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語り掛けるモノ

 

 ……気づいたら歩は真っ暗闇の中にいた。


 あれは死んだな。ふと、冷静に思う歩。

 すると、ここは死後の空間なのか?よくわからないが、まあ仕方がないか。


 何も見えないし聞こえない。ただ、温かな感じがするこの空間は不思議と安心することが出来た。

 そんな空間にしばらく漂っていると、何処からか声の様なものが響いてくる。


 ――聞こえていますか? 私の声が。


「ええ、聞こえていますよ?」


 その優しげな声は聞く者を安心させる効果でもあるのだろうか。

 現状に対する不安や悲しみ等は感じることは無く、落ち着いて応答することが出来た。


 ――それは良かった。では、貴方に一つお願いしたいことがあります。


 唐突のお願いに何事なのかと不思議に思う歩。


「何でしょうか?」


 ――どうか、人類を救っていただきたいのです。


 直も語り掛けてくる優しい声。そこには痛切なものが歩には感じられた。


「……ごめんなさい、自分にそんな力はありません」


 ――わかっています。ですので、力を授けます。決して失われることのない力を。


 安定している精神状態でも、嬉しくなったり、疑問に思うことはあるらしい。

 今の頭の中を表現するなら、落ち着いて混乱している。と、いった所だ。

 歩は現状で考えうる限りの質問をぶつけた。


「すみません、今更ですが、自分は死んだのですか?」


 ――ええ、死にました。即死です。


「……そうですか」


 その言葉を聞いても冷静さを感じない歩には既に催眠の様な何かがかかっていたのかもしれない。あるいは精神安定剤的な何かが。


 とにかく、話を聞かないと状況はわからないので歩は再び沈黙した。


 ――貴方に与える力は召喚魔法です。貴方の世界で呼ばれている戦車と自走砲というものを召喚できる力。

 そして、これらを思いのままに操作できる魔法。

 ただし一度に召喚できるのは総重量10000tまで。貴方の世界の1945年8月15日までに実車、又は計画案が存在していたものが召喚できます。


 それらは完全装備となっていますが補給は出来ません。

 万が一召喚したものが壊れても消滅しますし、任意で消すことも可能です。


 なお、一度に操作できる車両は100両までとなっています。

 この力を使って、どうか人類を救ってください。


 聞けば驚くような素晴らしい能力。特に第二次世界大戦中の戦車が好きな歩にとっては実車だけではなくペーパープランの戦車等も使えるとは夢のようだ。


「もし、断ったりしたらどうなります?」

 断る気は更々無いが、一応聞いてみる。


 ――その場合は他の方にお願いするだけですね。


 つまり、このまま死んでしまうということか。

 ……それはいやだなぁ。いくら何でも未練とかやりたいことが多すぎる。

 とてもじゃないけどまだ死にたくはない。


「わかりました。引き受けます」


 歩が出した答えにその声は感極まった声で穏やかに礼を言った。

 ――――――ありがとうございます。


「えーっと、何か注意事項とかありますか?」


 思わず、身じろいて尋ねる歩。

 ってか、注意事項ってなんだよ。遠足かよ。

 一人、心の中で突っ込んでいた。


 ――ええ、いくつか。力については先ほどお伝えした通りです。あと、貴方を人間では無く、魔法人形として生まれ変わらせます。これは余りにも膨大な魔力を使うので、生身の体では持たないからです。


「人間と同じような形ですよね?」


 これで化け物みたいになってたらちょっときつい。


 ――ええ。ただ、かなり丈夫で何度でも再生しますが、死なない訳ではありません。

 ですから無理をなさらないでください。


「わかりました」


 ーー最後に、貴方の今までの記憶と能力は封印させてもらいますが何歳までに致しましょうか?


「其処は融通が利くのかい?」

 疑問に思った歩。


 ――はい、生まれた時から記憶を保持していると色々と差し障ってきますから。


 ……なんか、納得したわ。

 色々の部分を察した歩は今の記憶を開放する時期を考えた。


「そしたら10歳に成るまででいいですか? そのころには自分の意見をはっきり言ってもおかしくなさそうだし」


 ――わかりました。では10歳に成るまで封印されます。以上となります。他には?


「いえ、これ以上は大丈夫です」


 何を質問していいかわからない以上、もういいだろう。


 ――わかりました。では、どうかおねがいします。


 その言葉を最後に、歩の意識は再び深い水の底へ沈んでいった。


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