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HARUMAREA  作者: 火束 大
第三章 『不義選定』
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第56話 『一日目夜③』


「さあ買った買った!! 今回も用意してんのは見目麗しい男と女だよっ。口調に難はあるけど慣れれば可愛く見えるようになる摩訶不思議さ! 勿論調教済みだから言う事はなんでも聞くよー! あなたの欲望を是非ぶつけてみてくれ!! でも買ったら返品不可だから壊れない程度に可愛がるのがオススメだぜ! さーあ買った買ったァ!!!」


「そこの赤髪の女めっちゃ可愛い! あれ! おれあれが良い!!」「やだあの男すっごく顔いいじゃないっ。超好みよぉ!!」「いやいや確かに赤髪もいいけど、それよりもあの青髪だろ!? 見ろよあのスケベな体つきをよォ!!! たまんねェー!!!!!」「あたしもめっちゃ好みィ!! こいつよりも金出すからあたしに売ってェ!!」「う~ん、赤髪か青髪・・・・・・迷うなァ」


「・・・・・・・・・・」


 ついに見つけたクソッタレ奴隷市場。中は想像以上に熱狂に包まれ、盛り上がりを見せていた。

 いるのはやかましく声を上げている客五人に、顔を俯かせて首と両手に鉄枷をはめられている女性二人に男一人の奴隷。

 そして・・・・・・、


「いいねいいね! みんな上がってるねェ! でもこれじゃ埒が明かねえから一人ずつ商品を紹介して、俺が言った金額から手を上げて出していい金額を言ってくれい!! まずはこの赤髪の女からいくぜ!? こいつの値段は・・・・・・フィムルクス金貨四枚からだッ!」


 この奴隷市場を開いている男、奴隷商だ。

 別に期待などしていなかったが、奴隷商は『怪魔(ダクストル)』ではなく、まぎれもない人間。

 本当に、人間が人間を売っている。


 視線を奴隷商から売られている三人に移す。顔に覚えはない。自分とユルフがファヲを離れてから数十年程が経っているため、正直知人かどうかも分からない状態だ。

 しかし、同郷の人間である事は確かなのだ。

 ・・・・・・昔は迫害されたものだが、もう長い時が過ぎたのだ。自分が『怪魔(ダクストル)』の汚い血が入っている同郷の人間だとは分かるまい。

 さっさと彼女達を助けて、自分がただの同郷の人間だと説明し、明日共にファヲへと向かおう。

 帰るべき場所に、一緒に帰るのだ。


「(よしぅ・・・・・・)」


 行動を開始しよう。

 客の「フィムルクス金貨六枚!」「フィムルクス金貨九枚!!」という耳障りな声を断ち切るように中心へと進んで行く。そのリフルを新しい客だと思ったのだろう。奴隷商は粘つくような笑顔を見せつつ、


「おっとぉ! これはまた可愛いお客さんが来たなァ。買い方を説明するぜ? まず、」


「結構ですなー。わうは、この市場に参加するためにここに来たわけではありませんからなー」


「はぁ・・・・・・?」


 不思議そうに首を傾げる奴隷商はまったく考えていないのか、否、考えられないのか。

 リフルが、この奴隷市場を潰しに来たと。


「(ッ・・・・・・)」


 頭が・・・・・・チリチリと。

 チリチリと・・・・・・痛い。


「じゃあさ? 何をしに来たんだい、あんたは」


「わうは・・・・・・」


 気付くと、やかましかった客の声も途絶えて全員がこちらに視線を集中させていた。そう、全員だ。

 俯いていた同郷の三人も、顔を上げてこちらを見ているのだ。

 その三人の表情はリフルが助けに来てくれたとは露程も思っていないのが丸わかりの表情であり、何も思案していない、期待していないとハッキリ伝わってくる。

 調教したと言っていたが、一体どんな調教を受けてしまったのか。

 きっと、リフルの想像を超えているのだろう。


 痛い。


 頭が・・・・・・痛い。


「あのォ。黙ってたら分からんのだけど。俺は何しに来たんだ、と訊いてるんですけど? なぁおい」


「・・・・・・わうは、お前のやっている奴隷商売を潰すために来たんですなー」


「——へぇ」


 頭痛に耐えながらここに来た目的を言うと、周りがざわざわとした囁き声で溢れ出し、視線が明らかにリフルを異物扱いする視線に切り替わっていく。

 なぜ、そんな目で見る。

 おかしいのはお前らなのに。

 悪は、お前らなのに。


「潰すねぇ・・・・・・俺に恨みがあるわけでもないだろ? 初対面だもんな」


「お前にも酌量があるかもですから問いますが、脅されてこんな事をやっているんですか?」


「俺の問いは無視かい。まぁいいけど。で、脅されてやっているか、か。何を想像してんのかは知らねぇけど・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「確かにこれは俺だけの事業じゃない。俺はただの仲介人。ある所からこいつら奴隷を仕入れて売ってる男さ。つまり」


 ——もう、分かった。

 つまりこいつは。

 この、クソッタレ野郎は。


「——自分で望んでやってるって事だ。この奴隷商売、超儲けられるからよ? 脅されてやってるなんてとんでもねぇぜ!!! アッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


「・・・・・・そうですか」


 痛い。

 チリチリが、ズキズキに。

 痛い。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・・!!!!!!


