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美少女なきみ  作者: ゆきおんな
番外編
9/9

Halloween Trick

ハロウィンのおはなし。

 10月も下旬も差し掛かる頃、街中がカボチャやらおばけやらで溢れる季節。

 某ヘアサロンも例に漏れずカボチャで飾り付けられ、ハロウィンムード。

 本日は営業をお休みし、スタッフとその友人たちを招いたハロウィンパーティーが開催されていた。




* * *


 「やっほーひなちゃん!ハッピーハロウィン!トリックオアトリート!さあさあお菓子をよこしなさい!」

 

 「わあ!チカちゃん、じゃなかったチカくん。すごいクオリティだねその仮装」


 ヘアサロンのマスコット、ひなちゃんこと雛村ひなむら朝日あさひがかぼちゃパイにかじりついていると後ろから声をかけられた。

 美容師、直木なおきさとるの弟、智加チカだ。

 真っ黒のマントにとんがった帽子を被ったその姿はまさに魔女。その衣装はどう見てもそこらで売っている仮装セットではなくリアルでクオリティが高い。妙に年季の入ったホウキも持っている。


 「どう?すごいでしょう?これ作ったんだよ。買ったんじゃないよ。リアルな魔女って感じでかっこいいでしょ」


 リアルな魔女がいったいどういうものなのかはわからないが、確かにいわゆる「魔女のコスプレ」とは一線を画す出来だ。おどろおどろしさが出ている。朝日は素直に感心して頷いた。


 「うん、すごいねえ。似合ってるよ。僕は普通に売ってるの買っちゃったよ」


 「ひなちゃん似合ってるよ。それはえーと、カボチャの王子様?」


 「そう!王子様ってちょっと恥ずかしいけど可愛いな、と思ってこれにしちゃった」


 朝日の格好は、王子様。カボチャの。

 かなりメルヘンで可愛らしくかつコメディチックなその衣装を違和感なく着こなすあたりさすがみんなのマスコット、ひなちゃん。とヘアサロンのスタッフたちに声を揃えて賞賛された完成度である。どう見ても成人男性には見えない。



 「へえ、そんなのどこに売ってたの?結構高そうだなあ…」


 朝日の仮装を前から後ろから、上から下までじっくり見ているチカを見て朝日はふと。


 「チカくんはてっきり女の子の格好かと思ったよ。天使とか黒猫とか」


 「んー?これも一応女装のうちじゃない?魔女、だし」


 「ああ、そっか。でもなんかこれはそういう感じじゃなくて」


 いわゆる可愛い魔女ではない。魔女っ子ではなくあくまで魔女。朝日の想像していた魔女はもっとミニスカートとかリボンとか、ひらひら~っとしたイメージで。


 「もっと可愛い仮装すると思ってたのに予想外だったな」


 「かわいーい魔女っ子して欲しかった?」


 悪戯っぽく微笑んで顔を覗き込んでくるチカに朝日の顔は真っ赤になった。チカくんは男。チカくんは男。チカくんは男。


 「いや、ち、ちが」


 「あはは。可愛い仮装は他にいるよ。俺の友達連れてきたんだ。あ、もちろんいちるもね!」


 そういってチカがなにやら手招きするとトコトコと黒猫がやってきた。

 黒猫の仮装をした鹿野かのいちるだ。



 「チカ、やっぱり猫耳恥ずかしいよ……って、あ!ひなちゃんだ!可愛い!カボチャの王子様?似合ってるー!超可愛い!」


 やってくるなり朝日をベタ褒めのいちるはヘアサロンのお得意様。朝日とも仲良し。

 そんないちるは黒猫耳に尻尾、ゴシックな真っ黒のミニワンピ姿。可愛い。


 「いちるちゃん!黒猫可愛いね。あ、もしかしてチカくんとセット?」


 「そうそう。可愛いでしょう、いちる。俺の使い魔なんだよね」


 そう言っていちるの頭を撫でる魔女チカと黒猫いちるは確かにしっくりくるセットだった。いちるの猫耳や尻尾はよく見ると妙にリアルでビロードのような漆黒の毛並みが美しい。触りたくなる猫具合。


