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宇宙航路は遥かにて  作者: 星川わたる
第1章 航路のはじまり
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第24話 理不尽による支配

 ぼくは高らかに宣言した。


「ははははは、そう、義勇団だよ、きみ。それと知って、どうするんだい」


 システム技師は、座席から落ちそうなほどのけぞっている。


「うわあ情けねえな。さっきはおれに盾ついたくせに、義勇団と分かったとたんにそうなる? もうおせえよ、お前。義勇団に向かって銃を撃ったんだぞ」


 痛めつけたいが、こいつは後だ。ここで傷つけると操舵席が汚れる。ほかに戦えそうなやつはいないか。そちらから処理する。


 操舵室内を見渡す。

 床に倒れた者、尻もちをついている者、席に座ったまま動けない者、立っている者は――


 ……ひとり、いる。


 ぼくからみて正面やや上、指揮台の女だ。船乗りの服じゃない、「TSL2198」の、おそらくは非合法の「乗客」。

 魔力が強いな、魔術師か。ちからとしては中程度。隣に男がいたはずだが、今は見えない。指揮台の下にでももぐりこんだか。

 こういう状況に慣れている……するとこいつは、男の護衛役かもしれない。

 非合法に宇宙を旅しようとする奴だ。なにかよくない事情を持っていて、かつ金も持っていたからこの女を雇って目的地まで守ってもらおうとした――というところか。


 女の引き締められたその表情、あれは「恐怖」じゃない。

 こいつだけ、恐怖に染まってない。


 ……気に入らない。


 ぼくは指で銃のかたちをつくった。

 魔術師らしい女に向ける。……動じない。


 ――バカめ。


 ひとさし指にちからを込めて……


――バシュ!


 女の服の肩に穴が開く。布地が飛び散った。


 なにが起きたか理解できない様子だったが、ひと呼吸おいて、女は絶叫した。


 赤い血を散らせて、姿勢をくずす。その苦悶の表情、操舵室の空気を震わす甲高い叫び声……ぞくぞくする。いい。すごくいい。


 ずいぶん無警戒だったな、お前。

 ぼくが銃を撃てないとでも? ばかにしないでくれ。


 「生体防護フィールド」さえつかえるぼくだ、指からビームくらい出せる。エネルギー・ビームなのか、レーザー・ビームなのかはわからないが。

 なにビームかわからないこれは、ぼくが生きている限り何発でも撃てる。


 女の絶叫にまけないよう、声を張り上げる。


「どうだ、これが本当の射撃だ。言っておくが、外したんじゃないぞ。すぐ死なれてもおもしろくないから、きっちり急所をはずしたんだ。おれがその気になれば、全員にこれを撃ち込める」


 こいつらの支配下から一転、ぼくの支配下となったこの操舵室は、もはや地獄のるつぼ。


「ほら、ほら、撃つぞ!」


――バシュ、バシュ!


 計器に当たらないように床や壁をねらい、傷をつけないよう出力をさげて連射する。

 悲鳴をあげてにげまわるバカ者ども。狂乱の牢獄と化した操舵室。


「どうだ、おれはいつでもあんたらを撃てる。だれも逃げられやしねえ。ここの支配者は、このおれだ!」


 射線を変えながら、撃つ、撃つ、撃つ。

 何人分もの悲鳴、人が転げまわる室内。ビームが縦横無尽に飛びまくる。


 これだ、これ――胸がすっきりする。気持ちがいい。


 この、抵抗できない人間がどうしようもなく強大なちからに潰されるところ、最高だ。逃げようにも逃げ出せない、ここはアリ地獄の底。


 ぼくに撃たれて絶叫していた女が、ぎこちなく左手を右肩にかざした。

 すこし光がでて……どさり、と指揮卓にへたりこみ静かになった。あれは回復魔法か、いいものを使えるな。


 痛みがなくなったようだ。しかし戦意もなくしたらしい。殺気もなにも感じない。


 一撃うけただけでこれか。戦闘には慣れていても、痛い思いをしたことがないな。これまで不意打ちばかりしてきたか、じぶんより弱い相手とだけ戦ったのだろう。

 悪いことじゃない。前者は戦術的に、後者は戦略的に高評価だ。じぶんが死なないように戦うのは、生きるための最善手なのだ。

 だが、ぼくに出会ってしまった時点で、そのどちらも崩れてしまった。あんたは、もう生き延びられない。


 ぼくは床に倒れた最大の罪人へ歩み寄る。


「いつまで寝てる、オイ!」


 わき腹を蹴ってみる。

 「船長」は、かすかに声をしぼり出した。


 頭をつかんで投げたせいか、怪我がやや重いようだ。いったん回復しよう。


「おーい回復魔法、やってくれ」


――バシュ!


