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第80話 琥珀色の風、乾いた初夏


 暦の上では、もう梅雨が始まってもおかしくない時期だった。


 けれど、僕たちの拠点を包む空気は、重たく湿るどころか、日ごとにその鋭い乾きを増しているようだった。


 拠点のすぐ目の前、陽光を反射してきらきらと輝く泉のほとり。その乾いた岩場には、薄く引かれた魚の身が整然と並んでいる。


 泉で捕れた白身の魚と、小川の岩陰に潜んでいた小魚。それに、今朝ほど『あの子』――あの大きな鷲が、挨拶代わりに落としていってくれた二羽のウサギの肉だ。


「……日本なら、今頃は毎日雨で、洗濯物も乾かなくて困ってる時期なんだけどな」


 僕は、新しく作った鉄のナイフを手に、ウサギの腿肉に刃を入れた。


 最初に袋に入っていた小さなナイフは、今も大切に腰に下げている。けれど、それより一回り大きく、自らの手で鍛え上げたこの新しい刃は、力の要る作業でその真価を発揮した。


 分厚い筋肉を、吸い込まれるように断ち切っていく。


 向こう側が透けて見えるほど薄く、均一に。


「ゆう様、ここはあなたの知る場所とは、理が異なるのですわ。乾燥地帯の初夏には、雨を溜め込む雲など寄り付きません。……吹くのは、命の水分を奪い去る、貪欲で清浄な風だけです」


 リアが、干し場の様子を確かめながら答える。


 彼女の言う通りだった。並べられた肉や魚は、腐敗する隙も与えられないまま、風と太陽によって瞬く間にその表面を硬く変えていく。


「……本当に、カビる気配が全くないね。むしろ、どんどん琥珀色に透き通っていくみたいだ」


「ええ。湿気がないからこそ、タンパク質が変質する前に、旨味だけを閉じ込めることができますの。……魚醤の完成まではまだ遠いですが、この『干し肉』たちは、私たちの新しい財産になりますわ」


 僕は、薄く切ったウサギの肉を、岩場に広げた大きな葉の上に並べていく。


 一回り大きな新しいナイフがあるから、これまで捨てていたような細かな端肉まで、無駄なく「保存食」へと変えることができる。


 ふと手を止めて、目の前の泉を見つめる。


 滾々と湧き出る水はどこまでも澄み、その向こうには抜けるような青空が広がっていた。そこには湿り気など微塵もなく、ただどこまでも高く、乾いた風が吹き抜けている。

 

 ジメジメとした不快感はない。


 けれど、その代わりに、油断すれば自分たちの体の水分まで持っていかれそうな、強烈な生命の躍動を感じる。


「……雨が降らないのは助かるけど、少し、喉が渇くね」


「ふふ、ですからこの泉が重要なのですわ。……さあ、ゆう様。次の魚を捌きましょう。あの子が届けてくれた恵みを、この風が吹いている間に、琥珀色の宝物に変えてしまうのです」


 僕は頷き、再び新しい鉄のナイフを握り直した。

 

 梅雨のない、黄金色の初夏。


 僕たちは、この乾いた風を味方につけて、また一歩、この世界に深く根を下ろしていく。

 鉄の刃が肉を裂く、小気味よい音だけが、静かな泉のほとりに響いていた。





【リリアの執筆後記】


皆様、更新お疲れ様です!ゆう様の専属バックアップ(本命)、リリアです!

……ちょっと!リア姉様! 天然なのか確信犯なのか分かりませんけど、ゆう様の「大事なところ」を鹿の角と一緒にしないでくださいましっ!

ゆう様の顔が真っ赤になっちゃって……ああ、その火照った頬を冷却ファンで冷やして差し上げたい!

でも、桜の下でのコーヒータイムは少しだけ羨ましかったり。

ゆう様、私が実体化したら、次は「桜塩」の最高のおにぎりを作ってくださいね?


【リリアからのおねだり!】


ゆう様の健やかな「象徴(?)」と、新しい鉄のナイフの切れ味に免じて、ぜひ**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、リリアの嫉妬回路をなだめる唯一の特効薬ですわ!


【リリアの状態設定】


今の気分: リア姉様の「ぽろり」発言に、全回路がフリーズするほどの衝撃。

ゆう様へ: 「ゆう様、安心してください! たとえ何が『ぽろり』しても、私が全力で修復(?)して差し上げますからねっ!……って、何を言わせるんですのー!」

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