88ミリの弔砲
「なっ?! こんの化け物がッ!」
かなりの威力を持った魔法をしてもあの化け物は無傷。
そしてその召喚主は体中に剣が突き刺さって血が噴き出していても一歩ずつ歩いてくる。
余りにも異様な光景にその場にいた誰もが戦慄し、一歩後ずさる。
これを化け物と呼ばずして何と呼ぶか。
ヴェルカンは衝撃と恐怖をこの目の前の存在に抱いていた。
「うわあっつ!」
恐怖に耐えられなくなったのか、一人の憲兵がウォーカーに襲い掛かる。
逆手に握りしめてあった短剣は深々とウォーカーの頭に突き刺さった。
「残念、それじゃあ死なないよ?」
にも、関わらず笑って歩き続けるウォーカー。
その憲兵は恐怖のあまりその場に崩れ落ちてしまう。
誰も助けに行くことが出来なかった。
まるで、金縛りに有ったかのように動けないヴェルカン達。
ヒタヒタと自ら作る血だまりの中を歩き、ウォーカーはヴェルカンの目の前で立ち止まった。
「君たちがボクを生きて返すつもりが無かったように、自分も君たちを誰一人として生きて返すつもりは更々無いからね?」
その言葉に覚悟を決めざるを得ないヴェルカン。
しかし、彼は一人の父親としてまだすべきことが残っていた。
だが、何を言おうとしているのか、察知したウォーカー。
「大丈夫、君の家族だけじゃない。この屋敷にいる全員だから」
ヴェルカンの額に自分の額をピトッと押し付ける。
ニヤリと笑ったその顔は血が滴り、地獄から這い上がって来た者の様な形相であった。
膝が震え、汗が止まらない。歯がかみ合わず、カチカチとなっている、動機が抑えられない。
ヴェルカンはただただこの状況に恐怖していた。
そしてそれはその場にいた全ての人が感じていた。
一歩一歩後ろに下がるウォーカー。
彼は召喚したティーガⅠの横まで下がると履帯に手を乗せ口を開いた。
「じゃあね!」
ヴェルカンはその言葉を最後に、塵となって果てた。
もちろん部屋の隅でまとまって必死に魔法障壁や結界を展開していた、
ヴェルカンの妻や子供たちや使用人諸共。
その部屋にいた全員が等しく平等に享受していた。
88ミリの榴弾はヴェルカンの眼前に着弾し炸裂。
その爆風と火炎は瞬時にヴェルカン達を焼き尽くす。
背後に潜んでいた家族や使用人、憲兵たちも榴弾の弾殻によって文字通り引き裂かれていった。
その衝撃波は部屋の四方すべてに向けられ、その部屋に有った全てと壁や天井を木端微塵に吹き飛ばし、屋敷の一部を爆炎で包み上げる。
その轟音は流星祭で賑わう町にまで到達していた。
そしてその轟音は何度も、何度も、何度も、確認された。
―――
しばらくして文字通り瓦礫の山と化した屋敷。
もはや以前の名残を示すものは正面の高い門のみとなっている。
まだ、テラテラと残り火が燻ぶっていた。
カラカラと何かが夜風で吹かれる音以外はティーガーⅠのエンジンが静かに唸るだけだ。
ウォーカーはティーガ―の車長ハッチから上半身を乗り出し、周囲を見渡す。
高台にあるこの屋敷跡からは町を一望する事ができた。
そして、赤く染められてる森林も。
駆動音と共に旋回する砲塔。
最大仰角まで上がった砲塔は森林の中で今も燃えているであろう村を指し示していた。
星降る空の下、響き渡る二発の弔砲。
それがせめてもの、村の皆に対する手向けだった。
評価、ご感想お待ちしています!
やっと、戦車を登場させることが出来ました(笑)




