさん……サーシャのこと、よろしくお願いします……特に、食事バランスのことをよろしくお願いします……! 後、手を出したら俺の人生をかけてあんたを殺す……」

「ん。そうか……まぁ手を出すつもりはないが、その前に殺しておくか……」


 何の気負いもない言葉と手に握られる刀を見て兄は引き攣った笑みを見せる。


「いや、手を出さないなら、いいんですが……」

「殺しに来る前に殺すべきだろ。大体、お前は報酬について詐欺るような不誠実な奴だから死ねよ。」

「あ、いや、ちょっと……謝ります。妹を頼みました……」

「ちょっと?」

「深く陳謝します。」


 土下座されたので今村は一先ず足蹴にすることで許すことにした。


「食事バランスねぇ……正直俺、【悪魔王】とか言うのになってからは魔力から【玉菜】(キャベツのこと)とか【玉葱】ならいくらでも生み出せるようになったんだが……他は無理っぽいんだよね……」

「まおーになってたなの!?」

「ん? 悪魔王。魔王じゃないよ。」

「……じゃあいいなの。」


 それでいいのだろうか……単純な魔王より悪が付く分マズイのではないだろうかと図書館兄妹は思ったが、町が滅びる可能性が非常に高まったのでサーシャは移動を決意した。


「さよなら、兄さん……ところで、イマムラさん……お腹空いた。」

「……図々しいな……別にたくさんあるからいいけど……」

「全っ然別れを惜しむ気も食欲を隠す気もないなサーシャ……」


 超マイペースな妹を見て溜息をつきながら今村たちがこの町を出て行くまで図書館兄はずっと同行し、そして今村が魔都を目指すために町を出て行ってからもその姿が見えなくなるまでずっと見送り続けた。











「……この抉れた地面を進めば魔物が少ないみたいだね……」


 魔族領に居たシラヌイ一行はやっとの思いで魔物を退け、魔物の少ない道を歩んで魔族領のかなり深い所まで移動していた。


(……ご主人様が、気性の荒い生物を殺して回ったんだろうなぁ……)


 アシュリーはそんなことを思いながら歩き続ける。勇者たちやルナール、ローナ以外が疲れている中でシラヌイは全体に告げる。


「でも、ここからはこの道を進むことはできない。……勇者として呼ばれたから分かる……魔王は、こっちにいる。」

「私も、感じます……」


 シラヌイの言葉にシロヤマも同意する。武闘家は不敵な笑みを浮かべて拳を合わせた。


「ふっ……腕が鳴るじゃないさ。」

「そうは言うものの、あなた一番アシュリーちゃんのお世話になってるじゃないですか。心配ですよ?」

「なっ……そりゃ、前衛だから仕方ないだろ!」


 勇者たちが話している間にルナールやアシュリー達も風に乗せて密談をする。


「大丈夫ですか?」

「……クルルちゃんの向かってる方面は曲がってるから……この人たちの向かった先の方があるじたちの向かう地点に近いと思う……」

「そうですね。追いかけるよりは遥かに近いかと。」


 底辺の長い三角形のようになっている現状から、3人は魔王が座すると言われる魔都を目指して移動を決定し、勇者たちとの同行を決める。


「あの、そっちは大丈夫かな? ここで分かれるなんてことになると僕らはとても困るんだけど……」

「シラヌイ君……アシュリーちゃんたちにも都合があるんだからそういう言い方はしない方が……」


 シラヌイの言葉にシロヤマが窘めるようにするもその目は同行を願っている。それらを受けてアシュリーは頷いて答えた。


「私たちも魔都に行きます。そこまでご一緒させていただきますよ。」

「そうか! よかった。」

「正直、アシュリーちゃんたちなしで俺らが魔族領で生きていける気がしないからな……」

「うふふ……最初、魔王なんて俺一人で倒してやるって言って王都を飛び出した人の台詞とは思えないね?」


 破顔する勇者たち。それを見てアシュリーは胸が痛んだ。しかし、それは一切表には出さずに困ったような笑みを浮かべておく。


 魔族領の空はつねに分厚い雲に覆われているが、今日の空は一層暗いものだった。




 イマムラ ヒトシ (17) 魔  男


 命力:10290(前回+4)

 魔力:10337(前回+3)

 攻撃力:10346(前回+2)

 防御力:10254(前回+2)

 素早さ:10262(前回+1)

 魔法技術:12339(前回+3)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【不羈ふきなる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【薬師】


 現在所持金…200万G

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