 ぼくは言いながら、指揮台にむけ1発撃った。指揮席のあたりから、隠れている男の情けない叫びが聞こえた。


 しかし、女が出てこない。


「無視するな! はやく出て来い!」


――バシュ、バシュ!


 さらに2発撃つと、ガタガタと音がして、指揮台から女がはい出てきた。ぼくは「船長」を指さし、女に回復させるよう示す。


 女は腰が抜けているのか、這うようにして「船長」にたどりつき、すがりつくような体勢で両手をかざした。手からわずかに光がでて、「船長」は治療されていく。意外に時間がかかる。思ったより重傷なのか。


「う、うう……」


 「船長」の声だ。すこし落ち着いた声色。痛みがとれてきたらしい。


 女はしばらく治療をしていたが、やがて手をはなしてこちらを向いた。終わったようだ。

 手を払うように振って、女をどかせる。


 さて……


「立て」


 ぼくは「船長」に言った。


 しかし「船長」は身体を起こしたが、座り込んで立ち上がろうとしない。下を向いて荒い息をしているだけ。


 じぶんで起きれた。怪我は治っているはず。なのに、ぼくの言葉に従わない。


 ぐらぐらと、怒りが湧き上がってくる。

 ぼくのいうことをきかない。どうしてだ、どうしてぼくの思い通りにならないんだ。


 痛めつけよう。ぼくが感じた、怒りのぶんだけ。


 ぼくは副操舵席に歩み寄った。もはや席から落ちて床にいるシステム技師が、ばたばたと後ろに下がろうとする。


 ぼくはシステム技師に、片手をのばした。


「ナイフ」


 システム技師はぎょっとした表情でぼくをみている。ナイフは、まだ手に持っている。はやくよこせよ。


「ナイフ!」


 さらに手を突きだすと、彼はナイフをぼくに向けてきた。


「刃を向けるやつがあるか! 柄をこっちに向けろ!」


 システム技師はあわててナイフを持ち直し、じぶんが刃を持って差し出してきた。

 ぼくはそれを無造作に受け取った。彼は手を切ったようで、血がではじめた。歯をくいしばっている。

 痛いかもしれないが、よく味わってくれ。あんたは人を切り裂こうとしたんだ。あいてがどんなに痛いか、その怪我で勉強するんだ。


 向き直ると、「船長」はまだ床に座ったまま。もう怪我は治っているのに、まるでじぶんが弱者だとでもいわんばかりの態度。


 てめえのそういうところが、気にいらねえ。


 ぼくは「船長」の背後にまわり、しゃがみこむ。そのまま、背中の下のほうを狙って、刃を突き刺した。

 「船長」が汚く叫び、横に倒れこもうとする。ぼくは「船長」の肩を支える。倒れないように。倒れることは、ゆるさない。

 そのまま、ナイフの刃を右へ。刃物は使い方をよく知らない。とりあえず力いっぱい、グッグッと横に挽いていく。


 このくらいでいいか。


 一気に引き抜いた。声帯を潰したような音が「船長」の喉から鳴る。支えていた手を離すと、床にばたりと倒れた。

 だいじょうぶ、急所じゃない。まだ死なない。まだ死なせない。


「回復だ、急いで」


 そばに座り込んでいた女に、また回復させる。

 こいつなかなかいい腕をしている。この魔術師がいるおかげで、怪我をさせても治せるのだからありがたい。何回怪我をさせても大丈夫だ。


 治療がおわり、痛みのなくなった「船長」は床に手をついて身を起こした。

 ぼくはナイフを見せながら言った。


「立てよ。またやられたいか」


 「船長」はようやく、ふらふらしながら立ちあがった。


「誰が立てと言った!」


 横っ面を殴る。そんなにちからは込めてない。

 「船長」は大げさに横に吹き飛んだ。あのうごきは、じぶんでやっている。まだ弱者を演じている。


「床、ひざをつけ。両手を床に、頭を上げるな!」


 赤ん坊のハイハイとおなじ体勢。土下座をさせたいが、このあたりにそんな風習はない。「土下座」というものをだれも知らないから、せめて似たような姿勢をとらせておく。

 みっともない姿勢をさらすパワハラ船長をみおろす。なかなか気分がいい。

 よし、もうすこし遊ぼう。


 ぼくは背筋をのばし、高らかに告げる。


「通告する。あなたは、本船の乗っ取りを企み、あまつさえ操舵システムの設定を許可なく変更した。その行為は本船に重大なる危険をまねくものであり、私は、船長としてそれを看過することはできない」


