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8、言い争い


「________いやー!通してよっ、この先の店にあるって店のお客様が言ってたんだ‼︎お願い………」


市場から体感的に大分歩いと感じ、だんだんとその声が大きくなっていた頃、やっと誰かが言い争っている声が見えた。景色は相変わらず、建物が密集した光景だけが延々と続いている。私が声のする方へ向くとガタイの良い肩に刃物で切られたような傷跡のある大男と小さい女の子が言い争っていた。


絵面的には猫とネズミぐらいの体格差があるが、女の子の方は大男に負けず劣らず、必死に何かを言っている。


「あーあ、いい加減にしろや。ここはお前みたいな子供が通っていいような所じゃないんや。悪いことは言わん、さっさとお家に帰って店の手伝いでもしてろや」

「そんなことできない!このままじゃ、お父ちゃんが死んでしまうの‼︎だから……それに通してくれるぐらいいいじゃない。私の命は私のものなんだから。この先がいったいどういう所かなんて、知ってる‼︎」

「しゃーねぇーな、言葉で分からないようなら力ずくでいくしかないよなぁーーー!」


大男はその女の子に向かって拳を作り、それを今まさに振り下ろそうとしていた。


どうしよう、これって助けないと絶対女の子の方が全身骨折とかになりそう。まあ、私は部外者で今ここに来たばかりだからこの二人の間にある事情なんか知らないし、何も知らないのに首を突っ込むのはどうかと思う。もしかしたら、世間一般の人々は普通は女の子を助けろと言うかもしれない。でも、それは少しおかしいと思う。私は理由もなくどちらかの味方をするなんて通常はしない。見た目だけで判断するなと皆が教訓のように言うのであれば、これもその範疇だろう。女の子の方が実は悪者でしたっていうこともないわけではないから。



_______でも、無抵抗な女の子を一方的に虐めるのはどうかと思う。


「はぁ、どうして、こんなにいい場所にこれが落ちてるんですか。誰かがセッティングしておいた…とか?こんな持ちやすい棒が落ちてあったら、助けるしかなくなるじゃないですか」


私はその棒を振り回して手の中で遊びながら、今まさに大男が女の子に向かって拳を振り下ろそうとしている場面に向かう。そして、その両者の間に立った。


シャンレストラ、と心の中で唱えながら、その棒を両手で持ってそこへ大男の拳が当たるようにする。


大男は急に現れた私に驚いたようだったが、拳は勢いをそのままにして止まることなく私に降りかかる。




________ガンッ




大男の拳と私の棒が当たる音がする。私の棒は折れることなく大男の拳を受け止めることができた。拳が棒に当たった時は組み体操で一番下を任された時並みに重い衝撃が来て驚いていた。見た目通りで力が強い。


男はまさか拳を受け止められるとは思ってもいなかったのか目を見開いて私を凝視している。


「は……嘘だろ、おい。どうして俺の拳が……」


なんですかそのバトル漫画とかで聞きそうなセリフは……別に私はバトル漫画の様な生活は求めてないのでどうぞおかえりください。


私が大男を冷めた目で見ていると大男は急に震え出し声を荒げた。


「ふざけるな…嘘だろどうして俺の拳がそんな棒ごときで受け止められるんだ‼︎そんなモップごとで………」


あれ、私が受け止められたことに驚いてたんじゃなくて、この棒が受け止められたことにショックを受けていたんだね。


本当は不良が使っていそうな鉄パイプがこういう人を助ける時は強度的にもいいと思います。それにその方が今みたいにこの人を逆撫でしなさそうだったけど、残念ながらこの辺りじゃ、鉄なんて転がってたらみんなすぐに拾ってしまう。だから、この街にはゴミというゴミが少ない。落ちているゴミといえば、腐った生ゴミなどぐらいだ。どんなものでも使えるものなら使い、売れそうなものがあったら売る。それがこの街の基本。


