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夢の監獄  作者: 杜 妃湖
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暗夜行路

「…ッ…」

柊が目を覚ましたときに飛び込んできたのはぐちゃぐちゃと泥濘む空き地に不釣り合いな高級ラグ、そしてその上で隆弘に戒めを受ける綾子の姿であった。

服はほとんどはぎ取られ、ざわざわと叢雲がせわしなく動く月光に時々照らされるのは、その白い肌に幾つも刻まれた、痕。それに綾子は歯を食いしばって耐えている。

「ああ、綾子…どれほどこうしたかったか…髪をなでて口づけて、めちゃくちゃにしてやりたかったのに…君は俺の好きなその髪を捨ててしまったんだね?本当に悪い子だ」

そう言いながらいくつもの痕をつけていく。

「…アッ…」それまで耐えていた綾子が声を上げる。

その男⸺隆弘が口づけていた太ももにはくっきりと、歯型が残されていた。

「早乙女!やめろ! 」

拘束されたまま柊が声を上げると隆弘はゆっくりと振り向いて嗤いながら「お目覚めかい」と声をかける。

「早乙女、お前のそれは愛じゃない…暴力だ!解らないのか!?」

なんとか拘束を解こうともがきながら隆弘に声をぶつけると隆弘はつかつかと柊の元に歩み寄り、ごく事務的な動きでその腹を蹴り上げた。

「げえっ…!!」びしゃびしゃと胃の中身がぶちまけられる。

隆弘はそれを見て満足そうに笑うと柊に顔を近づけて口元に指を立て、「シー。観客は騒がない。舞台の常識だろ?」そう言い放つと綾子の元へ戻り、またいくつもの痕をつけていく。

(理性のタガが完全に外れてやがる…くそ…綾子さん…)

綾子に視線を送る。その視線に気づいた綾子はニッと笑ってみせた。

そして隆弘に向き直り「隆弘…こんなもの?ねえ、私に対する罰はこの程度なの?」とクスクスと笑う。

「煽ってくれるね、綾子。」そう言うと隆弘は長い指で綾子の身体を弄る。

「君の弱いところはぜーんぶ、全部知っているんだよ、綾子」

そう言ってまた笑うと隆弘は綾子の身体を再び痛めつけ始めた。綾子の呼吸が荒くなる。

それでもその瞳だけは、キッと隆弘を睨みつけている。


「まだそんな反抗的な目をするのかい?」

と隆弘はスーツの上を脱ぎ捨てて綾子に口づける。

呼吸もできぬほどの長い、長いキス。

「…ぐっ…」不意に隆弘が綾子から身体を離す。

綾子は上等なラグの上に、ベッと何かを吐き出した。

肉片。長い長いキスの間に、綾子は隆弘の唇の端を食いちぎったのだ。

「おあいこね」と笑う綾子に隆弘はしばし唖然として⸺そしてまた嗤いだした。

「君って女は、本当に俺を飽きさせない。いいだろう。支配権がどちらにあるのか、ここではっきりさせよう」そう言うとズボンのファスナーを下ろしていく。

柊が再び綾子の名を叫ぼうとしたとき、綾子は素早く首を横に振った。

「今は何も喋るな」目線はそう訴えていた。


(綾子。考えるの。どうしたらもっとこの人の気を引けるか⸺周りが見えなくなるほどに夢中にさせられるか⸺考えるのよ…!!)


隆弘が綾子のスカートを乱暴にたくし上げたその時、綾子が口を開く。

「つまらない、つまらないわ、隆弘。」首をフルフルと横に降ると妖艶な目つきでこう言い放った。

「ねえ、隆弘。あなたがウロウロと私達を探してる間に何があったと思う?私⸺由人さんに抱かれたわ。とてもとても熱く。頭がおかしくなるんじゃないかと思うくらいゾクゾクしたの。」

明らかな挑発。


隆弘の目が狂気、否⸺殺気を孕んでゆく。

「あなたが今犯そうとしているそこに⸺何度も何度も突き上げられて。あんなのはじめてだった⸺ねえ、悔しいでしょう?従順だと思っていた女に出し抜かれて。殺してやりたくなるでしょう?」

クスクスと笑う綾子に隆弘は「そうか」と冷たく言い放ちその細い首に手をかけた。

「綾子…君が望むのなら⸺いいさ。殺してやろう。」

その声は最早なんの感情もなく、綾子に降りかかる。

「戒めはもういいの?こんなに簡単に終わらせていいの?あなたの私に対する気持ちってその程度だったの?ねえ、隆弘。」

命がけの挑発。


「嬲り尽くして殺してやるよ、愛しい綾子。君は永遠に俺のものだ」

隆弘はそういうと綾子にのしかかり、その手に力を込めていく。


と、その瞬間だった。隆弘は頭に違和感を覚え振り返る。

手袋を外した柊が隆弘の頭を掴んで立っていた。

「柊さん!今よ!私も一緒に!」

柊は綾子の頭にも手を乗せる。ぐにゃりと歪む景色。


そして、三人はその場に倒れ落ちた。


「綾子お姉ちゃん!!柊さん!!しっかりして!!」

そこにはハサミを手にした叶恵がいた。


あのとき綾子が囁いた言葉⸺「すぐ近くに柊さんの車がある。ダッシュボードにハサミがある。あとはわかるわね」

叶恵は託されたミッションを遂行したのだ。

「綾子お姉ちゃん!柊さん!!ねえ!!」

叶恵の叫び声は虚空に消えて行った。

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