表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/257

第八十七話

《K美より一通の手紙》


お久しぶり、お元気ですか?

私はあの仕事を辞めてから、自分のやりたかった写真を始めました。毎日の仕事をしながら、私は実家を離れて暮らして、自分のやりたい事ができて充実しています。


君はその後、どうお過ごしですか?恋人でもできたかな?君は本当に格好いいから、今、彼女がいない方がおかしいよね?


段々寒くなってきて、来月から師走ですね?今の君は、どんな事を思い生活していますか?私は最近、君の笑顔や声、君の優しさを本当に思い出す事が多いです。


君は本当に他の人には無い、優しい心の持ち主です。今はどんなに男らしくなったのか?知りたい時もあります。


そう言えば君はJames Deanのような写真が好きだって言ってましたね?私は今は、景色だけでなく、丁度、人物の写真に取り組もうと思っています。もし良かったら、今度会いませんか?君の写真をしっかり撮影してみたいです。


もちろん無理にとは言いません。都合の良い日で構いませんので、久しぶりに会いましょう!


これからはクリスマスの時期だし、色々とYも予定があるでしょうから、12月18日の土曜日はどうでしょうか?


横浜駅のダイヤモンド地下街前にある、交番横の公衆電話側で待ってます。ちゃんと撮影機材を持ってくるので、君もしっかりおめかししてきてね。


Yに、今すぐ会いたい…。


K美より


《1993年 記憶の闇穴 冬》


何が無理にとは言いませんだぁ~?ちゃっかり日時指定までしやがって、笑えるぜ!どうせ男と気まずくなって、転々としていたんだろう?馬鹿な牝豚だよ!この俺様が昔の人間だと思うなよ!?お前が偉そうに語った社会とやらで、俺様は作り笑いを覚え、人をごまかす事知ったのは、全てこの女に復讐する為さ!


でもさ、James Deanの話は覚えていてくれたんだ。それだけでも嬉しくはないか?あの時は、例え相手に傷が在ろうとも、守り抜く意思があった。例え引き裂かれようとも、僕が身を曝け出して、全てを受け入れようとしていた。それは本物だったじゃないか。復讐するべきことなのだろうか?


いや、それはよく考えた方がいい。全ての事情を知らないで、無垢のまま飛び込んで行ったのは、戦略も無く無能な上官に騙された、愚かな若い特攻隊員と同じだ。人が関わるもの全てに戦場は存在する。例え、こんな陳腐な恋愛でも、弱肉強食は存在するからこそ、鋭く立ち振る舞わなければ。


私はこの人は、今は寂しいだけのような気がします。何かのきっかけが欲しくて、闇雲に彷徨っていて、だけど、それが正しいのか間違っているのかは別問題だと思います。相手を傷つけるなんてこれっぽっちも思っていないはず。ただ、自分の寂しいさと不安な気持ちに忠実に生きているだけだと。


では、我はそなたに問う。自分に忠実に生きている人間が寛容された時に、はたして相手は感謝の念を置いてくれるだろうか?むしろそれは都合の良いように解釈されて、さも自分が行ったと勘違いされてしまうのではないか?


自分は思うんだ。今、この手紙を貰った。正直妬ましい気持ちもあるが、まさかくるとは思っていなかった。自分なんて忘れ去られた存在だと思っていたからだ。けれど、こうやって覚えてくれて手紙をくれたのは、本当に嬉しいよ。


自分は今、仲間になってくれた自意識達と熱く討論をしている。そう、もう過去には戻れないし、そして感傷は自分への言い訳でしかない。ならば彼らがいてくれた事を誇りに思わなければ。彼らはこの先、昔の自分が何を行うのか知っているのにも関わらず、再度改めて意見を交わしてくれている。


過去を懐かしむだけの人間には、壁に立ち向かう度胸が無いだけ。

過去に縛られてる人間には、傷つく事を恐れるてるだけ。


だが自分は違う。この過去を通して、全ての自意識を手にして、過去を洗い直し、傷つく事を恐れず、傷つける事に躊躇せず、生きて行く道を歩むんだ。


「よし、K美さんに会ってやるさ。」


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