 「俺たちは本格派だからね」



* * *




 他のスタッフのところへ行ったチカ、いちると別れ朝日は再びかぼちゃパイにかじりついた。

 美容師の皆瀬みなせあい子のなにやら興奮気味の声が聞こえる。可愛い子でもいたんだろうかと思いつつただひたすらかぼちゃパイに舌鼓を打っていた。ちなみにこのパイ、その皆瀬の手作りである。彼女は料理上手。


 一人でかぼちゃパイを三分の二ほど平らげ、さあ次はどうしようかとあたりを見渡すと二人組が朝日のいる方へやってきた。不思議の国のアリスと帽子屋に仮装した男女で、アリスの方はなにやら疲れた顔をしている。かぼちゃパイの皿に目を留めると二人は猛スピードで寄ってきた。


 

 「パイだー!」


 「!?」


 突っ込んできたアリスに目を白黒させながらもなんとか身を躱すことに成功した朝日はかぼちゃパイを小皿に取り分けて差し出した。


 「はいどうぞ。このかぼちゃパイ美味しいよ」


 「ありがとう王子様!いただきます!」


 満面の笑みで皿を受け取るとアリスはパイにがっついた。いい食べっぷりだ。可愛い。


 「ありがとうございます王子様。俺ももらってもいいかな?」


 「どうぞどうぞ。はい」


 帽子屋にもパイを取り分けて渡すとこっちは優雅に食べ始めた。こちらはなかなかのイケメンだ。


 「ホントだこれすっごく美味しいね、王子様」


 「うん、美味い。美味いよ王子様」


 王子様を連呼するアリスと帽子屋に朝日はくすぐったい。

 それにどちらかといえば帽子屋の彼の方が王子様っぽい。



 「えと、その王子様っていうのはちょっと…」


 「ん?王子様だろ?そのカッコ。ちなみに俺は帽子屋マッドハッターでコイツは見たまんまアリス」


 そういって帽子屋がアリスの肩を叩く。すらりと長身の彼は細身のジャケットスーツが決まっている。悔しいが朝日には似合わなさそうである。この二人はカップルなのだろうか。だとしたらこの帽子屋羨ましいと朝日はじっと見つめた。

 そして朝日の視線はアリスに移った。先程までの疲れた顔は何処へやら、美味しそうにパイを頬張っている。


 「アリスちゃん可愛いね。物語から飛び出してきたみたいだよ」


 水色のワンピースに白いエプロン、金髪のロングヘアは勿論ウィッグだろうが似合っている。


 「だろ?イケると思ってたけどこんなに似合うなんて。どっからどう見ても立派なアリスだよ、寳」


 「たから?」


 「ん、ああ俺らチカの友達で、俺は吾妻あずま杏平きょうへい。このアリスは菱川ひしかわたから


 「あ、さっきチカくんが言ってたお友達って君たちのことか。初めまして。僕は雛村朝日、ここでアシスタントしています」


 朝日の自己紹介に帽子屋、もとい杏平が瞬きをした。


 「あ、例のひなちゃんさん。ってじゃあもしかして年上……」


 「あはは、こう見えてハタチ超えてます……」


 「すみませんてっきり年下かと……」


 「よく言われます……」



 あははうふふ。微妙な空気が漂い始めたなか、アリスもとい寳がパイを完食し顔を上げた。


 「ごちそうさまでした!ってあれ?どうしたの」


 「寳…、この人、雛村さん、」


 「ああチカが言ってた例のひなちゃんさん!ってええ!?この人が?じゃあ年上?僕よりも?うわあごめんなさい年下だと思ってました」


 本当に童顔だったんだと慌て出す寳に朝日は苦笑い。こんなことは日常茶飯事である。へたすると中学生にだって間違われる。


 「いいよいいよ。敬語もいらないよ。チカくんだっていつもフレンドリーに接してくれるし僕もそのほうがいいな」


 あわよくば可愛いアリスちゃんもとい寳ちゃんと仲良くなりたい、なんて。そんなことを思いつつ朝日は笑顔を浮かべた。



 「なら遠慮なく。僕もひなちゃんって呼んでいい?」


 「寳…本当に遠慮ないな。でも俺もひなちゃんって呼びたい」


 ボクっ娘かわいいなあとにこにこしながら朝日はこころよく了承した。むしろウェルカム。



 


