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行く先

「あー酷い目に遭った。」


 事件の翌日。今村は自分の体を見て呟く。


「……何か筋肉が減った気がする……」

「…………なの……? 何か、つかれたなの……」

「お、起きたか……じゃあ殴るぞ?」

「え? なのっ……」


 訳も分からないまま殴られたクルルは【玉壁】にぶつかって地面にずるずると落ちる。


「まぁ……結果的にステータスは上がったし、これ位で許してやる。」

「ゆ、ゆるされたきが……しない、なの……ぅえっ……」


 吐血している上呼吸音が変になっているクルルを見て今村はそんなに強く殴った気はしていないのだが……と思いつつ【癒玉】で癒してあげる。


「……いたかったなの。クルル、何でなぐられたなの?」

「昨日のことは覚えてないのか?」


 今村の質問にクルルは手を顎に当て、上を向きながら思い出す。


「……けーやくもどしてくれたことなの?」

「……それ結構前の話だが……ふむ。まぁ昨日のことを覚えてないならそれでいい。取り敢えず今日からは進むか。」


 覚えていないのであればそれでいいと捨て置くことにして今村はさっさと移動の準備をする。


「…………なの……」


 微妙に釈然としないクルルだったが、元々深く考えない性格の上、何となくいい気分だったので普通に今村に付いて行った。






 道中、今村はクルルと話しながら移動する。


「さて……何か変な技が出来るようになったんだよね。例えばこれ【玉食】」


 今村が口を開き、何かに喰らいつくかのような動作をすると目の前の木の幹が抉り取られたかのように消える。


「これ……何か捕食するみたい。今、喰った木が口の中のちょっと前にあるんだよね……説明が難しいけどそれを受け入れたら俺の実際の口に移動する感じ?」

「べんりなの。」


 クルルがもっともらしく頷きながら近づいてきた魔蟲を殺しておく。その辺の蟲がたくさん湧いてきたので今村も説明しながら惨殺することにした。


「後、何か急に色んな熟語のことを思い出した。例えば【玉風】。激しい風が吹くことなんだが……」


 目の前の虫たちは全て微塵と化し、死に絶える。


「……こんな感じ。後、【琨瑚】の刀も好きだったが……【玉鋼】。何で忘れてたのか気になるくらいこっちのことを忘れてた。」

「なのぉ~! かっこいいなの!」

「そして、キタミの野郎をぶっ殺してただでさえ強くなった俺の武器だが……刃物に関しては【抜けば玉散る】っていうのを足すと更に強化される。」


 急に頭に湧いてきた情報に今村は仮説を立てていた。以前、魔力と魔法技術のステータスが6000を超えた瞬間に【玉壁展開】を使って空を飛んで行ける気がした。そして実際に可能だった。


「……一定条件を満たすと強くなれるんだな……」

「なの。……そういえばクルルもきがついたらステータスがとってもあがってたなの。みてなの。」


 発情期何て書いてないだろうな……と思いつつ今村はクルルのステータスを見て呟いた。


「……【超越者】能力値を最強種のデフォルトに設定し直す……俺の【超理者】みたいなもんだな。」

「なの? おそろいなのー!」

「……これの条件は多分一定以上のステータスに達することかな?」


 呑気に話しつつ周囲に災害をばら撒きながら移動する二人。二人が通った後は地が抉れ、獰猛な動植物が激減し、異常な気配が残される。


「あー……にしても、本が読みたいなー……そろそろ、復讐劇をちょっとだけ小休憩してでも本を読まないと……世界を滅ぼしたくなるわー」

「なの……ごしゅじんさまがいうとじょうだんにきこえないなの……」

「まぁ実際に一部滅ぼしながら移動してるけどなー……」


 そろそろ非合法な手段に出てでも本を読みたくなって来始めた今村。この世界は異界の人々が来た際に【紙】の能力で至極上質な紙で本を作り、あるところには大量にあるのだが基本的には普及していない。


 そのため、一般人が娯楽の為に読めるような本などはないのだ。


「……何となくで行動すれば元の世界において俺は本屋に移動できる可能性が70%近くに上がってたものなんだが……クルル。寄り道するぞ。」

「なの!」


 歩きながら災害をまき散らす二人はそんなことをのんびりと言いながら人里を求めて移動を開始した。













「くっ……予想より、進まなかったね……まさか空にも敵が……」

「今日はここで【守護守屋】を形成します。皆さんはお休みください。」


 紛争地帯、魔族領。


 シラヌイたちと行動を共にしているアシュリー達はシラヌイの【火】の力と精霊使いの力で空を飛び魔族領を移動していた。

 ただ、問題として空を飛ぶ魔族もいた。彼らを撃退する役としてルナールと武闘家がその役を買って出てそれなりの距離を進むことは出来たが目標よりは進めていない。


「……アシュリーちゃんも寝た方が良いよ? 明日も早いんだから。」

「はい……」

「これからちょっとした会議だからそれが終わったら寝る。だからあんまり口を出さないでいいぞ?」


 シラヌイの言葉に頷くアシュリーを連れてルナールはローナと一緒に会議を開く。今村の入れ知恵でルナールが風を操ることで誰にも聞こえないようにして彼女たちは話を始めた。


「クルルちゃんが動き始めた。でも、何かフラフラしてる。」

「速度は歩く程度なのでおそらく現在も同行しているのは間違いないんですが……何を?」

「さぁ? あるじが考えてることなんてわかんないからなー……」


 そんなルナールたちを見ながらアシュリーは揺れていた。このパーティの居心地は、はっきり言って悪くない。快適で、自分も必要とされている。周囲も優しく、気遣ってくれていることがわかる。


 だが、これはおそらく破壊されるだろう。このパーティは絶対的なまでに強さが足りない。それぞれの特化は確かに素晴らしい物があるが総合力が足りないのは最近戦闘を始めたアシュリーですら分かる。

 人間領であればいいだろう。このパーティに勝てる者はいない。だが、魔族領となると話は別だ。下級魔族に手古摺り、進む距離を制限されているのに上級魔族、ましてや魔王と戦うには到底足りない。


 その上、大前提としてこのパーティの要は勇者であり、それは彼女の元主人の敵であることを意味している。あの人と戦うのは嫌だ。


(クルルちゃんが、ルナールちゃんと戦って……残りはご主人様に殺されるだろうな……そしてルナールちゃんもご主人様に殺されるんだろうな……)


 戦闘開始から真っ先に狙われる自分の姿が容易に思い浮かんだ。【守】の力を持つ彼女が守ってくれるかもしれないが、あの主人は全体に攻撃を掛けつつ5分程度で守れる範囲からアシュリーを外して殺しそうだ。


 やはり、裏切れない。離れられない。アシュリーはそんなことを実感しつつ眠くなってきた。


「聞いてないなー……」

「アシュリー様のおねむの姿……はぁはぁ……」

「お前本当にヤバいなー……アシュリーちゃん。ルナと一緒に寝よっか……」

「む、あなたが貞操を狙わないという「ルナはあるじ一筋だ!」……むぅ。」


 本日の会議はここまでのようだ。殆ど内容は聞いていなかったが、どうせ明日もある。解散後、アシュリーは眠気眼を擦りながら伸びをして酸素を吸うと就寝準備を始めた。




 イマムラ ヒトシ (17) 魔  男


 命力:10083(前回+83)

 魔力:10089(前回+89)

 攻撃力:10093(前回+93)

 防御力:10077(前回+77)

 素早さ:10063(前回+63)

 魔法技術:12088(前回+88)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【不羈ふきなる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【薬師】


 現在所持金…200万G


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