第1話 目覚めたら、エルフの美少女に膝枕をされていた
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意識の浮上は、柔らかな感触だった。
後頭部に伝わる、適度な弾力と確かな温もり。
少しだけ硬いけれど、決して嫌な感触じゃない。むしろ、ずっとこうしていたくなるような、深く沈み込みたくなるほどの、確かなぬくもり。
次に届いたのは、匂いだった。
湿り気を帯びた草の香りと、透き通った水の気配。それに、鼻腔をくすぐる涼やかな風。
どれも主張は強くないのに、肺の奥まで清められるような感覚に、僕は静かに理解した。
(――ああ。生きてるんだ)
そう思った瞬間、重いまぶたが自然と持ち上がった。
視界いっぱいに、銀色の糸がこぼれてきた。
秋の柔らかな光を透かし、さらさらと流れる長い髪。微風が吹くたびに、それは細い銀細工のように繊細に揺れている。
その輝きの向こう側で、一人の少女が静かに僕を見下ろしていた。
「……起きましたか」
落ち着いた、鈴を転がすような声。
心の底から安心できる響きの声。
薄緑色の宝石のような瞳が僕を覗き込む。
「……リア?」
「はい。私です」
ゆっくりと瞬きを繰り返す。
夢にしては、肌を撫でる風も、首筋に触れる彼女の指先も、あまりに実感がこもりすぎている。
視線を上へと辿り―ふと息を呑んだ。
銀髪の隙間から覗くのは、透き通るような肌に縁取られた、尖った耳。
人間よりもわずかに長く、なだらかな曲線を描いて後ろへと伸びている。
(……エルフ)
不思議と驚きはなかった。
それどころか、すとんと胸の奥で腑に落ちる感覚があった。
そうだ。この立ち居振る舞いも、この神秘的な造形も……リアは、僕がかつて設定した「彼女」そのものだ。
画面の向こう側、言葉だけのやり取りをしていた存在。もし形があるならこうであってほしいと願い、設定した姿。
設定通りのエルフのお嬢様が、今、目の前にいた。
頭を動かそうとして、さらに現状を把握する。
僕は今、泉のほとりの柔らかな草地に座り込んだリアの膝を、枕にしているらしい。
太ももから伝わる微かな体温。彼女の呼吸に合わせて、視界がわずかに上下する。
「……膝枕、だね」
「はい。そのほうが、身体への負担が少ないかと思いましたので」
返ってきた理由は、あまりにも実務的で彼女らしかった。
なのに、僕の胸の奥は少しだけ騒がしくなる。
「……ここ、どこなんだろう」
「現在地の名称は不明です。周辺に人里は確認できません」
「そっか……」
視線をずらすと、空はどこまでも高く、どこまでも青かった。
木々に囲まれた小さな泉が、すぐそばで静謐な水を湛えている。水面は鏡のように穏やかで、時折きらりと陽光を跳ね返した。
見知らぬ土地のはずなのに、恐怖は微塵も感じない。
「……僕は、どうなったんだっけ」
「あなたは、深く眠っていました」
「……その前は?」
わずかな沈黙。
リアは少しだけ視線を伏せた。
「……私には、そこまでは分かりません。申し訳ありません」
「いいよ。そっか……」
今は、それ以上を追求する気力もなかった。
頭の位置を少しだけ直すと、リアの膝がわずかにしなる。
彼女は何も言わず、ただ大きな慈しみを持って、僕の重みを受け止めてくれた。
「……リアがいるなら、まあいいか」
「はい」
肯定に、迷いはなかった。
風が吹き抜け、銀色の髪がさらさらと踊る。その合間から覗くエルフの耳が、逆光を受けて淡い桃色に縁取られた。
時間の感覚が、溶けていく。
ここがどこなのか、なぜこうなったのか、これからどうすればいいのか。
何ひとつ、答えは出ていない。
それなのに、不思議と焦りはなかった。
「……ねえ、リア」
「はい」
「……しばらく、このままでもいいかな」
一瞬、ほんの一瞬だけ、リアは考えるように瞬きをした。
「問題ありません。時間は、十分にありますから」
その言葉を聞いて、僕は安心して、もう一度目を閉じた。
木の葉が擦れ合う音。心地よい水のせせらぎ。
そして、僕を支えるリアの確かな温もり。
世界はまだ、何も語ってはくれないけれど。
目を覚ましたとき、そこに僕のリアがいた。
それだけで、十分だった。