だから、あの場所にモップがあったこと自体、奇跡的なのだ。あ、勿論、このモップには今さっき硬化の術式をかけておいたから、強度は鉄パイプの何倍もある。だから、実質的にはこの大男が落ち込む必要性は皆無です。


「そんなモップごときでって……それはそれでモップに失礼じゃないですか?モップって鉄パイプなんかよりも優等生さんですよ?床を掃除するのは勿論、お茶をこぼしても屈まずに拭ける手軽さと立って掃除することで長時間掃除していても腰を痛めないっていう利点があります。それに比べて、鉄パイプは不良生徒しか使わないし、その人達を退治することぐらいにしか使い道が」

「あー!うるせぇよ。さっきから、長々とよく話からねぇこと言いやがって……俺は今ムシャクシャしてるんだ。一発さっさと殴らせろや」

「いや、それはご遠慮させてもらいます」

「逃げれると思ってんのかぁ?」


大男は下品な笑いを顔に浮かべている。確かに大男の言う様に、私と女の子がいる場所は大男が手を伸ばせば余裕で届く範囲ですし、掴まれたら最後、魔術無しの子供の私の力なら逃げることは不可能だろう。


しかし、私はついつい面白くて笑ってしまう。大男は訝しげな表情でそれを見ている。


「なんだ?ついに恐怖で精神がいかれちまったか?あ、まさかとは思うが、そのモップで俺と戦えば、勝てるかもしんねぇとか思ってんのかぁ?無理だぜそりゃ……さっきは片手だったが今度は両手だ。いくらお前でも両手は防げないだろ、そのモップがどれだけ硬くてもな」


そう言って大男は私達に覆いかぶさる様に両手を振り上げて見せびらかす。私の後ろから「ひっ」という声にならない悲鳴が聞こえる。それでも、そんな怖さを吹き飛ばす様に女の子が少しでも安心する様にと私は笑う。


「ふふ、やっぱり、教訓って大事ですよね」

「はっ?」

「あなただって一度は言われたことがあると思いますよ?人の話はしっかり聞くべきだって」

「それがどうした?」

「別にどうとでもありません。ただ、そのお陰でどうやら私は神に味方されたようですから」


私は持っていたモップをしたから上に持ち上げる。勿論、そんなモップの動きは大男に避けられるのは承知の上。ただ、私の目的はこの大男を倒すことじゃない。この大男から逃げることなんです。


さて、ここで、モップの一番の使い道は床を掃除することです。そして、床を掃除するためにモップ以外に必要なものがありますよね。



それは、水の入ったバケツです。


私がモップを見つけたとき、当然の様に水入りバケツが横に置いてあった。だから、モップを持ってくるついでにバケツも持ってきていた。どうせ、逃げることになるだろうし、何か隙が作れればという思いから。


私はモップを下から上に上げる時に、モップの先をバケツの取っ手に引っ掛けてそれごと上に持ち上げる。


「うわぁっ!何だ‼︎」

「ほら、今のうちに行くよっ」

「え、えっ?」


水とバケツは勢いのままに大男の顔に直撃し、不意打ちからか大男も慌てふためいている。私はその間に女の子の手を引いてその場を離れた。








「ちょっと、いい加減にはなしてよ‼︎」

「うわぁっ!」


大男から離れるために街の舗装されているものの、それが殆ど剥がれ落ちた道を途中、女の子がつまづきそうになりながらも止まるわけにもいかず駆け走る。


しかし、そろそろ大男をまいたと思われていた頃、女の子が手を強引に上下に振ってはなす。急に女の子が立ち止まったために後ろから引っ張られるかたちでこけそうになった。


驚いて振り返ってみると腕を組んで下から私の方を睨みつけている。だけど、その女の子も可愛いから全然怖くない。クリフも睨むなら、これぐらい可愛かったらいいのに……あ、でも、それはそれで気持ち悪い。


「えーっと」

「何してくれたの?もしかして、私を助けてあげた善人気取り?気持ち悪い、こっちはそのせいで迷惑してるの‼︎責任、とってよ」

「どういうことか、よく分からないんですが……」

「ふんっ、訳も話も知らないくせによく、止められたね?ほんっと尊敬するよ、善人さん?」

「いや、あなたが、襲われそうになってたから……」

「は、何?それで、助けてくれたって?あの男にいつも襲われそうになって喧嘩を吹っ掛けるのはいつものことなの」


なんんですかそれ……私がもしかしたら、女の子の方が悪者かもしれないって予想半分くらいあってのかな?


