第四話
出会いなんてものは、些細な勘違いの積み重ねから始まる…。
それは、このカウンターで何回グラスを傾けたのか?を数えることと同じ。つまり無意味だって事だ。この相手もまた、新作の洋画が至るところで宣伝されるように、自分の瞳のなかに映り込んできただけで、いつかは名前も忘れてしまう存在のはずだった…。
Kとしよう。
この相手には好ましい名前だ。よく気配りのきくし、話もしやすいし、冗談にも乗りやすい。あしらい方も決して嫌味ではないから十分だ。少し気になるのは甲高い笑い方くらい、だが、そのくらいの方がバランスがとれてる感じがする。
さて、どうしたものか?いつものように馬鹿話とばか騒ぎをして巻き込むだけか?それとも少し真面目に話でもしてみようか?選択はいくらでもある。ただ今の感じでは自分には目的がないだけだ。
右手でグラスを傾ける。のど越しに伝わる冷たさと、指先に残る温度が多少変わり始めた。少し酔いが回り始めた感触だ。Kはこちらの空のグラスを見つめては催促をしている。
構わないさ…。当然だ。いくらでも飲むがいい。別にただ自分が楽しければそれでいいのさ。俺は愉しみたい。それだけだ。
幾度となく、そんな些細な勘違いの積み重ねを繰り返していた。こちらも相手の意志は分からないし、相手もこちらの意図がわからない。ただ、互いに費やしているものへの情熱だけには、勘違いを重ねないように心掛けていたのかもしれない。Kには服飾というものがあり、俺には絵画というものがある。だが、互いに表現の仕方は違えど、芸術性に関する感性を論じれば、Kは思った以上に素直になっていた。
だが、二人が互いに一線を越えることはなかった。いや、あり得なかったと言ったほうが楽だろう。それは奇妙な関係ともいえる。元々酒好きな二人だが、Kはタバコを常に曇らせているが、自分にはそれが理解不可能だった。あんな、吐き気のする、煙たいものを身体の中へドバドバ吸い込むなんて。
二人は変わらない。約束はするが守る必要が無い。それがKにも、そして俺にも心地の良い居場所だったのかも知れない。
だが、そんな二人の居場所を、少なくとも俺自身がギクシャクする出来事が起きた。それはKの姉である、これまたK子であった。
続く




