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第四十三話

失望という暗闇は突然やってくる。期待も要求もしていないのに、彼らは面白がって目の前の希望という昼間を、悪戯に心細い真夜中に変えてしまう。信じられる愛が唯一の幻想ではないのか?と、問いかけてくる夜に対して、それには答えない方が良いから目を閉じる事にした。


自分は課長の言葉を聞いて、仕事を終えて近くのスナック『アケミ』に行った。入社してから課長に『社会人たるもの、こういった飲みニケーションの場所は大切だ』と、無理矢理連れていかれたスナックで、平成になってからもう五年も経つというのに、未だにここは昭和の香り漂う、カラオケ一曲250円も取る楔れたインチキくさい場所だ。


「あらいらっしゃい!今夜はお一人?」

「いえ、後から課長がきますんで。」

「お席は、カウンターの方がよろしい?」

「あ、はい。」


どうもここにはまだ慣れない。店はたった一人で切り盛りするアケミママだけだ。話しによると、昔はかなり美人だったらしく、かなりモテていたようだけど、男性に色々騙された結果、やっと自分の小さなお店をガード下に持つ事ができたらしい。アケミさん気配りとお節介が交差する話し上手な人。でも遠慮無くいつも会話に入り込んで来るから、あんまり好きではない。暇な時はあからさまで、テレビを観ながら脚を組んでタバコを吸ってる。どうもこの人は苦手だ。


「お~もうやってるのか?」

「いらっしゃい!あら課長さん~!部下の人がお待ちになってますよ~。」

「課長!!」

「すまんな遅れて。」

「いえいえ」

「とりあえず、アケミちゃん、ビール頂戴。」

「喜んで!」


ビール瓶からシュポっと抜ける様ないい音が聞こえた。アケミさんは手馴れた手つきでグラスを2つ持って、こちらのカウンターまでやってきて、ビールを上手に注いでくれた。課長はおしぼりで手をこまめに拭きながら、労働の後の最高の一杯を心待ちにしている様子だった。


「はい、お待たせ!今日はとてもお疲れだったでしょう?」

「ええ、色々な事がありましてね。」

「だと思った!課長さんは頑張っちゃう人だから~。」

「流石にアケミちゃんは鋭い!!違う支社でゴタゴタがありましてねぇ~」


何だか二人の世間話はどんどん華を咲かせて膨らんでいく感じで、自分は一人置いてけぼりな感じだった。これが社会人たるもの、付き合いや気遣いなんだろうか?自分にはまだまだ足りない。


「あらいけない!ついつい話し込んじゃった。」

「いえいえ、全然平気だから。なァ?」

「あ、はい!」

「あらそう?実は課長さんに相談があって~。」

「どうしたの?」

「いえね、うちのプロパン屋さんが最近どうも商売っ気が全然無くてぇ~、結構困ってるのよね。どうしたら良いかしら?」

「今なら直通でガス引いてもらった方が良いんじゃないかな?工事費は色々なかさむけど、ここら辺の商店街で共同で頼めば、かなり割安ですよ~。」


また不毛な世間話は続いていく様子だった。肝心の話が始まり出したのは、課長が三曲カラオケを唄い、ビールを四本空けた後だった。


「実は今日は色々な事があったんだよ。」

「色々な事ですか…。」

「K美は突然出社拒否して、部長はとにかく彼女の実家へ行ったわけだ。そしたらK美は実家にいなくて連絡も取れない状況が続いたわけさ。さらにその時に部長は携帯を紛失させていた事も気付かずに探し回っていたようだ。

その後やっと自分の携帯を紛失させたことに気が付いて電話を本社にいれたってわけさ。しかし問題なのはK美であって、全く連絡が付かないんだ。」

「全く連絡が付かないんですか…え?」

「どうした?」

「いや、って事は今でも連絡が付かないんですか!?」

「ある意味Yesである意味Noだ。」

「一体…?」

「いいか、これからはお前の心次第で決まってくる。その覚悟が無ければ、この先は聞かない方がいい。」

「覚悟…ですか…?」

「そうだ。聞きたくない事や、知りたくない事があるかも知れないし、それらに押しつぶされてしまうかも知れない。お前のK美に対する愛情が試されるんだ。」


迷いは無い。正直知りたくもない事は聞きたくも無いけど、自分の愛情は揺るぎないもので、間違ってはいない。それには自分だけがK美さんを守れる騎士なら最高じゃないか!


「お願いします。全て話してください。」


続く

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