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第104話 カバンの中の「神意」


 さくら様が桜吹雪と共に消え、丘の上には僕とリア、そして地面に残された一袋の革カバンだけが残された。

 

 夏の強い陽光が、使い込まれたカバンの質感をくっきりと浮き彫りにしている。見た目はどこにでもある、旅慣れた冒険者の肩掛けカバンだ。

 

「……本当に、これに何でも入るのかな」

 

「精霊神様の愛用品ですもの。きっと、わたくしたちの想像もつかないような魔法がかけられているはずですわ」

 

 リアが興味津々といった様子でカバンを拾い上げ、中を覗き込んだ。

 

「あら……。ゆう様、何か入っておりますわ。空ではありません」

 

「えっ、忘れ物かな? さくら様、使い古しだって言ってたし」

 

 精霊神がかつて冒険で使っていたという遺失物。

 

 伝説の武器か、あるいは未知の魔導具か。

 

 期待に胸を膨らませて見守る僕の前で、リアがゆっくりと「それ」を引き出した。

 

「……これ、は……?」

 

 リアの手の中にあったのは、布と呼ぶにはあまりにも面積の少ない、透き通るような薄紅色の「何か」だった。

 

 細い紐と、申し訳程度のレース。


 どう好意的に解釈しても、防具としての機能は皆無。それどころか、服としての最低限の役割すら放棄しているような、過激極まるデザイン。

 

 ――精霊神様は最初、『若い娘がいるなら、きわどい服だろ。』などと、ろくでもないことを……

 

 脳裏に、さきほどのさくら様の呆れ顔がフラッシュバックする。あの時、彼女は「ぶんどってきた」と言っていたけれど、神の執念は監視の目を掻い潜り、このカバンの底に一着だけ、その「意志」を滑り込ませていたらしい。

 

 僕は思わず顔を赤くして固まったが、隣のリアは違った。

 

 彼女は手にした「破廉恥な布」を器用に広げ、自分の体に当てるようにして僕の方を振り返ったのだ。

 

「あら。ゆう様、これはわたくしに似合うでしょうか?」

 

 少しだけ首を傾げ、悪戯っぽく微笑むリア。

 

 リアの余裕に満ちた問いかけ。

 

 その瞳には、僕の動揺を確信犯的に楽しんでいる色があった。

 

「に、似合うかどうかの問題じゃなくてさ……!」

 

「ふふ、今夜の『お楽しみ』に、とおっしゃりたかったのかしら?」

 

「違う! もっと役に立つもの入れてくれよ、エロ神めーーーッ!!」

 

 聖域の丘に、僕の魂のツッコミが虚しく響き渡った。

 

 そんな僕を余所に、リアは「記念に取っておきましょう」と楽しげに笑いながら、その布を再び魔法のカバンの奥へと仕舞い込むのだった。

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