7.
同棲開始から半年後。
両家の部下たちがもうアイツらは放っておこうとサジを投げ、領地境の小競り合いすらもはや身内だしなと激減し、平和が訪れかけていた頃。
レオンの私邸に、再び両家の重鎮たちが集められていた。
暫定的な婚約期間の進捗を確認するための定期会合だったが、長テーブルの上座に座ったミウの口から、再びとんでもない爆弾が投下された。
「というわけでお父様方。私、赤ちゃんができたみたい」
サクッ、とミウがのんきにクッキーを齧る音が、静まり返った室内に響く。
「「は、はら、孕ませたァァァーーー」」
ミウの父とレオンの父が、今までにないほどのシンクロ率で椅子を蹴立てて絶叫した。まだ結婚の許可すら正式に出していない段階での、まさかのできちゃった宣言である。
「ぅおのれぇレオン。婚約期間中だぞ。なんという破廉恥な」
「待て白狐の、うちの息子だけが悪いわけでは……いや、レオン、貴様手際が良すぎるぞ」
父親たちが頭を抱えて大騒ぎする中、ミウの隣に座るレオンは、いつも以上の、それこそ世界が滅びる前兆かと思うほどの恐ろしい鉄仮面で腕を組んでいた。
あまりの凄まじい眼光に、周囲の部下たちは若が責任を取るのが嫌で怒っていらっしゃるのかとガタガタと震え出す。
しかし、ミウには分かっていた。
レオンの優秀な頭脳は、今、完全にキャパシティを超えてフリーズしているが喜びと驚きで心が躍っているのだ。
その証拠にレオンの黒い耳は、動揺と歓喜のあまりペタンと真横に寝たままで完全にロックされ、お尻の後ろの長い尻尾は、嬉しさが爆発しすぎて、ガガガガガガガガという凄まじい振動で床板を高速連打している。すでに私邸の床に小さな穴が開き始めているのだ。
(喜んじゃって。レオンにも秘密にしていて良かったわ。ふふふ、可愛いわぁ。でも、また床の修理をしなければならないのねぇ)
などと一人マイペースに考えていたミウに、復活し始めたレオンはゆっくりと近づいてきた。そして、震える手でミウのまだ平らなお腹にそっと大きな掌を添えたのだ。
それから大真面目な顔のまま低い声で言った。
「……結婚する。明日、式を挙げる」
言葉は短いが、その目には何が何でも今すぐ籍を入れるという狂気的なまでの強い決意が宿っていた。
「……はあ。もう、勝手にしなさい一等賞……」
白狐の長老が、遠い目をしながらぽつりと言った。
「長老、そこで一等賞を使うのやめてください。でもまあ……そうですね、あの尻尾の喜び方を見てたら、もう反対する方が野暮ですよ」
両家の部下たちも、呆れ果てた顔でスコーンを齧りながら、パチパチと投げやりな拍手を送り始める。
「ふふ、ありがとう。レオン、これからもっと忙しくなるわね。よろしくね旦那様」
ミウがレオンの頬に優しく触れると、年下の若き黒豹の騎士たる旦那様は、大真面目な強面のまま、耳の裏を真っ赤にしてフイッと顔を背けた。
けれど、その長い尻尾は、今度はミウの腰にそおっと壊れ物を扱うように愛おしげに巻き付いていくのだった。
(めでたし、めでたし?)