 「いや、でもほんとに似合ってるね君たち。寳ちゃんそれウィッグ?」


 朝日の言葉に寳がぴしりと固まった。


 「寳、ちゃん……?」


 「え?何?どうしたの?寳ちゃん?」


 





 

 「杏平ー!!」


 「よかったじゃないか寳。お前の仮装は完璧だ」


 急に杏平に泣きついた寳。朝日は何が何だかわからず二人をおろおろ見つめることしかできない。なにかまずいことでもいっただろうか。


 


 「ひなちゃん、寳は男だよ?」


 すると後ろから声が。思わずびくっとした朝日が振り向くとそこには魔女チカがカップケーキを片手に立っていた。


 「チカくん!びっくりしたあ、って、え?え?!男?!」


 「え、普通にわかるでしょう。声、男だし」


 「え」


 「そうだよ僕は男だよ!どう見ても聞いても男だよ。僕って言ってるでしょ」


 冷静に聞くと確かに割と高めではあるものの男の子の声。信じられない!と落ち込んでいる寳になるほど確かに男なのか…と朝日は理解した。でも心がいまひとつ追いついていない。



 「男の子、か……」


 「そうです!男です!」


 「でも寳似合ってるよねえ。喋らなければ完璧完璧」


 「よかったな、寳。チカのお墨付きだぜ」


 「ヤメテ。さっきもなんか女の人にかわいいかわいい言われてダメージだいぶでかいんだ…」


 ああ、さっきのあい子さんの興奮気味の声はこれだったのかとうっすら思いつつ。朝日は寳を見つめた。

 可愛いなあ。男か……。


 「どうして、そんな格好を?」


 「ああ、それは、」


 曰く、三人でやったゲームの罰ゲームらしい。

 チカが女装じゃいつも通りだし杏平が女装は似合わないだろうから寳でよかったなと言い合っている三人組に朝日はぐったりした。


 こんなことって前にもあったなあ。チカちゃんじゃなくてチカくんだったんだよなあ。

 どうして僕が出会う可愛い女の子はみんな男の子なんだろうね。

 もしかしていちるちゃんも実は男の子だなんて言うんじゃないの。









 「トリックオアトリート!ってあれ、ひなちゃんどうしたの?」


 いちるの声が聞こえ、朝日が顔を上げると



 「うわああ!!!」



 



 猫耳はそのままに、ミニスカートだったいちるは真っ黒のジャケット姿になっていた。長かった髪も短くなっている。

 それは、まるで。




 「いちるちゃんまで男の子だったなんて、そんな、うそだーー!!!」





 「あ、ひなちゃん!」


 朝日は目に涙を浮かべ走っていった。


 








* * *


 

 「どうしようチカ!ひなちゃん泣きながらどっか行っちゃったよ!」


 「びっくりするほど嵌ってくれたねひなちゃん」


 「ちょっとチカ!喜んでる場合じゃないよ!ひなちゃんマジで私が男だったと思ってるよあれは!」


 


 「え、何?なんなの?説明して、チカ、いちるちゃん」


 「ああ、ちょっとした悪戯だよ。ハロウィンのトリック」


 「まさかこんなうまくいくとは思わなくてどうしようごめんなさいひなちゃん!どこ行っちゃったんだろう!」


 「えーっと、つまり?」


 「つまりいちるが男装して実は男でしたってびっくりさせようとしたわけ。前に俺のことずっと女の子だと思ってたけど実は男だった、てのがあったからさ」


 「あー。なるほど。そこに寳の女装が加わってこの悲劇か」


 「そういうこと。まさか寳のこと本当の女の子だと思うなんて。確かに結構いけてるけどさあ」


 「『実は男でした』がこうも続くと……そりゃ悪夢だよな」


 「あああひなちゃんごめんなさい!私は女です!本物の女の子なんですー!!」






バレンタインにフライングしたひなちゃんへのほんの些細な悪戯のつもりだったいちるちゃん。それに嬉々として協力・計画・実行したチカさんでした。

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