歓迎の朝
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その日、数多の流星群がその星空を駆け巡った夜。
誰もが寝静まった、とある人間種が住んでいる村のある家の前に、一つの木編みのバスケットが、仄かな光と共に舞い降りてきた。
――――――
オルナント地方において、この時期の夜明けは早い。
昨晩の流星祭の後片付けの為に重い瞼を擦りながら玄関の扉をカレン・フロマージュは静かに開けた。
まだ彼女の小さい子供たちはすうすうと寝息を立てていたからだ。
外に出ると朝日のまぶしい光に目を細めるカレン。
彼女の鮮やかな金髪はその輝きを一層増し、彼女の若々しさを十分引き立てるものだった。
丸みを帯びた屋根に目を向けるとその上には風力発電用の風車と太陽光パネルが朝露にきらめいていた。
「あら?何かしら」
ふとカレンが足元に目を向けると其処には小さなバスケットが。
こんなもの置き忘れていったかしらと不思議に思いながら中身を覗き込む。
「まあ、赤ん坊!」
慌てて拾い上げたバスケットの中にはまだまだ幼い赤ん坊がすやすやと眠っている。
魔法の力なのか、バスケットにはうっすらと透明な膜がかかっていて中の赤ん坊には問題ないみたいだ。
フウと息をついたカレンはそのバスケットをもって再び家の中に戻っていった。
***
ここバルギニス帝国領オルナント地方は国境地帯が森林で覆われ、その合間に人間種の村々が点在していた。
また街道の一つが森林を横断しており、その先はアレマニア王国と繋がっている。
そしてその中間地点に存在するこの村々には時々、捨て子が置き去られることが有った。
その捨て子は往々にして貴族の愛人が身ごもった子や不義によって生まれた子が多く、その中には人間種とのハーフ、いわゆる混血の子も多くいた。
そして今回カレンが見つけた子はオッドアイ。
バスケットの質の良さから言って、貴族の下から生まれた子に違いないと、心に留めていた。
部屋に戻ると彼女の子たちが起き始めていた。
長男のキリクはまだ5歳。好奇心が一杯で何にでも興味を示す年頃だ。
カレンが何やらきれいなバスケットを持っているのを見て、好奇心が刺激されたのか、キリクは目を輝かせてベットから飛び降り、カレンの足元でバタバタとはしゃいでいる。
「ねえねえ、ママ! そのバスケットは何なの?」
「こら、まだクナメが寝ているでしょ、しーっ」
キリクの声の大きさに慌ててベットをみるカレン。
その視線の先にはもう一人、長女のクナメがすやすやと眠っていた。
良かった、ぐっすり眠ってる。
カレンはバスケットを抱えたまま、しゃがんでキリクに視線を合わせると、バスケットの中をそっと覗き込ませた。
「わあ!赤ちゃんだ!」
「しーっ、そうよ。あなた達の新しい弟よ」
バスケットの中を見つめるカレンの慈しむかのような目。
この捨て子を自分の子として育てるつもりに相違なかった。
「へぇーっ、ぼくのおとうと!」
「……にいに、うるさい」
ベットからよたよたと歩いてくるクナメ。
キリクの声にいい加減目を覚ましてしまったようだ。
「クナメ、みてよ!ぼくたちの弟だよ!」
クナメの不機嫌そうな声に構わず声をかけるキリク。
それは嬉しくって堪らない表情を見せていた。
「……おとうと?」
コテンと首をかしげるクナメ。
そんなクナメにカレンは声をかけた。
「こっちにいらっしゃい、クナメ。あなたの新しい弟よ」
とてとてと歩いてくるクナメとひょうひょう嬉しそうなキリク。二人とも私の大切な子供たちだ。
そして今日から新しい家族として、この子を迎える。
「ねえねえ、なまえはなんていうの?」
目を見開いてカレンを見つめるクナメ。弟が出来るということにびっくりしているのだろうか。
「そうね、名前は……」
赤ん坊の胸には一枚の紙きれが乗っていた。そしてそこには、赤ん坊の名前が。
――『ウォーカー』と、記されていた
「ウォーカー。――そう、ウォーカー・フロマージュよ」
「ウォーカー!」
同時に口にした二人の子供は、その名前を繰り返し口の中で呟いていた。
「ね、ウォーカー。あなたは私たちの家族よ」
バスケットを覗き込む三人。そしてその横をすり抜ける家政婦ロボッㇳ。
赤ん坊は未だ、すやすやと眠っていた。
こうして、西住・歩はウォーカー・フロマージュとして新たな世界に迎え入れられたのだった。
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