 どうして、こんな人間がいるのか。

 どうして、悪意が終わらないのか。

 人間とは。

 何を持って、人間と言えるのか。


「あ? なんだぁ? 具合悪いのかい?」


 それは、まるで子供のように。

 頭を両手で抱えつつ体を丸めたリフルは、荒い息遣いで何かに耐えるようにうずくまってしまったのだ。

 そんなリフルを見て、奴隷商が考える事は一つ。

 ここでこいつを徹底的に痛めつけ、二度と舐めた口を効かせなくする事だ。

 否、いっそ・・・・・・。

 そして、スッと、奴隷商はリフルを指さして——こう言った。


「はい皆さん! ここで朗報です! もしこいつを殺せた人はもれなく好きな奴隷一人を与えます!! 後処理はこちらでやりますのでご心配なくっ。あなた達はただ殺せばいいだけですのでどうぞやっちゃってください!!!」


 その奴隷商の言葉に一度場は静まり返るも、


『ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


 すぐに、熱狂が場を包んだ。

 そう、こいつらに倫理観などない。

 いかに自分がおいしい思いを味わえるか、それのみなのだ。


「おらァ!!」


 ドズッ! と。

 客の一人がリフルのわき腹に蹴りを入れて——。

 客五人による、壮絶な集中攻撃が始まった。


「死ね! 早く死ね!!」「くっそ光モン持ってくればよかったぜっ。ちくしょこれも全部てめぇのせいだ! 責任とって早く死ね!」「えい! 死んで! 早くあんたが死なないととられちゃうじゃない! 責任とれんの!? だからさっさと死になさいよォ!!」「あーもう! 足疲れちゃう! どうしてくれんのよ!? あんたが死ねばもう蹴らなくてもいいのに! ああああああああああああイラつくイラつく! イラつくぅ!!!」「殺すのもったいない気がするけどまぁいいや! オラ死ねよ! 金足らなくて困ってたんだっ」「殺すのは俺だぁ!」「あたしよぉ!」「俺!」「あたしだ!」「俺に決まってんだろ!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」


 止まない。

 止まない。

 止まない。

 暴力と暴言は降りしきる雨のようだ。

 リフルが死ぬまで、この暴虐という雨は決して晴れない。


「(ッッッッッ)」


 ——全身が休みなく蹴られ、殴られているというのに・・・・・・。


 リフルが痛みを感じているのは外的要因ではなく、それを圧倒的に上回っているのは・・・・・・。


 ここに来た時から発生している————頭痛だ。


「(ぅ、あぅうぅうぅうぅぅうぅうう・・・・・・!!!)」


 そしてすぐ収まったはずの尻の違和感。もはや気のせいではない。何かが突き破ってきそうな、恐ろしい強烈な予感・・・・・・!


「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」


「ぎ、ぁ・・・・・・あぁああうあああうああああ」


 ポタポタと、自分の口から漏れ出る涎が地面に染みを作り、涙も合わさって無様な絵が出来ていく。さらに血も混じり、誰にも理解出来ない何かが描かれる。


「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」


「————」


 あぁ・・・・・・。


 でも・・・・・・。


 この絵・・・・・・。


 ————綺麗な血の色が混じって、すごく心がときめく・・・・・・!



         『死ねェ!!!!!!!!!』



「———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————」


 それは、生まれ変わったような感覚。

 全身に広がるのは——解放感。

 今自分の中で確実に何かが——産声を上げたのだ。


 直後。


 ズルンッ!!!!!!!!


 と、リフルの尻の方の下衣を押し上げ、()()は出て来た。


『——!!?』


 誰もがそれに目を見張る。視線を上げ、それに目を奪われる。

 出て来たのはありえないモノ。少女から決して出てはいけない魔の証明。


「こ、これ・・・・・・」


 彼女を痛めつけていた一人の女性が、震えながら口を開く。

 禁断のモノに触れるように、ハッキリとこう言ったのだ。



「尻尾、だよね・・・・・・こっ、こいつ! こいつ!! 人間じゃない! 『怪魔(ダクストル)』だぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?!!?!!!?!!」



 瞬間だった。


 ヒュッ、とリフルから生えた尻尾——尾の先に黒い切っ先がある橙色の尾は今叫んだ女性に一瞬で肉薄すると、


「くかッ!!?!?」


 ズンッ! と、その黒い切っ先で女性の首を刺し貫いたのだ。


『!!?』


 絶命の一撃。まさか尻尾に殺されるなんて夢にも思わなかっただろう。

 だが、これで終わりではなかった。

 女性の首を貫いたまま尾は躍動し、意思を持ったように次の獲物を狙いだす・・・・・・!


