狂気
※今回、大変残酷な描写が行われています。
特に食事を前後にした方は読まないことを推奨させていただきます。
また、特定の文化等をないがしろにする意図は毛頭ございませんのでご了承ください。
では、どうぞ。
――――――
お腹いっぱいになったウォーカー。
いつの間にかテーブルの人たちだけで無く、使用人達からも注視されていることに気付き、頬がカアッと熱くなる。
直ぐにでも二人に会いたいと言わんばかりだったのに、料理を口にするとお代わりのパンまで貰うほどに夢中になるなんて。
実際の所、周囲の視線の意味は違っていたのだが、ウォーカーはそう解釈し10歳の子供らしく恥ずかしがった。
「満足していただけたかね?」
にこやかにウォーカーに語り掛けるヴェルカン。
「はい! おごちそうさまでした! 有難うございます」
ご馳走してもらったらちゃんとお礼を言う。
これはカレンからウォーカーが教わった大切なことだ。
だが食事をしてもウォーカーの思考は鈍いままのようだった。
「じゃあ、君のお母さんとお姉さんに会わせてあげようか」
遂にこの時が来たと言わんばかりの表情をする、テーブルに着く面々と壁際の使用人達。
しかしウォーカーにとってはそんなことが気づかないほどに気分が高揚していた。
やった、早く! 早くママとお姉ちゃんに会いたい!
その思いだけがウォーカーの小さな胸の中に有った。
コンコンとノックされる部屋の奥のドア。
全員の視線が扉へと向けられる。
ガチャリと扉を開けて入って来たのは使用人が4人。
ただ、サービスワゴンに何やら大きな料理を二つ乗せて運んできている。
料理の上にはカタカタと音を鳴らす銀色のドームカバーが被せてあった。
何故、料理? と疑問に思うウォーカー。
そんな疑問をよそに使用人達はテーブルの横にワゴンを止めた。
すると、ヴェルカンが少年の様にワクワクが止まらないといった顔で口を開いた。
「なあ、ウォーカー君」
「はい、なんですか?」
突然の呼びかけに脇のワゴンから正面のヴェルカンに顔を向き直すウォーカー。
その時、彼はその部屋全員の視線が自分に注がれていることに気が付いた。
再び口を開くヴェルカン。
明日の天気はどうなんだろうね? と、でも言う様な軽い調子。
その言葉はヴェルカンの口からさらりと流れ出た。
「お母さんとお姉ちゃんは美味しかったかね?」
ウォーカーの時は完全に止まった。
顔の表情も、思考もすべて。
いくら度重なる衝撃的な出来事で思考が鈍くなっていたウォーカーと言えども、
その言葉の意味は単純で心が理解したくなくても理解できた。
カチャリと横で料理の蓋を取られた音がする。
そして再び辺りに漂う、先程食べた肉料理やスープと同じ香り。
ダメ、決して見てはいけない、それを見たら全てが終わる。
そう頭では全力で警報を鳴らす悲鳴じみた彼の意志。
しかしウォーカーの首は油の切れたロボットの様にギギギと横へ回転していった。
そこに有ったのは先ほどの肉料理とスープだった。
――余りにも変わり果てた二人がその芳香を漂わせていることを除いては。
その腕の一部は、切り取られていた。
―――――ぼくが食べたのは。
その先を考えるまでも無く、ウォーカーの身体と精神は非常に、正しく反応した。
えづく声と共にウォーカーの口から溢れだし、止まらない吐瀉物。
先程までウォーカーが美味しそうに食べていたモノの成れの果てだ。
今ではその匂いすら、吐き気をもたらす原因にしかならなかった。
「「「「「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」」」」」
ウォーカーの脳内で共鳴する哄笑。わけのわからない思考。
正に彼を除く部屋にいる全員の笑い声がウォーカーを駆け巡った。
「どうだね?! 自分が会いたがっていた二人だぞ! 涙の再開と言ったらどうかねぇ!」
「ぜひ、そのお味を教えて頂きたいものですね」
「これだから人間種は笑いに絶えんのだ!」
「キャッキャ、キャキャッ!」
「坊主も美人な二人を食べてさぞ満足だろうよォ!」
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
――ぼくが食べたのは。
頭の中でウォーカーと同じ声をした誰かが呟く。
「そう、ママとクナメお姉ちゃんだ」
その時、
ブツッと頭の中で何かが切れる音が、
確かに、
聞こえた。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
椅子の上で立ち上がり、目を見開くウォーカー。
虚空を見つめ声にもならない声でただただ絶叫した。
その様子を見てただただ愉快だと言わんばかりに笑い転げる顔ぶれ。
シャンデリアの明かりで照らされる彼らの表情は悪魔と言って差し支えることが無かった。
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