第6章:勝利への二人(しょうりへのふたり)
陳月清は、ライアン・スティールの指示が耳に届き終えるのとほぼ同時、一瞬の猶予もなく「お札」を天高く放り投げた。
最高点に達した瞬間、紙片は耳をつんざくような爆音と共に炸裂し、仮想空間の空気を激しく震わせた。
彼女の狙いは単純明快だった。最初の瞬間から、全員の注目を自分に集めること。
どれだけの敵が自分の位置に殺到しようが、彼女は微塵も気にしなかった。慎重な者はこの爆発を罠だと判断して避けるだろうが、勇敢な者――あるいは絶望的なほど自信のある者――は、必ずここへやってくると確信していたからだ。
彼女はフィールドの真ん中で、自らが放った挑発の余韻に包まれながら、静かに、そして辛抱強く待ち続けた。
遠く離れた木陰の下で、モヒカン頭の男――チャドは、空へ立ち昇る黒煙を見つめていた。
彼の最初の反応は、優越感に満ちた冷笑だった。
「……ハッ! 俺がそんなミエミエの罠に引っかかるほどの間抜けだと思ってるのかよ。笑わせるな」
彼は独り言を吐き捨てると、短槍の握りを締め直した。
こんな序盤で、誰かに自分の首を献上するつもりはない。軽蔑の表情を浮かべながら、彼は爆発とは真逆の方向へと歩き始めた。
マップの別の場所では、半面マスクの若者、アリステア・ソーンが、顔の筋肉一つ動かさずに炎を見つめていた。
彼は分析も躊躇もせず、ただ静かに踵を返した。死のような静寂を纏いながら歩き続け、そのまま深い茂みの中へと姿を消した。
その間も、カルヴィンは衝撃の余波を飲み込み続けていた。
剣の柄を握りしめた手は、わずかに震えている。それは恐怖ではなく、あの爆発から感じ取ったエネルギーの痕跡に対するアドレナリンのせいだった。
(他に誰が、こんな無茶をやる……?)
カルヴィンは歯を食いしばり、確信を込めて思考を巡らせた。
(圧倒的な自信。……チェン、君なんだろう? ついにチャンスが来た。君に勝てるチャンスが!)
「逃げろ」と叫ぶ生存本能を無理やり押さえつけ、カルヴィンは爆発の発生源へと向かって全力で駆け出した。
自らの運命と対峙する覚悟を胸に。
監視室では、審査員たちがメインスクリーン越しにチェンの様子を注視していた。サイランはあごを撫で、隠しきれない興味を瞳に宿す。
「ジファン、君の弟子の戦略はなかなか興味深いね」
ジファンは隠そうともしない誇らしげな笑みを浮かべた。
「彼女なら当然だ。己の実力を証明するために、可能な限り多くの相手を排除しようとしている。そのための『呼び水』だよ」
第12部隊長の月島レイが、リラックスした笑みを浮かべて会話に加わった。
「規律正しい彼女にとっては、これくらい朝飯前でしょうね。……ですが、なぜもう一人の弟子まで同じ方向へ向かっているのかしら?」
その時、ジファンはカルヴィンが爆発の発生源に向かって力強く突き進んでいることに気づいた。驚きに眉をひそめる。
「……本気か、カルヴィン?」
彼は独り言を漏らしたが、すぐに不敵な笑みを取り戻した。
「彼は無謀な真似をしているわけではない。あそこに何が待ち受けているか、痛いほど理解しているはずだ。それでもあえて、彼は向かっている」
「どうしてそんなに確信できるの?」月島が尋ねる。
ミスター・フェイスレスが乾いた笑い声を漏らし、ジファンの代わりに答えた。
「彼の瞳に、揺るぎない決意が宿っているからだ。体は震えているが、その手は決して剣を離さない。自分が何に立ち向かおうとしているのかを知りながら、一歩も退くつもりがないのだよ」
「あらあら……目がないくせに、よく観察していること」
月島が冗談めかして言うと、フェイスレスは皮肉たっぷりに言い返した。
「フフッ、いつも目を閉じている君にだけは言われたくないな」
突如、スクリーン上のデジタル環境が大きく歪んだ。平穏な野原が掻き消え、代わりに湿り気を帯びた密林の植物が画面を埋め尽くしていく。
