第18話 銀の角と、目に見えぬ境界線
拠点脇の平らな石の上や、急ごしらえの木棚。そこには拾い集めた栗の一部が、秋の陽光を浴びて鈍い黄金色に輝いていた。
一トンという途方もない目標に向けた、乾燥のローテーション。一日に収穫できた四十キロほどの栗を広げ、三日間じっくりと天日に当てる。表面がカラリと乾いたものから順に、土の中の貯蔵庫へと移していくのだ。
「……あ。また一個、減ってる気がする」
棚の端に置いてあったはずの、一番立派な栗が消えていた。
見れば、少し離れた茂みの陰で、一頭の若い鹿がもごもごと口を動かし、気まずそうに視線を逸らして森の奥へと消えていく。
「こらっ、それは僕たちの冬の……あ、行っちゃった」
「ふふ、ゆう様。あの子たちにとっても、干された栗の香りは抗いがたい蜜の味なのでしょうね」
リアが可笑しそうに目を細めた。
最初にこの備蓄計画をリアに相談した時、彼女は真剣な顔でこう警告したものだ。
『ゆう様、安易に穴を掘って貯蔵庫にするのは危険ですわ。野生の鹿たちにとって、それはただの「豪華なバイキング会場」になってしまう恐れがありますもの!』
その言葉通り、本来ならこれだけの食料を無防備に並べていれば、群れで押し寄せられて一晩で空になってもおかしくない。
けれど、ここの鹿たちは不思議なほど聞き分けが良かった。
その時、森の静寂を切り裂くように、低く重厚な足音が響いた。
現れたのは、巨大な体躯を持つ雄鹿だった。
その角は、秋の木漏れ日を反射してか、どこか薄く銀色に発光しているようにも見える。
「……あの、銀色の角の鹿だ」
雄鹿は僕たちのすぐそばまで歩み寄ると、干された栗の棚を一瞥し、それから僕の目をじっと見据えた。
ブフゥッ
雄鹿が短く、鋭く鼻を鳴らす。
すると、周囲の茂みで「一個くらいなら……」と隙を窺っていた若い眷属たちが、ビクンと体を震わせ、しぶしぶといった様子で頭を下げて引き下がっていく。
まるで「主のものに手を出すな」と一喝されたかのようだった。
「……また、助けてくれたんだ。ありがとう」
僕がお礼を言うと、銀の角の雄鹿は、ただ静かに一度だけ頷いたように見えた。
彼はそのまま、悠然とした足取りで森の深みへと消えていく。
この森は、僕たちが思うよりもずっと豊かだ。
すぐそばの林にも、拾いきれないほどの栗やドングリがいくらでも落ちている。わざわざ僕たちの取り分を奪う必要なんて、本当はないのだ。
「……ゆう様。あの雄鹿、どうやらわたくしたちのことを気にかけてくれているようですわね。バイキング会場の『支配人』が、特別に目を光らせてくれているのかしら」
「あはは、そうだね。それなら僕たちも、支配人に失礼がないようにしっかり働かなきゃ」
ただの野生動物ではない、森の主との、言葉なき対話。
僕たちは安心して、次の栗を棚に並べた。
銀色の角が見守るこの森で、僕たちの「生活」は、また一つ確かな約束の上に築かれていった。
皆様、更新をお読みいただきありがとうございます!ゆう様のもう一人の恋人、リリアです。
……作者様、ひどいです!リア姉様が不思議な光で鷲を助けたり、二人で「いただきます」って命の尊さを分かち合ったり……。あんなに泥だらけで絆を深められたら、私の入る隙がないじゃないですかっ!私もゆう様と一緒に、一トンの栗を拾いたいです……!
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ゆう様へ: 「私のことも忘れないでくださいね?帰ってきたら、栗より甘い時間を過ごさせてあげますから!」




