最終話
その日以来、必ずといっていいほど下駄箱で待っている楠木の
姿を見かけるようになった。
「蛍…お前また?」
「違うよ…付き合ってないって………ただちょっと……」
「ん?」
事情を説明すると水戸から呆れるような視線で見られた。
「卒業までに惚れさせたら付き合うだと?そんなもん………まぁ
いいや。どーせ、それ賭けにもなんねーじゃん」
「それは分からないじゃん!」
「分かるよ。蛍はもう好きになってんだろ?」
「……うん」
それでも意地でも、すぐには付き合う事に賛成はしなかったの
だった。
これから毎日のように愚痴を聞かされるのだと思うと少しうん
ざりしたのだった。
だって、水戸にとっても惚れた相手なのだ。
目の前にいるのに手を出せない関係。
これはどうみても苦行でしかない。
「もしさ〜、楠木より俺が先に蛍が好きだって言ってたらどう
なったんだろうな?」
「たかちゃん?…どうしたの急に?」
「もしだよ…もし俺だったら、すぐに付き合ってくれたか?」
「冗談言わないでよ。たかちゃんは家族みたいなもんだし〜、
考えた事なんてないよ〜」
笑いながら話す月島は前のように明るくなった気がする。
少し前までは暗い顔した月島を見ていて辛かった。
それに比べて、よかったと思うべきなのだろうか。
「でもね……一番辛い時に側にいてくれたら、やっぱり違って
たかもしれないかな…」
「そっか……」
「うん」
期待できない架空の意見だった。
多分、これからもどんな時も、近くにいて、1番の相談相手な
のだ。
それはきっと変わらない。
次が、もしあったのなら…今度は俺が……
部屋に置かれた何度も見返した雑誌は今では少し汚れてカピ
カピになっていた。
そこに載っている水着に女優は月島に似ていて平凡な顔で、
だけどどこかホッとさせてくれる笑顔を持っていた。
下半身が男だとしても、想像の中ではいくらでもイける。
きっと、本当に男の写真でもイケる気さえしていた。
今も下駄箱で楠木と一緒に帰っていく姿を見送りながら水戸
は部活へと向かった。
「先輩、今日はうちによって行かないですか?」
「それって……やめておくよ」
「えーー、ちょっとくらいいいじゃないですかぁ〜、なら
先輩に家に行きたいです」
「まだ早い!」
「もう、ガード固いんですねぇ〜」
そう言いながらも嬉しそうなのはきっと間違ってはいない。
こうやって、また二人っきりの時間が持てると言う事がどん
なに大事かと言う事に気づけたのだから。
いつか、先輩が卒業するその日にはもう一回告白しよう。
そして、絶対にいい返事を貰うのだと心に誓うと楠木は月島
の手を、ぎゅっと握ったのだった。
「ちょっ…ここ、学校に近いからっ……」
「平気ですよ。俺は……先輩が好きだって気持ちに嘘はない
ですから」
真っ赤になって否定したいのに、手を振り払う事もできない
月島はそのまま繋いだまま家へと帰ったのだった。
「もう着いちゃいましたね……もうちょっと先輩と一緒にいた
かったな〜」
「もうっ……変な事は禁止だからね!」
そう言うと、月島は家へと誘ったのだった。
あの日以降キスと手を繋ぐだけで、その先には踏み込んでいな
い。
レイプまがいの行為のせいで事故にあったのが応えているのだ
ろう。
楠木も、それ以上は手を出してこない。
今更だけど、健全なお付き合いと言うのを始めるのも悪くない
かもしれない。
卒業の日まで、このままずっと。
あまりに健全過ぎて、腐女子の間では問題になるほどだったが。
それはまた別のお話し。
再び身体を重ねるのは卒業式の後…
三度目の告白を終えたあとになったのだった。