 下を向いたままの彼の表情はみえない。


「だが、私は良識ある人間だ。もしあなたが私の言葉に従い、罪をつぐなうのであれば、これ以上いっさい傷つけないことを約束する。あなたに恩赦を与えるのだ。私に従えば、今回の件は不問とする。すべて、許す!」


 「船長」はぱっと顔をあげた。すこしずつひろがる希望の表情……現金なやつだ。


 ぼくは船長として、告げた通りにつぐないの機会を与える。


「まず、私の靴をなめろ」


 まるで時間がとまったかよう。「船長」は目をひらいたまま、動かない。言っていることが、わからないようだ。


「はやくなめろ。そうすれば許す!」


 ぼくは持ったままのナイフを振り上げる。

 「船長」はドタドタと腹ばいになった。ぼくににじり寄り、顔を靴に近づける。


 ぐっと湧き上がる不快感――


 そのままぼくは「船長」の顔面を蹴った。


「きたない! おれの靴をなめるな!」


 こいつの唾液など、想像しただけでも虫唾がはしる。

 汚い唾液、どこにも付着させたくない。


「おい、回復!」


 魔術師に命じて、顔面を回復させる。

 あまり強くは蹴らなかったから、回復はすぐ終わった。


「立て」


 「船長」はすみやかに起立した。

 ……こいつぼくより背が高い。ぼくがすこし見上げる体勢になる。


 イライラする――


「頭、さげろ!」


 ものすごい勢いで頭をさげた。ハゲた後頭部が、よくみえる。

 さて、船を乗っ取ろうとした罪、つぐなってもらおうか。


「ごめんなさい、と言え」


 命じる。正式の謝罪のことばじゃない、あえての「ごめんなさい」。どうだ、屈辱だろう。


「ごめんなさい……」


 情けない声。

 いい大人、それも宇宙船長がこれだ。世も末だな。


「許してください、と言え。言えたら許す」

「許してください」


 即答した。プライドもなにもない。こいつはもう、完全にぼくに屈している。

 左手の指を、拳銃の形に構える。「船長」の右耳を、擦過する射線。


――バシュ!


 耳をかすったビーム、情けない悲鳴をあげて床に倒れこむ「船長」。痛みに反応して声をあげたようだが、すぐ、ぼくを見あげた。まさしく、「どうして」という顔で。


「なんだ? 許すなんて言ってないぞ。てめえまだおれの前で生きてるつもりか」


 ぼくは指を真上にあげた。


――ドカン!


 閃光と、大音響。

 発砲はしていない。指先から光と音をだすだけの、こけおどしだ。


 だが、これをきいた全員が、叫び声をあげてドタバタ転げた。急にこの大音響は驚いただろう、閃光のおまけつきだ。

 尻を床についたままぼくをみあげる「船長」に、拳銃のかたちにした手を向ける。指先の狙いを、その眉間にぴったりと合わせた。

 なにか抗議したそうに口をぱくぱくさせる「船長」。


「さっきの狙い、見ただろう。きれいに耳の端だけかすめた、あれが偶然だとはおもわないよな」


 口をあけたまま、体にちからが入らないか、「船長」はうごかない。


「てめえ、見てるだけで気色悪いんだよ。居ちゃいけない」


 許すと言われたのに、言う通りにしたのに許されず、殺される。この理不尽、これがやりたかった。


「死ね」


 指先に、ちからを――


「待って――!」


 ……。


 だれだ、いまのは。


 女の声だった。

 操舵室出入口、だれかいる。指揮台の向こう側で目では見えないが、気配でわかる。新しいやつだ。


 こいつ、立っている。


「だれだ、発言は許可してないぞ。立ってていいとも言ってない。いまごろ来て、何するつもりだ。まわりを見てみろ、ここはおれの支配下だ」


 ぼくは大きな声で、そう言った。

 しかし「気配」はゆっくり移動してくる。歩いてくる。


 この状況で、止まらない。


 ――だれだ、この強いやつ。

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