浄化という言葉
更にがなり立てる声が上から聞こえる。
それを遮ってウォーカーは尋ねた。
「ねえ! 僕のお母さんとお姉ちゃんは!?」
隠れていたという二人は無事なのか。ウォーカーの胸は焦がれるようだった。
黙する憲兵。その答えは行動で示された。
先程から誰かと連絡を取っているらしかった憲兵は突然ウォーカーの後ろ手を掴む。
「おら、立て!」
半ば強引に立たされたウォーカー。
「今から合わせてくれるそうだ」
「ほんと! ありがとう!」
その言葉にウォーカーは素直に喜んだ。
それと同時に先程から少しも動かなかないキリクの様子を心配していたが。
牢屋から出され、階段を上がる憲兵に引きずられるようにして連れられて行った。
カツカツと歩く憲兵の後ろを歩く。
周りを見渡すと何やら立派な壺や絵画が飾っていてココの家は立派なのかな?
と、何故か自分の置かれている状況にも関わらずあんまり関係のないことを考えていた。
いろんなことが立て続けに起こっているウォーカー。
既に思考はロックしているようなもので頭はボーっと、心は鈍くなっている。
「おら、ここだ。入れ」
しばらく立派な廊下を歩いていると憲兵は何やら大きな扉の前に立ち、扉を押しやった。
「失礼します」
先程までとは打って変わった丁寧な声に驚いているウォーカーを憲兵が部屋に押しやった。
背中を押しやられて部屋によろめきながら入るウォーカー。
顔を上げると其処は明るく照らされた広いダイニングルームとなっていた。
いきなり明るくなった視界に目を細めながら周りを見渡す。
目の前には長く、大きいテーブルがあり、両脇には多くのエルフが腰かけていた。
村長位の年齢の大人からキリクと同じぐらいの年齢の子までいる。
そして全員の目がウォーカーに向けられていた。
その視線はどう見ても同情や憐憫と言ったものではなく、奇異なもの。
それはまるで時々町で見かけた見世物小屋。
それを見つめている人たちと同じようなものみたいとウォーカーは感じた。
「いやあ、大丈夫かね? 君がフロマージュ・ウォーカーかい?」
視線を浴びる居心地の悪さにたじろいていたウォーカーに話しかけたのは一番奥の席に座っている体格のいいエルフだった。
ざらついたような身のすくむような声。まるで本能的に拒否したくなるような声だ。
なんでこの人は名前を知って居るのかと疑問に思うことなく、ウォーカーは再び辺りを見回した。
「ママとお姉ちゃんはどこ?!」
席に着いているわけでもないし、部屋の隅に立っている使用人たちの中にもいない。
一体どこに居るのかと不安になったウォーカーは返事では無く、質問を返した。
「いや、まあ、待ちたまえ、すぐに合わせてあげるとも」
その男は安心するように、と努めてにこやかに話し、話し続けた。
「私の名はサイトキア・ヴェルカン。 帝国の名誉あるオルナント県領主をしている」
――ああ、この話は領主様も参加していたんだ。と、ウォーカーは淡々と理解した。
「そして、MSCと呼ばれる団体の副総長でもある。ああ、MSCと言うのは魔法を神の御業であるとする団体のことでな。そこの副総長をしているのだ」
えむ、えす、しー? どこかで聞いたことのある言葉だな。
記憶を探っていたウォーカーは昔、カレンから町に出るとき気を着けなさいよ、と言われていたことを思い出していた。
更に話を続けるヴェルカン。
相手が10歳の子供と言うことを全く考慮していないのは自分がただ話したいだけに違いなかった。
「――そして今度そこで総裁選が行われるのだ。まさか総裁に成ろうとする者の領地に人間種を住まわせるわけにもいかんだろう? それで、今回の浄化を行ったわけだよ」
幸か不幸か、この言葉の意味を正確に理解するほどの言葉の知識が無かったウォーカー。
だが、この人の話が終わらないと二人に合わせてくれないと云う事だけは理解することが出来た。
彼の関心はただ一つ、早くママやクナメお姉ちゃんに会いたい。
それだけだった。
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