「どうした?」ジファンが警戒を強める。「もう脱落者が出たのか?」
ライアン・スティールがログを素早く確認し、メインモニターにその映像を再生した。
「候補者名『レッド・スパイラル』が、『ブルー・タイガー』によって排除されたようだ」
ライアンが淡々と説明を続ける。
「レッド・スパイラルが爆発の煙を追っている最中に、ブルー・タイガーが待ち伏せしていた。完璧な奇襲だ」
フェイスレスは興奮して声を上げ、豪華な玉座の肘掛けを叩いた。
「これは素晴らしい! 他人の戦略を利用し、反応する間もなくライバルを蹴落とすとは。この調子では、ジファンの弟子も獲物を横取りされてしまうだろうな。――バーナビー、今すぐワインを持ってこい! この極上の余興を最後まで見届ける必要がある!」
「承知いたしました、ご主人様」
執事バーナビーは幽霊のような声で応じると、主の命令を遂行するために音もなく部屋を後にした。
カルヴィンは、根やつるを避けながら、生い茂るジャングルを歩き続けていた。すると突然、木々の梢の間を何かが猛スピードで横切った。それは彼と同じ方向へ向かっていた。
「あれは何だ?」彼は本能的に身をかがめながら呟いた。
それはラブ・ガールだった。虚ろな瞳、金髪、そして胸には水晶のハートが埋め込まれた、その志願者だった。彼女は内蔵された推進装置でチェンの位置へと飛んでいたが、その軌道は突然遮られた。エネルギーの斬撃が彼女を激しく打ち、軌道を変えさせ、樹齢百年の幹に激しく激突させた。
シダの影の中から、捕食者のような笑みを浮かべたブルー・タイガーが現れた。
「おや、おや……また獲物か」
少女は不気味なほど冷静に、まるで重さなどないかのように、自分にかかった木々の破片を払い除けた。
「あなたは標的ね」と、ラブ・ガールは単調な声で言った。「でも、煙との距離から判断するに、爆発を起こしたのはあなたではないようね」
ブルー・タイガーは、自分の攻撃が彼女に傷一つつけられなかったのを見て、身構えた。あれほどの衝撃を受けても、彼女があの無表情を保っているという事実に、彼は不気味な感覚を覚えた。
「それで、どうするつもりだ?」彼は傲慢な態度を取り戻して言い返した。「お前が探している人物ではないからといって、俺の危険度が下がるわけじゃないぞ」
少女は、正確な動きで肩から枝や埃を払い落とした。一言も発することなく、彼女は彼に向かって手のひらを差し出した。眩い閃光がジャングルを照らし、純粋なエネルギーの光線が破壊的な威力を伴って放たれた。
ブルー・タイガーはかろうじて反応し、間一髪で茂みの中に身を潜めた。光線は広大な森を貫き、その進路にあるすべてを灰に変え、空気に熱の跡を残していった。
その頃、カルヴィンは茂みに身を潜め、息を殺して目の前の光景を凝視していた。彼は今、激しい戦いの渦中に居合わせていた。
**「ブルー・タイガー」が背後から襲いかかり、鋭く光る金属製の爪を繰り出す。しかし、「ラブ・ガール」**と呼ばれた少女は機械的な反応速度でそれに応じ、男の手首を力強く掴むと、冷徹な眼差しと共に近くの大木へと叩きつけた。
ブルー・タイガーは衝撃に耐え、即座に体勢を立て直す。シミュレーション設定によりダメージの感覚は軽減されているとはいえ、伝わってくる鈍い痛みは、自分を「取るに足りない存在」として見下す目の前の脅威に対し、生存本能を激しく突き動かした。
ラブ・ガールが手袋から再び光線を放つが、ブルー・タイガーは金属の爪でそれを弾き飛ばす。反動で後ずさりながらも、彼は茂みの中を円を描くように走り回り、周囲の木々をなぎ倒して彼女の上に崩れ落ちるよう仕向けた。
ラブ・ガールは狙いを定めようとするが、ブルー・タイガーの野生的な動きは彼女の演算速度を凌駕していた。
隠れ場所から、カルヴィンはある決定的な細部に気づく。
(……雷を放つたびに、胸のハートが発光している。間違いなく、あれがスーツのエネルギー源だ)
