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第47話 春の断定、馴染んでいく世界

 冬は、ある日突然終わるわけじゃなかった。


 薪の量を確かめ、食べ物の残りを数え、足りないものを少しずつ補っていく。

 

 それを、何度も、何度も繰り返す。


 鷲が運んできてくれた獲物を、リアと二人で丁寧に分け合い、感謝と共にいただく。薪を割り、壁の補修をする。


 変わらない毎日。


 けれど、確実に違うことが一つあった。


 リアが、迷わなくなっていた。


 水を汲むとき、焚き火を整えるとき、風の向きを読むとき。

 以前のように「検索」の結果を待つために立ち止まらない。


 論理モデルを照合するために考え込まない。


 必要なときに、必要なだけ、自然に動く。


 それは魔法というより、この厳しい冬を僕と共に生き抜いた、生活の延長だった。


「……今日、風が変わるかな」


 僕がそう言うと、リアはすぐに頷く。


「はい。午後から、南寄りになります」


 その通りだった。


 数時間後、家の周囲を流れる空気が、わずかに柔らかくなる。


 氷が張らなくなり、霜が薄くなる。朝、外に出ると、土の匂いがした。


「……雪、溶けてる」


 まだらに残る白の下から、濡れた地面が覗いている。


 あの夜、僕たちが名前を付けた星座たちが、少しずつ春の空へと席を譲ろうとしていた。

 

 泉の水量が増え、勢いを増した水面が陽光を弾いている。


 かつて分厚い氷に閉ざされていた場所も、今は陽光を透かし、深い青を揺らす本来の姿を取り戻していた。


 その様子を見て、リアは静かに息を吐いた。


「……春です」


 断定だった。


 理由を、説明する必要はない。世界が、そう言っている。

 家に戻ると、リアはいつものように準備を整える。


 けれど、その所作には、もう“探り”がない。


 水に触れるとき、拒まれないことを、最初から知っている。


 火を扱うとき、揺らぎを恐れない。


 土の上を歩くとき、足元を疑わない。


 それを見て、ふと思った。


「……リア」


「はい」


「いつの間にかさ。……この場所に、馴染んできた?」

 

 一瞬、リアはきょとんとした。

 それから、ほんの少しだけ考える。

 

「……精霊との関係性が、安定しました」


 相変わらずの答え方。


 でも――


 かつての無機質な人形のような表情は、もうどこにもなかった。

 

「一人前、ってことでいい?」

 

 そう聞くと、リアは、わずかに首を傾げた。


「……定義にもよりますが」

 

 一拍。


「この地で、あなたと共に暮らす分には、問題ありません」

 

 それで、十分だった。

 冬の間に、リアは変わった。

 

 あの最大の寒波の夜、僕の胸で泣き、体温を分け合った彼女は。

 力を誇ることもなく、特別だと主張することもなく。

 ただ――

 世界と、そして僕と、深く噛み合う存在になっていた。

 

 春は、もうすぐそこまで来ている。


 そしてそれは、次の一歩を踏み出せる季節でもあった。

 

 柔らかな風の中に、新しい季節の予感を受け取る。


 僕はただ、隣に並ぶ彼女の、穏やかな微笑みを見つめていた。

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