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笑う少年


―――――


ガチャリと閉まった扉。

横の窓から同じ課の職員にあいさつをしながらウォーカーが退室していくのが見える。

カールスは自分の顔がどんな形相になっているのか全く分からなかった。


頭を繰り返しよぎるのは先ほどまでウォーカーから聞かされた衝撃的な内容だった。


―― そもそも、この事件の主犯はこの県の領主、ヴェルカンなんです。

―― 彼は今度MSCの総裁選に出馬する予定だったらしく。


―― はい、あのMSCです。

――そこで、何やら自分の県に人間種が住んでいると示しがつかないそうで。根絶やしにするよう手下のモノに村を襲わせたんだそうです。


―― そういえば、ぼくは一回町の入り口の方にある詰め所に助けを求めに来たんですよ?

ただ、そこに居た憲兵たちは皆ヴェルカンと繋がっていたみたいです。

―― あと、最初、救援に駆け付けた憲兵たちもみんなヴェルカンの息が掛かってましたよ。


―― なんでそこまで知って居るかって? いやあ僕ヴェルカンの屋敷で直接聞かされましたから。

―― じゃあ、ヴェルカン達を襲った犯人を見たかって? まあ、見ましたよ。

―― 誰か。とは言いませんけどね。


―― どうやら、犯人は証拠や目撃者を一切残さないように使用人からコックまで一人残らず殺したようです。

―― どうやったかって? さあ、そこまでは。まあ、魔法が使われたのは確かでしょうね。


―― いやまさか、笑っていませんよ。

―― カールスお兄さん大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ?


混乱している頭に手を当て、個室を出る。

いつの間にか脂汗が頬をじんわりと流れていた。


「おい、大丈夫か?! 顔真っ青だぞ」


様子を確認しに来た同僚がビックリした声を出して駆け寄ってくる。

カールスの普通ではない様子にその場にいた誰もが何事かと振り返った。


よろよろと大部屋のソファーに腰を下ろし同僚から珈琲を貰う。

足元の震えが止まらない。コーヒーのソーサーがカチャカチャと細かく音を鳴らしていた。


「あ、ああ。大丈夫だ」

「んなわけあるか、何を聞いた? 確保するか!」

「いや!……いい。後でみんなに話すよ」


心配そうな表情の職員たちが周囲に集まる中、カールスはウォーカーの最後の言葉を思い出していた。


―― 僕ですか? 僕は軍に入ります。 



「……奴は10歳の子供なんかじゃない、人の皮を被った化け物だ」


珈琲の表面は絶え間なく、小さなさざ波で揺られていてカールスがどんな表情をしているかは分からなかった。最も映し出すまでも無かったが。








―――――


庁舎の玄関の扉を開け、衛兵に軽く頭を下げて外に出て行くウォーカー。

兄のキリクや保護した娘であるクロエが居る宿舎へと向かう道すがら、ウォーカーはカールスとの会話を振り返っていた。


「……ちょっとしゃべりすぎたかなぁ」

人知れず呟いたウォーカーは道端の石ころを蹴っ飛ばした。


最初は軽くヴェルカン達の事を話すだけに留めておく心算だったのに自分が思っている以上にしゃべってしまっていた。あれじゃあ、自分が犯人ですと言っているようなものだ。


どうやら自分はいつの間にかカールスの話術に引き込まれていたらしい。

……実際の所、彼自身の無意識の内にこれまでに起きた強烈な一連の出来事を少しでも誰かに吐き出したいと感じていたのかもしれない。


いずれにせよ、次会う時は用心するべきだな。

ウォーカーは遥か遠くの山々に落ちつつある西日に目を細め、そう心に書き込んでいた。



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