召喚の魔法
急激な魔力放出と共に横にかざされた手。
一体、どんな魔法が出るかと身構えたヴェルカン達。
憲兵らは何時でも魔法障壁の展開が出来るよう杖を構えていた。
だが、何も現れることなく魔力放出は終了する。
所詮は子供だましかと内心ほっとしたヴェルカン。
ウォーカーを捕らえよ。と、怒りと共にこぶしを振り上げた。
その瞬間、耳に障る破砕音と共に砕け散る庭のガラス戸。
そして暗闇から何か巨大なものが部屋へと飛び込んでくる。
とっさにテーブルの陰に飛び込むヴェルカン達。
部屋中を悲鳴と煙が覆う。
「大丈夫ですか! 領主殿!」
「ああ、大丈夫だ」
突然家が破壊されたことで衝撃を受けるヴェルカン。
何だ?! 魔法による攻撃なのか?!
部屋に飛び込んできた物を凝視する。
細長い筒、角ばった箱、そして何かが唸るような音と辺りに広がる煙。
どれも今までの魔導士としての知識の中に含まれていないものだ。
「先程の魔力放出は召喚魔法だったのかッ!」
「そうだよ~?」
緊張感の漂うこの空間でただ一人、のほほんとした表情で立つウォーカー。
だが、その眼が全く笑っていないことは誰が見ても一目瞭然だった。
ウォーカーによって召喚されたのは第二次世界大戦中、
独軍の強力な重戦車として連合国相手に恐慌まで引き起こしたティーガーⅠ重戦車だった。
全面装甲100ミリ、砲塔前面は120ミリという重厚な装甲、高射砲を元に設計された88ミリ砲、通称アハトアハトという強力な主砲を持つこの戦車は陣地突破のための攻撃用兵器として開発された。
その圧倒的な性能は大戦中、この戦車に対して正面から渡り合うことの出来る戦車はほとんど存在しなかったことが明確に示している。
天井のシャンデリアの光を受けて鈍く光る砲塔。
その車高ゆえに部屋には投入できないティーガーⅠはガラス戸を外からぶち破り、そのアハトアハトをヴェルカン達に向けていた。
見たことも無いモノが召喚され、衝撃を隠せないヴェルカン達。
ただし、この状況で召喚されたものが無害であるはずがない事はよく理解していた。
何か行動を取らせる前に沈黙させなければと、事態に駆けつけてきた他の息のかかった憲兵やお抱えの衛兵たちに命令を下す。
「あの得体も知れないモノを攻撃せよ!」
「衛兵たちはあのガキを殺せ!」
「「「了解!」」」
一斉に杖を構える憲兵たち。
仮にも帝国の有する憲兵や衛兵たちである。
彼らの能力は十分に高かった。
ヴェルカンでさえ、無能では無く魔術師としての能力は十二分に持っていた。
そんな彼らの様々な攻撃魔法や飛び道具が最大限の攻撃力でティーガⅠとウォーカーを襲う。
激しい衝撃の音や爆発で部屋全体が霞んだ。
「……やったか?」
誰かの発言に答えるかのように何処からともなく響く何かの駆動音。
そして、ウォーカーの声。
「残念、殺れていませんよ」
煙が晴れると其処には体中に破片を突き刺したままヴェルカン達に歩み寄って来るウォーカー。
そして、何の変化も見せないティーガ―だった。
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