カルヴィンは目を凝らし、冷静に分析を続けた。
(俺が気づいたなら、ブルー・タイガーも気づいているはずだ。あいつは決定的な一撃を放つ絶好のタイミングを伺っている。彼女は……その戦略に気づいていない。このまま気を抜けば、負ける)
その一瞬の迷いのさなか、数ヶ月前の道場での記憶が鮮明に蘇った。
あの日、ジファンはカルヴィンに複雑な剣術の指導を終えたところだった。
カルヴィンは疲れ果て、肩で息をしながら前かがみになっていた。師匠はいつものように穏やかな眼差しで彼を見つめ、沈黙を破った。
「以前、君は『善い人間とは何かが分からない』と言っていたね。……難しい概念だと思わないか?」
カルヴィンは背筋を伸ばし、汗を拭った。
「本当に知りたいんです。それが分かれば、自分自身に納得できる気がして」
「なるほど。では聞くが、なぜ私が君の指導を引き受けたか分かるかね?」
「トーマスさんに頼まれたから……でしょう?」
「いや。……まあ、それも一因ではあるがね」
ジファンは微笑みながら認めた。
「だが、君を教えることで、私は君を助けている。それは一つの『善行』だ。将来、その見返りがあるかもしれないし、ないかもしれない。だが、正しいことをするたびに感じる充足感だけで、私には十分なのだよ。そうやって私は満足を得ている。……カルヴィン、もし君に善行を積む機会が訪れたら、その瞬間を逃さないことをお勧めするよ」
現在――。カルヴィンは独り笑みを浮かべ、静かに呟いた。
「……彼女を助ければ、俺も大きな危険を冒すことになる。でも、ただ手をこまねいて見ているわけにはいかないからな」
ラブ・ガールは、自分に倒れかかってくる巨大な倒木を両腕で食い止めていた。その無防備な瞬間を、ブルー・タイガーは見逃さなかった。死角を突き、息を呑むような速さで彼女の胸にある「ガラスの心臓」へと飛び込んだ。
その爪には全力が込められていた。だが――爪がガラスを砕くことはなかった。
――ガギィィィィン!!
金属と金属が激突する轟音が、ジャングル全体に響き渡った。
地にしっかりと足を食い込ませ、顔に汗を滲ませたカルヴィンが、その剣でブルー・タイガーの必殺の一撃を完璧に阻んでいた。
ラブ・ガールはカルヴィンの介入に、隠しきれない驚きの色を見せた。彼女の青い瞳に一瞬の疑念が宿り、戸惑いながらも問いかける。
「……あなたも標的なはずでしょう? なぜ私を助けるの?」
カルヴィンはブルー・タイガーから視線を外さなかった。眉をひそめ、ジャングルのぬかるんだ地面をしっかりと踏みしめる。その防御姿勢には、一点の隙もなかった。
「……俺はただ、正しいことをして自分自身を超えようとしているだけだ」
彼は力強い声で答えた。その言葉に迷いはない。
ブルー・タイガーは目を細め、敬意と怒りが入り混じった眼差しでこの新参者を分析した。
「……俺の動きを追い、見知らぬ女を助けると決めたか。悪くないぜ、新米」
「言っておくが、お前よりずっと速い相手と訓練してきたんだ」
カルヴィンは、チェンの放つ猛烈な連打を思い出しながら言い返した。
「視覚を研ぎ澄まし、集中を切らさない術を学ばなければならなかった。……なぜ彼女を助けたかって? 他人の弱みにつけ込むような真似を、黙って見ていられなかっただけさ」
ブルー・タイガーは傲慢な笑い声を上げ、皮肉たっぷりにラブ・ガールへ語りかけた。
「すまねえな、お嬢さん。この『おせっかい焼き』を片付ける間、ちょっと待っててくれ」
次の瞬間、ブルー・タイガーは金属の爪でカルヴィンの剣を強引に掴むと、凄まじい力で彼をより開けた場所へと引きずり出した。カルヴィンは踵を地面に突き立てて勢いを殺すと、すぐさま上段から斬りかかる。
ブルー・タイガーは鋭い爪を交差させてそれを受け流し、火花と金属音が激しく交錯する応酬が始まった。
――キィィィン! ガキィィィン!!