「ひっ! くるげぶぁ!!?」


「ぉ!!?」


「ぶぁ!!?」


「ぁ!?!!?」


 逃げる暇もなく次々と的確に心臓、側頭部からの脳串刺し、首、心臓、と。

 間を置く事なく尾は一息で客五人を殺害し、ズルルルルルルル!! と素早く進んだ方向を後退するように戻り始め、ドサドサと命を失った客五人の体が地面に投げ捨てられていく。

 血に染まった尾。その尾はゆらゆらと揺れると——ズバババババババ!! と癇癪を起こしたようにその黒い切っ先で五人の死体を切り始めたのだ。

 飛び散る。

 飛び散る。

 飛び散る。

 血潮がそこかしこに飛び散り、うずくまるリフルの全身を血で染めていく・・・・・・。


「(こ、この女・・・・・・『怪魔(ダクストル)』だったのか・・・・・・)」


 もう商売どころではない。今すぐここから逃げなくては、と思うも奴隷商の足は動かない。動いてくれないのだ。

 視線を横に向けると、無表情だった奴隷三人もさすがにその顔を恐怖で歪めていた。


「(どうする・・・・・・どうする・・・・・・!?)」


 脳裏には延々と警鐘が鳴っている。この場を離れないと、自分もああなる死の予感。

 まさか、こんな事になるとは。


「——ぁあ」


 耳朶を打ったのは、熱い吐息と楽しそうな声。

 気付けば、死体と化した五人の客は見るに堪えない状態で横たわっていて、うずくまっていた『怪魔(ダクストル)』の女が顔を俯かせて立ち上がっている・・・・・・。

 両腕をダラリと下げているその姿は幽鬼そのもの。しきりにグネグネと動いている橙色の尾だけが生命力を感じさせる違和感。

 ここからこの女がどう出るか、嫌な想像しか浮かばない。


「やっぱりだぅ・・・・・・」


 そっとリフルは、黒の手袋に包まれた右手を自分の顔に持っていき、見つめる。

 そして周囲、死体を見回して頷く。

 実に、いい光景だ。

 ペロリ、と右手に付着している血を舐めてみる。

 美味しくはない。

 けれど、気分は良くなる。


「頭痛も消えたぅ。ふふっ・・・・・・ふふふ!」


 顔を上げる。

 目前には、決して許してはならない人間が硬直している。

 さっさと殺して、同郷の人達を解放してあげなくちゃ。


「ま、待てっ、待ってくれ! 俺、」


 ずぶりゅ!!!! と奴隷商に肉薄したリフルは右手を突き出し、彼の体の中心に右手を貫かせたまま、もぎ取った心臓を右手で握る。

 温かい。

 命の重さ、脈動が伝わってくる。そして本人から取ったのにまだ独りでにドクンドクンと動く心臓はどこか笑えてくる。

 簡単に捨てられるのも、また面白い。

 ぽいっ、と適当に心臓を投げ捨て、後退しながらゆっくりと、右手を引いていく。


「ぁ・・・・・・ぁ・・・・・・ぉ・・・・・・」


 ゆっくりなのは当然わざとだ。だって、その方が面白い顔が見れるのだから。

 口から逆流する血。もうすぐで死ぬと理解した弱弱しい目。死にたくないと涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪めている顔。

 その全てが合わさって、実に愉快な作品へと至っているのだ。


「ふふ・・・・・・ふふふっ! ふふふふふ!!!」


 右手が完全に奴隷商の体から抜かれる、と同時に体を横にそらすと。

 ドサッ・・・・・・とそれはもう簡単に、作品がゴミへと変化した。


「さぅて」


 ゴミは始末した。あとは、同郷の人達を助けるだけだ。


「みぅんな待っててぅ。今その邪魔な手枷ぅと首輪を外してあげるぅから」


 外すと言っても、自分の筋力で破壊するのだが、とリフルは同郷である三人の方へと歩み始める。

 その際に、ぐに、とゴミを踏んでしまうが、気にしないまま彼らに近づいていく。

 近づいていく・・・・・・が、


「・・・・・・?」


 彼らの表情は。


「ひっ、ひっ・・・・・・! 来るぅな・・・・・・来るぅなう・・・・・・!」


「おぅ願いぅ・・・・・・来ないでぅ・・・・・・!!」


「誰ぅか・・・・・・おかあ・・・・・・おとうぅ・・・・・・!!!」


 助かって喜ぶ顔ではなく、まるで自分を——化け物を見るかのような怯えた顔なのだ。


「・・・・・・・・・・」


 歩みを、止める。

 一人ずつ顔をしっかりと確認して、リフルはただ・・・・・・こう思案した。

 首を傾げて、子供のように思ったのだ。


「・・・・・・なぅんで?」




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