第12話 世界一可愛い娘のために
「おしろー! パパ、かっこいいー!」
メリアの賞賛を浴びながら、俺は次の工程である大工仕事へと移行した。
家が清潔になったとはいえ、腐って強度が落ちた柱や、穴の空いた屋根をそのままにしておくわけにはいかない。
俺は腰の『マジック・ポーチ』に手を突っ込んだ。
パーティー時代、いつ何時、どんな環境で野営することになっても対応できるようにしろと、理不尽な要求をされていた俺のポーチには、大量の予備木材や切り出した石材が収納されているのだ。
まさか自分のマイホーム建築に役立つ日が来るとはな。
「まずは、崩れかけの柱と屋根の補強からだ」
俺はポーチから、重さ数百キロは下らない巨大な堅牢樹の木材を取り出した。
普通の大工なら、数人がかりで何日もかけて運ぶような代物だ。
「ふっ……『超・身体強化』!」
自身の肉体に高密度の魔力を循環させ、筋力や耐久力を人間の限界の数十倍にまで引き上げる支援魔法。
ズンッと地面が沈み込むような感覚とともに、俺の全身に圧倒的な力がみなぎる。
俺は、その数百キロの新しい巨大な木材や石材を、まるで発泡スチロールの棒切れでも扱うかのように、片手で軽々と持ち上げた。
「よっ、ほっ、と!」
俺は巨大な木材をヒョイヒョイと肩に担ぎ、驚異的な跳躍力で家の二階の屋根まで飛び上がった。
そのまま腐った柱や梁をバリッと引き剥がすと、代わりに真新しい木材をはめ込んでいく。
トテトテトテ……。
「パパ、しゅごい! おっきな木、もってるー!」
「メリア!?」
ふと下を見ると、いつの間にかメリアが木の陰から出てきて、家のすぐ近くまでやってきていた。
俺が屋根の上で大立ち回りを演じているのが面白くてたまらないらしく、俺が動くたびに、アリアが俺の後ろをトテトテと可愛らしい足音を立ててくっついて歩いてくる。
右に移動すれば、メリアも右へトテトテ。
左に移動すれば、メリアも左へトテトテ。
なんだあの生き物は。可愛すぎるだろ。
上を見上げて一生懸命に手を振る娘の姿に、俺のモチベーションはついに限界を突破した。
「おおおおおおおッ!! パパ、やるぞおおおッ!!」
もはや疲労などという概念は消え去った。
俺は凄まじいスピードで木材を配置していく。
だが、ただ木材を置いただけでは家は建たない。そこで俺の魔法の出番だ。
「『土属性魔法木属性魔法』!!」
俺は両手に異なる属性の魔力を集束させ、土属性・木属性の基礎魔法を高度に応用して発動させた。
俺が手をかざすと、木材の接合部が魔法の力で細胞レベルで融合し、釘やボルトを一切使わずに、まるで最初から一つの木であったかのようにピタッと強固に結合していく。
隙間風が入っていた壁の穴は新しい板で完全に塞がれ、傾いていた家の土台は、土魔法で再固定された。
「次は屋根だな! 雨漏りなんぞ、メリアのパパが絶対に許さん!」
俺はポーチから大量の石材と瓦を取り出し、空中に浮かんだ資材を魔力による念動力で操り、屋根の上にパズルのピースをはめるように次々と敷き詰めていく。
数百キロの資材を片手で扱い、魔法で木と石を自在に結合させる屈強なおっさんと、その下で目を輝かせながらトテトテと追いかける三歳の幼女。
物理法則を完全に無視したチート級のリフォーム作業は、日が暮れるよりもずっと早く、わずか数時間で完了してしまった。
「……ふぅ。終わったぞ」
俺は屋根から飛び降りて、額の汗を拭った。
見上げる先にあるのは、お化け屋敷のような廃屋の面影など微塵も残っていない、完璧で頑丈なマイホームだった。
腐っていた外壁は新しく張り替えられ、屋根は美しく葺かれ、どんな豪雨だろうと一滴の雨漏りも許さない。
割れていた窓には透明度の高いガラスがはめ込まれ、太陽の光を反射している。
ボロボロの家が一日で快適なマイホームへとあっという間に変貌したのだ。
「……あとは、結界だな」
小さく呟き、俺は両手をゆっくりと持ち上げた。
指先から魔力を巡らせる。
意識を研ぎ澄ませ、家を中心に一定の範囲を思い描く。
――この場所だけは、絶対に守る。
淡く光る魔力が空気に溶けるように広がり、見えない膜となって周囲を包み込んでいく。
結界を張らなければ、メリアが魔物に襲われる可能性もあるからだ。
だが、この結界がある限り、魔物はこの家には近づけない。
やがて魔力の流れが安定し、結界は静かにその場に定着した。
「……ふぅ」
張り詰めていた神経が一気に緩み、俺は大きく息を吐く。
「メリア、お待たせ。俺たちのお家が完成したぞ」
俺が振り返ると、メリアはあんぐりと小さな口を開けたまま、新築同様に生まれ変わった家を見上げて固まっていた。
「ぱぱ……これ、ほんとにおうち……?」
「ああ。今日からここで、メリアとパパの二人の生活が始まるんだ。ここは世界で一番、安全で温かい場所だ」
俺がしゃがみ込んで両手を広げると、メリアの青い瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは純粋な喜びと安心からくる涙だった。
「ぱぱぁっ……!!」
メリアは小さな足で全力で駆け出し、俺の胸の中に飛び込んできた。
俺は勢いよく飛び込んできたその小さな体を、愛おしさを込めて力強く抱きしめる。
「ありがとう、ぱぱ……! メリア、おうち、だーいしゅき!!」
「俺も、メリアが大好きだ」
夕日が丘を赤く染め上げ、新しく生まれ変わった我が家を優しく照らし出していた。
頬にすり寄ってくるメリアの温もりと、新調した綿の服の良い香りが、俺の心の中にあった最後の孤独を完全に溶かして消し去ってくれる。
俺を不要だと言って捨てたパーティーは、今頃どこで何をしているだろうか。
だが、そんなことはもうどうでもいい。
俺には今、守るべき世界一可愛い娘と、帰るべき温かい家があるのだから。
「さあ、メリア。お家の中に入って探検しようか。パパが特製のフカフカのベッドを作ってやるからな」
「うんっ! たんけん! ふかふかのべっどー!」
メリアは涙を拭い、満面の笑みで俺の手をギュッと握り返した。
こうして、俺たち親子ののんびり子育てライフが、本格的に幕を開けたのである。
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