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図書館にて

「うぐ……はっ! サーシャは……」

「私は大丈夫よ、兄さん……」

「奴らは……?」


 そんな音をBGMにして今村はご満悦で物語を読んでいた。魔王軍とかなんとかいう奴らが帰った後、お礼をしたいと言われて物語を読ませてほしいと言った今村は現在、久し振りの読書タイムだ。


「あの人が追い払ってくれた……」

「……あいつがか……? 読んでいる本が変わった以外には全く動いてないように見えるんだが……」

「……本を戻すついでに、助けてくれたみたい……」


 そんなついでで倒す相手ではないのだが……という視線で今村を見るが今村が応じることはないと先程の展開で分かっているので黙って礼を言えるタイミングを待つ。


「……ん? 何だ? …………げ、俺、そっちの趣味はない……」

「違う! 礼を言おうとしただけだ! サーシャを助けてくれたらしいな。感謝する!」

「……サーシャ…………?」

「あ……私のこと……」


 今村が誰だ? という顔をしたので傾国の美少女が小さく手を挙げて名乗りを上げる。それを見て今村は驚いた。


(うわ、ビックリするくらい可愛いな……)


 だが、助けたと言われても思い当たる節がない。しかし、向こうが勝手に恩を感じているのだから売っておいて損はないと少し考えてピンと来た。


「あぁ、助けた……? もしかしてエスカトーリュ起動術の魔学的解釈法の本の精霊か何か……?」

「……さっき、話ししたよね……?」

「さっき話した……? あ、司書さん? あぁどーもどーも。先程は助かりました。この本面白かったです。これの続きはありますか?」

「……ごめんなさい。今、読んでるの……」


 今村は笑顔で舌打ちしかけた。好感度メーターが嫌いレベルに一瞬で移動してしまったのだ。


「明日までに、読み終えるから……それまで別の本で我慢してほしい……」

「……別の本は?」

「英雄物語……魔族に文明をもたらそうとして非業の死を遂げた人の話……文体が真面目じゃないから……私はあんまり……」


 目の前の存在がその本のことをどう思ったかはあまり関係ない。今、今村は本に飢えているのだ。


「恋愛は?」

「……ドロドロしてるけど、あるよ……」

「ドロドロしてるのがいいんじゃねぇか。」


 破顔一笑。今村はその本を受け取りに行くために立ち上がり、本の場所まで移動する。


「えっちぃから……あんまり、人前じゃ読まない方が良いよ……?」

「知るか。こちとら人外じゃ。む……その前に昼食にするか……?」

「サーシャ……あんまり男と話すのは良くないぞ? うっかり惚れられるとどうするんだ……」


 はっとした顔でサーシャは今村を見て口の中に涎を溜める。


 今村は、少し遅めの昼食を開始しようとしていたのだ。視線を受けて挙動を止めると今村は尋ねる。


「……あんだ? 飲食禁止? ……あんたは食べてたのに。」

「一口……」

「……干し肉食ったのに……まぁいいよ。賄賂とでも思うよ。」


 【鑑定】で見て食べられると判断された何か良く分からない植物の茎から【水玉】で水分を吸い取り潰して練って固めて作り上げた食べ物に、干し肉を戻してミニスラ醤油と昆布出汁の素を足して炙った物をサーシャに少しだけ渡す。


「むふー……」

「食ったから俺がここで飯を食うのも認めるんだよな?」

「サーシャ、だから人から食べ物を貰うなと……」

「美味しいから仕方ない……」


 叱りつつもそんなサーシャ超可愛いと思っている兄たちのことを放っておいて食事を摂ってから今村は尋ねる。


「そう言えば貸し出しはできないんだな……」

「? 勿論……」

「だよなぁ……まぁ回復したからいいか。」


 読書欲は少し納まった。この本のシリーズを読んだ後はここを出ても問題はあまりないだろう。


「んー……エスカトーリュ起動術の魔学的解釈法で読書欲の一部を納めたことでその内容を強く覚えてしまった……正直、面白くない……」

「じゃあ。これで……」


 サーシャは今村から離れて兄の下へと移動する。まだ本を見て悩んでいる今村に一瞬だけ優越感を感じた兄だが、目の前の存在は一向に気にしていないので微妙な顔をして去って行く。