密林の静寂を切り裂き、剣と爪がぶつかり合うたびに火花が舞い散る。一進一退の攻防が、戦場を熱く焦がしていった
監視室では、審査員たちがカルヴィンの予想外の介入にすっかり魅了されていた。新たな興味の対象を見つけた彼らは、食い入るようにスクリーンを見つめている。
ミスター・フェイスレスは、優雅にワイングラスを傾けた。彼には「口」がない。にもかかわらず、赤い液体が薄い皮膚の表面に触れた瞬間、まるで目に見えない穴に吸い込まれるかのように消えていった。
「見知らぬ者のために命を懸けるか……。到底、私の美学ではないな」
フェイスレスが呟くと、傍らのバーナビーが手際よくグラスにワインを注ぎ足し、アガサは絹のハンカチで彼の頬に飛んだ一滴を音もなく拭い去った。
「ラブ・ガールが後で自分を襲うかどうかなんて、彼には関係ないみたいだね。ただ、戦うことだけを見つめている」
サイランは楽しげな笑みを浮かべて付け加えた。
「激しくぶつかり合う金属の音……まるで酔いしれるようなメロディだ。実に魅力的だよ」
「君の部隊は、戦いの喧騒にしか興味がないのか」
フェイスレスが皮肉を投げ返す。
「だから君の上司はここにはいないんだろう。今頃、どこかで手強い怪物でも探し回っているに違いない」
「ははっ、一日中座っているのが退屈だっただけさ」
サイランは軽やかに笑った。
「副隊長として、その責任を引き受けたまでだよ。実際、この仕事はすごく楽しめている。それに、世界で一番美しい人間(私)を審判に迎えられたのは、この試練にとっても幸運なことじゃないか?」
彼は自惚れ気味に髪をかき上げた。
その時、月島レイの氷のように冷たい声が、彼らの会話を遮った。
「……ブルー・タイガーの負けね」
フェイスレスが興味深そうに首を傾げる。
「どういう意味かね?」
「彼はカルヴィンをラブ・ガールから引き離した。二人を同時に相手にすることは不可能だと悟ったからよ」
月島は冷静に分析を口にした。
「もし彼女が再び戦いに加われば、それで終わり。彼の命運は尽きるわ」
「ふむ、それは残念だ」
フェイスレスは深くため息をついた。
「二人を同時に相手できない程度の男なら、我が第7部隊には相応しくない。……アガサ、彼を除外しろ」
アガサは無言で頷くと、淀みのない筆致で公式リストから「ブルー・タイガー」の名を横線で抹消した。
サイランは画面から目を離さず、さらに笑みを深めた。
「……まあ、彼が汚名を返上できる唯一のチャンスは、今すぐカルヴィンを打ち倒すことだけ、というわけだね」
カルヴィンとブルー・タイガーの死闘が激化する中、ラブ・ガールは無表情のままその光景を見守っていた。しかし、彼女の脳内では、もう一つの戦いが繰り広げられていた。それは戦術の分析ではなく、自らの「行動指針」を巡る葛藤だった。
(この人は、私を助けてくれた……)
カルヴィンの行動を反芻しながら、彼女は思考を巡らせる。
(人間は往々にして残酷で利己的だ。けれど、彼には思いやりがあった。父様は死ぬ間際、私に『善い人々を助けなさい』と遺したけれど……)
彼女は水晶の心臓が脈打つ胸にそっと手を当て、矛盾する思考を整理しようと試みた。
(……標的とされる相手を助けるのは、ルールに反するのではないか? でも……もし彼を助け、二人で最後まで生き残ることができれば、生存確率は理論上、上昇するはず)
その瞬間、カルヴィンが鋭い縦一閃を放った。それはブルー・タイガーのスーツから青い毛束を切り落とすほどに正確だった。だがほぼ同時に、相手の金属爪がカルヴィンのネクタイを鮮やかに切り裂いた。
カルヴィンは一歩後退し、宙に舞ったネクタイの切れ端を素早くキャッチした。
「……本物のネクタイじゃなくて助かったよ」
彼は余裕を装って呟いた。「これ、お気に入りなんだ」
躊躇なく、カルヴィンはその布切れにエネルギーを集中させ始めた。ジファンとの過酷な訓練を経て、彼は触れた物体のエネルギーを安定させ、増幅させる能力を極めていたのだ。手に持った布地が、激しく発光し始める。
カルヴィンはネクタイの破片を、投擲弾のようにブルー・タイガーへと放った。衝突の瞬間、布地は彼の顔面で激しく炸裂した。爆風と煙の雲が彼を包み込み、その巨体を後方へと吹き飛ばす。
カルヴィンは攻撃の手応えを感じて小さく微笑んだ。一瞬、勝利を確信したのだ。しかし、煙の中から再びブルー・タイガーが姿を現した。手負いの猛獣のごとき飢えた眼差しで、獲物へとまっすぐ飛びかかる。
