隣国の伯爵令嬢。 ただし、三女。
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「ふう、すまない」
「いえ、もう大丈夫ですか?」
額の汗をぬぐうミアナッハは顔をしかめ、深い息と共に頷いた。
「ああ。それにしてもあの男だな」
自身がどうやら過剰に苛立っていると気づいたミアナッハは苦笑した。
劣等種である人間など本来なら歯牙にもかけないミアナッハである。
平民や劣等種をわざわざ侮蔑することが自分の立場にいい影響を与えないと云う事はよく理解していた。だがひとたびウォーカーを目にするとたちまち血液が湧きたつのを感じるである。
「仕方が有りません、私も同じような感情を覚えますもの」
そう慰める声の主は、ライン・アイルハス伯爵令嬢だった。
蜂蜜色の茶髪は、動きやすい様に短くしてある。
冷たさを感じる美貌だが、人形めいたものを感じさせないのは同じように蜂蜜色の瞳がいきいきと輝いているからだろう。
しかし、今の彼女の表情はどちらかというと硬いものだった。
伯爵令嬢と呼ばれるように彼女は貴族の中でも爵位の高い家の娘だったが、彼女の実家はバルギニス帝国では無く、友好条約を締結している隣国のフロージア公国に仕えていた。
公国において武門の名家であるアイルハス家は同じく帝国の武門の名家であるオフレスト家と親交が深く、子女を相手の家に預けて一緒に教育を受けさせる伝統が有った。
元を辿ると帝国黎明期にその多大な功績から独立を認められた初代フロージア公爵に随行していたオフレスト家の分家である上、公国の歴代軍務伯を務める名実ともに名門であった。
その様な名門の次女であるラインは現在、オフレスト家にてミアナッハと共に教育を受けており、つい数日前より、この帝国士官学校に編入してきたのである。
「ほんとによく似ているわ…」
眉をひそめたライン嬢の呟きに残念そうにミアナッハも頷いた。
二人の周りにいる取り巻きの生徒たちも追従して頷いているが、本来の所、要領を得ていなかった。
彼らにしても他の貴族でさえ、汚らわしいとして近寄らない劣等種になぜ我々の主人格であるオフレストがいつも干渉しようとしているのか、分かっていなかった。
いつもなら気にも留めない人間種に。
それもいつも同じウォーカーと呼ばれている人物にだけ。
贔屓目から見ても干渉しているのはミアナッハであったし、幾度か口論から拳での闘争に発展したケースも有った。
そしてことごとくウォーカーからコテンパンにのされていたにも関わらず、視界に入ると冷静で貴族然としている姿が様変わりするのであった。
ミアナッハのいない所で彼らはいつも首をかしげていた。
一方、ミアナッハとしても彼らの感情は理解できるし、自分がアホな事をしているという自覚はあったが、これだけはどうしても感情的に許せなかったのである。
そして今、目の前でその感情を共有できる同志にやっと出会えたミアナッハは幼き頃のある事件を思い出していた。
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戦車が活躍するのはもうしばらく後になりそうです(^^;