「ですが、あなたはどうして、あの男に喧嘩を吹っ掛けるの?」

「どうしてって、あいつがあの道を通してくれないから。怒らせていつもその隙に通ろうとするんだけど、失敗するの」

「あの道の奥に何かあるの?」

「あの道は『モーデス街』に続いてる。そこで買いたいものがあるの」


モーデス街?初めて聞いた単語だけど、特に聞き覚えもないってことは私には馴染みない場所なのかもしれない。


「あなたの買いたいものはその……モーデス街にしか売ってないんですか?」

「当たり前だよ………あんな、あんなものここら辺じゃ絶対に手に入らない」


女の子は苦虫を潰した様に、何か悔しい嫌なことを思い出しているようだった。


「そんなものっていうぐらいだから、何かよくない物なんですよね。そんなものが売ってるモーデス街は危険な所じゃないんですか?」

「はっ、そんなの誰でも知ってるし、チビだからって知らないと思った?ありがとう、わざわざ教えてくれて。ここはモーデス街の近くなの、そんなことも知らない様じゃ、命がいくらあっても足りないよ」


女の子の話から、モーデス街は命が取られても仕方がない場所なのだろう。しかも、それは常識らしい。おそらくだけど、モーデス街って物騒な裏通りか何かなのかもしれない。


そんなことを思っていると、女の子が踵を返して、せっかく逃げて来たというのに元来た道を歩き始めた。私はそれを見て、慌てて女の子の手を掴む。


「どこに行くつもり?」

「離してよ、善人気取りのお姉さん。どこってあの男に会いに行くの」

「そんなの、今度は本当にあなたが殺されます!」

「…………事情も知らないくせに、口出ししないで。あなたは私をここで引き止めて、


_________人殺しにしたいの?」


「えっ……」と思わず手を離してしまう。意味が分からない。この子の言う様に私は何も知らない。女の子は私が手を離した隙をついて走り出してしまう。追い賭けようにも、自分の足が動かない。あの子の言うことが正論過ぎて追いかける気も言い返すこともできない。女の子が走り過ぎる時に見えた横顔は、暗い雰囲気を抱えて悲しそうだった。その表情を見て、更に追い駆ける気は失せる。


私の手は女の子の手を掴み損ねて空中に浮いたままだった。何も知らないから、何もできないのは当たり前。今日、たまたま会った女の子を助ける義理なんてない。


「………今日はいろいろとおいてきぼりです」


森であったリリアーナさんもどこかへ何も言わずどこかへ消え、助けた女の子には手をはねつけられた。


私の行動がいけなかったのかな?それとも、他に何か原因があったのかな?それを考える情報もない。


無知はそれだけで罪なのかもしれない。私は別に特定の宗教のかには属していなかったが、そんなことを思ってしまう。何を始めるにも始めはやはり、その情報を探しことからなのかもしれない。


「情報は足で稼ぐって、刑事ドラマでもよく言いますし……とにかく、元の世界ぐらいの暮らしをしたければ、最初は情報集めってことですか。この街がどういうもので、何がこの世界の常識なのか知らないと。全ての話はそれからで」


私は背伸びをしながら、家へと向かう。森に行って街に戻ってきてからもいろいろとしていたせいで日が暮れ始めるのも近い。


するべき事は決まったらしい。明日からは情報集めをする事になりそうです。

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