「くっ……!」
カルヴィンは必死にブロックしようと身構えたが、助けは最も予想外の場所からやってきた。
鮮やかなピンク色のエネルギー光線が密林を横切り、空中にいたブルー・タイガーに直撃したのだ。彼は重い音を立てて地面に叩きつけられた。
カルヴィンは、ラブ・ガールの手袋からかすかに煙が立ち上るのを見た。彼女は無表情を保ったまま、地面に動かず横たわるブルー・タイガーをじっと見つめている。カルヴィンが警戒を解かずに疑いの目を向けると、彼女は淡々とした声で口を開いた。
「安心しろ。お前を攻撃するつもりはない。……生き残り、この試練を乗り切るためには、協力するのが得策だと判断した。その時が来れば、私にもお前にも選択の余地はない。だが今は、協力するのが最善の策だ」
カルヴィンは少しだけ肩の力を抜き、剣を数センチ下ろした。
「へえ……。そんな展開は予想外だな」
ラブ・ガールは、氷のように冷たい眼差しで彼を見据えた。
「あなたは私を助けた。故に、あなたに私への敵意はなく、私にもあなたへの敵意はないと推測する。一時的な同盟は論理的かつ効率的だ」
突然、周囲の微妙な変化が彼女のセンサーに反応した。彼女が即座に警戒態勢に入るのを見て、カルヴィンも表情を引き締める。
「……どうした?」
「……虎が、もういない
カルヴィンは瞬時に防御姿勢を取り直し、周囲を鋭く見渡した。巨大なシダや複雑に絡み合う蔦の影が、視界を遮り、死角を作り出している。
「……どこにもいない。完全に消えた」
「――少し、危険な手を使う」
カルヴィンは低く呟き、深く息を吸い込んで精神を集中させた。エネルギー剣に膨大な力が充填されていく。
ジファンとの過酷な訓練の中で、彼は刃先から放出されるエネルギーの方向を、前後左右、あるいは斜めへと正確に制御する術を学んでいた。しかし今、彼が挑もうとしているのは、その中でも最も複雑な技。ジファン自らが「最難関」と評した、全方位への同時エネルギー放射だ。
彼は両手で柄を強く握りしめ、相棒に切迫した声で命じた。
「跳べっ!」
ラブ・ガールは即座に反応し、推進装置の噴射と共に空中に舞い上がった。それと同時に、カルヴィンは剣の先端を泥だらけの地面に突き立てた。
――ズドォォォォォォォン!!
耳をつんざくような轟音と共にエネルギーが解放され、紅蓮の衝撃波が輪となって広がった。その波動は半径10メートル圏内の木々を紙細工のように切り裂き、ジャングルの大気へと霧散していく。周囲の障害物は一掃され、隠れ場所はすべて露わになった。
カルヴィンはその破壊的な一撃を放った後、精根尽き果てて泥の上に膝をついた。だが、攻撃は目的を果たしていた。衝撃波に耐えきれず、隠れ場所から弾き飛ばされたブルー・タイガーが、水たまりにどさりと着地したのだ。
ラブ・ガールは容赦しなかった。空中から推進装置を加速させ、一瞬で距離を詰める。切り倒された樹木の残骸の中で、激しい肉弾戦が幕を開けた。ブルー・タイガーの鋭い爪が、少女の分厚い金属製の手袋に激突し、薄暗闇に火花を散らす。
その時、何の前触れもなく周囲の光景が激しく歪んだ。
瞬く間にジャングルは消え去り、そこはマングローブが生い茂る陰鬱な沼地へと変貌した。濁った水が足元を覆う。倒れたままだったカルヴィンは、咄嗟に頭を水面から上げ、露出した木の根に這い上がらなければならなかった。
監視室では、審判たちがその「変化」の原因を注視していた。メインスクリーンには、背後から襲いかかってきた相手の首を冷徹にへし折る陳月清の姿が映し出されていた。倒された志願者は、即座に「排除」の処理が下される。
「新人の戦いに目を奪われている隙に、彼女を見失っていたようだね」
サイランは興味深そうに口角を上げた。
月島は頷いたが、その表情はより分析的なものへと変わっていた。彼は三つの赤い点が急速に一箇所へ集まっていくサブモニターを指し示した。
「その通り。だが、彼女が相手にするのは一人だけではないようね」
月島が冷ややかに告げる。
「あの3人の志願者たちは、彼女を打倒するためだけに結託したらしいわ」
一方、沼地の中心部では、チェンが優雅に腰を下ろしていた。水面から突き出たわずかな土壌に杖を突き立てる。外科医のような精密さで、彼女は腰の巻物とマナを染み込ませた筆を使い、新たな護符を書き上げていた。
まるで包囲網など、今日の午後の些細な不都合に過ぎないかのように。彼女の纏う空気は、恐ろしいほどに平静を保っていた。




