快速の箱
――――――
「大丈夫? 兄貴」
離れの地下に密かに作られていた牢屋。
地上の母屋自体は吹き飛んでいたが、地下にはそこまで影響が無かったようだ。
頭に血が上っていた時は辺り構わず、逃げまとう屋敷の使用人たちに片っ端から撃ちまくっていたが、
撃ち終わってから兄貴がまだ地下牢で囚われていた事に気付いてさっと血が引いたのは内緒だ。
崩れた石を退けながら牢屋まで滑り下りるウォーカー。
牢自体は複数の爆発による衝撃で鉄格子がゆがんでおり、10歳の子供には容易にすり抜けることが出来た。
暗がりの中キリクは既に目を覚ましており、その視線はしっかりとウォーカーを捉えていた。
「ああ、ウォーカー……?」
「大丈夫? 怪我してない?」
キリクを後ろ手で縛っていた縄をほどきながら様子を確認するウォーカー。
パッと見る限り激しい出血とか身体の損傷は見受けられない。
良かった、大丈夫なようだ。
「お前、どうした?」
助かったと縛られていた手を擦るキリク。
明らかに以前とは雰囲気の違うウォーカーにキリクは心配そうに尋ねた。
「大丈夫か? 気を強く持つんだ。な?」
目をパチクリするウォーカー。
そのままクスクスと笑いだす。
「なあ、大丈夫か?」
こいつは本気で気がおかしくなったんじゃないかと本気で心配するキリク。
……俺ですら気絶してしまった程のショックを受けたんだ。
あんな残酷なものを10歳の子供が見せつけられて耐えられるもんじゃ無い。
そんなキリクに安心してと笑いかけるウォーカー。
「大丈夫だよ、キリクお兄ちゃん。 僕は僕だから」
「……そうか」
その話し方は確かに今までのウォーカー。
キリクは心に引っかかるものをひとまず横に置くことにした。
「とりあえず、ここを出よう」
ウォーカーの差し出す手に掴まり、立ち上がるキリク。
ぎゅっと握られた5歳も年下の弟の手はやはり小さかった。
痛む身体を引きずりながら地上に出ると其処はただの瓦礫の山と化していた。
所々、火がチロチロと燻ぶっているだけで、豪華絢爛だったあの邸宅は何処にもない。
あんぐりと口を開け呆然と佇むキリク。
「なあ、何だこれ……」
「あは、ちょっと本気を出しちゃった」
小さく舌を出して、コツンと自分の頭をこずくウォーカー。
「……」
季節外れの冷たい風が辺りを吹き抜けた。
キリクの無言の圧力に耐えきれなくなったのか、ウォーカーが口を開く。
「あーごめんなさい! ちゃんと説明するから、取りあえず着いてきて!」
既に応援の憲兵たちが駆け付けてきていることは明らかだったし、この状況で発見されると面倒くさいことになるのは間違いなかった。
今は一刻も早く、この場を離れる必要があるの。
そう言うウォーカーは再び右手をかざし、一両の戦車を召喚した。
「はあ?! ウォーカー、お前魔法が使えるのか!?」
「それも後で、説明する!」
色々と質問したいことが山々だったキリクはウォーカーの切羽詰まった声に黙り込む。
耳を澄ますと確かに遠くから多くの馬が駆ける音が近づいていた。
突如、暗がりに浮かび上がってきたのは後部に張り出しのある砲塔、独軍からミッキーマウスと渾名されたBT-7快速戦車だった。
主砲45 ミリ、車体正面装甲15ミリ。避弾径始を取り入れた車体正面装甲は当時としては画期的であり、5000両以上も生産され、独ソ戦の初期において主力を担っていた。
騎兵部隊の支援や、長距離侵攻等を目的に開発されたこの戦車は装軌状態で時速50キロを叩き出し、装輪状態に至っては時速70キロを超えていた。
今回召喚されたこのBT-7は装輪状態。
馬に乗った憲兵たちに追いつかれてしまわない様、一刻も早くこの場を離れるためであった。
「さあ、早く乗って!」
「なっ、ちょ、待てよ!」
目の前に召喚されたこの得体のしれない箱。
一体何なんだと言わんばかりのキリクをウォーカーは押しやり、上らせ、砲塔のハッチから押し込む。
「今解説している暇ないから! すっごく揺れるから頭抱えてぶつけないようにね!」
そう言ってハッチを閉じるウォーカー。
真っ暗な砲塔の中、覗視孔からだけが外の様子を確認できた。
まあ取りあえず、状況の整理だ。
と、強引に砲塔内に押し込められたキリクは妙に落ち着いた頭で状況の整理を始めていた。
評価、ご感想お待ちしています!
戦車二両目です(笑)