 その日の夕暮まで今村は読書を途切れさせることはなかった。










「なのー……さびしかったなのーあしたは、ついてくなの……」

「……邪魔はするなよ?」


 宿に戻るとじっとしていたクルルが勢い良く飛びついて来た。今村はそれを避けて足をかけて転ばしてから何で……? という顔をしつつも普通に戻って来たクルルを受け止めて撫でる。


「えへー……」


 機嫌が直って来たので撫でるのを止めてベッドに腰掛けた。ふと外を見ると何やら立派な建物が炎上しているが今村には関係がない。


「なの? あ、もえてるなの。」

「そーだな……ここまで延焼はしないと思うんだが……いや、まぁ【玉壁】の中で寝るし延焼して来ても問題はないんだが……」


 今村の後を追ってとててて……と歩いてベッドに腰掛けたクルルも建物の炎上に気付いた。だが、彼女も今村に慣らされているので無視する。


「……図書館は結界あったし、大丈夫だろ……ついでに誰かに読まれて盗られないように続刊には【玉壁】張ってあるし……」

「なでてなのー……」

「ん? ……別にいいけど。」


 撫でられると嬉しそうにするクルルが今村の胸板に顔を埋めているので、今村は少しショックな映像を確認をしてみた。


「【目玉】集合。整列。」


 床一面に並び、入りきらなかったものはその上に立ち並んだのを見て今村は流石に引いた。


「まぁ自分がやったことなんだけどな……これと王都に置いてきた分が15対。帝都に置いてきた分が8対……まぁ端数みたいなもんだしいっか……」


 一つ一つ数えるのも面倒なので今村は計算する。


「普通の目玉が直径5㎝としてこの部屋が4×4M、ベッドが約1m50㎝の2M、机と椅子が50×60㎝として……一面で5080くらい……大体1万ちょっとってところか……まぁそんなもんだな。俺、優しいから無差別に抉るとかしてないし。」


 そう言いつつ今村は【目玉】を解除して収納する。


「最近は技能持ちでもない限り【目玉】の回収もしてないからなぁ……時々酷使の所為か知らないがロストするし。」

「なの?」


 何の話? とクルルが顔を上げるが今村は答えずに横になった。


「もう寝る。」

「なのー」


 じゃあクルルもーとばかりに一緒に眠りに就く二人。【玉壁】を展開しクルルの魔力で新たな風、空気を生んで荷物などの準備も万端にしてから眠る。


 火の手は、すぐそこまで来ていた。






 翌朝、浮遊する球体が現れ、ベッドと床の一部、それに荷物がある状態で上に眠っている人が2人いる状態で町の中で騒ぎになる。


「……んっ……あぁ……ふー……ん?」


 今村が気付いたのはそれからしばらくして包囲されていることを知り、昨夜の状態を思い出す。


「……なぁの~……?」

「ここまで延焼したのか……やるな火。」

「あっ! おへやがなくなってるなの! ……でもごしゅじんさまいるからいいかなの。」


 外では何か言っている。しかし、騒音は防いでいるので何も聞こえない。そして今村は【玉壁】を移動させて図書館付近へと移動する。


「……まー武器持ってたし。何回か攻撃してたみたいだからいーよね。」


 何体か轢き殺したが気にしないことにして今村はクルルを連れて図書館に入って行った。




 イマムラ ヒトシ (17) 魔  男


 命力:10184(前回+8)

 魔力:10194(前回+7)

 攻撃力:10155(前回+6)

 防御力:10125(前回+4)

 素早さ:10104(前回+2)

 魔法技術:12212(前回+12)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【不羈ふきなる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【薬師】


 現在所持金…200万G

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