④
その日の夜、不思議な夢を見た。
夢、だと思うのはそれが酷く現実味のないものだったからだ。
だが、それにしても随分と境界線の危うい夢だった。
現実とその狭間というのか、現実味がないように思えて十分にそっちの方が正しいのだと順応した感覚を持っている。
一匹の獣になった夢だった。
どんな獣とも表現できない不思議体躯に、額には角が生えている。
群れを成しているようで周囲には似た獣が居るが、それでも角が生えているのは一匹だけだ。
その獣が駆ければ雷鳴が轟き、跳躍すれば唸りを上げて落雷する。
その獣は雷そのものだった。
雷と共存しているのではなく、存在そのものが雷だった。
どの獣も楽しそうに雷の振る野を駆けている。それはあたかも、恵みの雨を受ける生き物のようで、ある意味の心理そのものだ。
自由に生きる、それを体現しているかのようだった。
風のように速く走り、鳥のように高く跳躍できる身体は恐ろしいまでにピタリと身体に馴染んでいる。それこそがそう、自身の完全な身体なのだと、あるべき姿なのだと言わんばかりに。
解放感を味わっていると、一匹の獣と目があった。
じっと見つめてくる瞳には迷いはなく、一点の曇りもなく何かを訴えかけている。それは、切実なまでに。
やがて、その獣は鳴いた。
否、啼いたのだ。
痛切なまでの声が辺りに響き渡り、辺りに木霊する。そしてそれにつられたかのように、次々に獣は啼きだした。
その声は何かを責めているようなそんな気がした。