#02 死者からの手紙の真実
語り部⇒⇒⇒⇒島戸久琵
場所⇒⇒⇒⇒水岡大学勝木キャンパス・食堂
「いやー、昔からの友達がいない大学に入ったけど、しまっちゃんがいるからめっちゃ心強いよぉ」
「それはこっちもだよ。それにしても、皆キラキラしてるよねー。あ、もちろん鹿田ちゃんもだけど」
「そんな、ちょっと照れるぅ」
今、私は学科が同じである鹿田亮子ちゃんとランチタイムだ。
「そうそう、今日講義あるの教えてくれてありがとね」
「もしかしてと思ってねぇ。ほんとに知らなかったっぽくてビックリだったよぉ」
なにも言葉が返せない。
「ほんとになんてお礼すればいいか」
小声でつぶやいたが、鹿田ちゃんの耳に届いてしまった。
「あぁ、じゃあひとつ。これは相談みたいなものなんだけどぉ…」
鹿田ちゃんはカバンから一つの紙を取り出した。
「まだ会ってから一か月も経ってない島ちゃんにする話題じゃないかもしれないけどぉ...」
「私が力になれるなら」
「じゃぁ、お言葉に甘えちゃって」
そう言うと鹿田ちゃんはその紙を見せてくれた。
「はがき?裏は真っ白だね」
「そう。しかもわたぁしの名前、住所はしっかり手書きで書かれているのに、差出人についてはいっさい何も、書いてないんだよねぇ」
え、怖。
「今はまだ被害とか遭ってないよね?」
「うん。今はわたぁしも実家から通ってるから、まだ安心できるんだよねぇ。親がいるからぁ、ね」
「そっか」
「でぇ、相談というのはぁ、これをどうしたらいいかなぁ、という感じでぇ」
「え、ちなみにこのようなことをする人に心当たりはあるの?」
「ないねぇ」
「じゃあもう警察に相談した方が良いと思う。企業の広告とか病院の定期健診の告知でもなさそうだし」
「えーでもちょっと大袈裟じゃない?」
「いや…でもどうなんだろう。私もそういうのはフィクションでしか見たことないし、実際にどう動けばいいのか分かんないな」
ストーカーなのか、はたまた知り合いのミスなのか。
「まぁ、様子見、てことにしちゃおって思ってるんだよねぇ。そんな気にしてもいないしぃ。まぁ、これで久琵ちゃんからの恩は返してもらえたよぉ」
場所⇒⇒⇒⇒島戸久琵の部屋
その後も特に大きな出来事もなく、今日の講義は全て終わった。
不安だ。だが、本人も気にしてないし、私が気にしすぎてもどうにもできない。
まあ、何かあったら究明や冬ちゃんの力を借りればいいや。
あの二人とはゴールデンウィークにまた会うつもりだったし。
なんだかんだでお互い最寄り駅が席省駅だから、その気になればすぐに会えるのにここ数週間はあまり会わなかった。連絡も次いつ会うかしか交わさなかったのだ。
ま、シンプルに予定が合わなかっただけなんすけどね、ハハハ。
こう見えて今年の私の抱負の一つは『ノリのいい人になる』なんでね。
予知夢に関しては見た時にしか気にしないんでね。
長年そういうのを見てきたせいで、いつのまにかそういうスタンスになったんでね。
しかし、まだこのノリを披露したことはない。だってまだ知り合ったばかりの人しか話してないからだ。
まあ、見たらその時は大変ではあるけど。
やはり自分の非力さを実感してしまう。その被害を止められなかったということは、場合によってはか なり心に来る。その予知夢がここ九年間で現実にならなかったことはまだ一回しかない。
だめだ。今はそんなことは考えなくてもいい。それにせっかくのゴールデンウィークなんだから、もっと気楽に考えよう。
あと数日じゃないか。
そして、思ったよりも早く数日は過ぎた。何も起こらすに。私も夢を見ずに。
場所⇒⇒⇒⇒湯西究明の部屋
「久々だな。久琵が元気そうでよかった」
「うん。二人も元気そうだね」
「もうあの日曜日から二週間も経つなんてね、わたしには実感ないよ」
「逆だな、俺はもう五年前のような気がしてまう」
「私なんか、もうあまり覚えてないよ。あの時はすごく必死になってた気がするのに」
「やっぱ俺らは老けたんだな。俺はもう長くない気もしてきたな」
この二人もオフの空気はこんな感じだ。
「そうだ、究明。久琵ちゃんに工場長さんのこと教えてあげてよ」
冬ちゃんこと栄森冬子が話を振った。
「ああ、そうだな。どこまで話したか?」
「冬ちゃんによる工場長さんが警察OBだってことぐらいかな」
「それはもう知ってるんか。その人が俺のバイト先の店長だということも?」
「教えてもらった」
「そこまで知ってるんだったら話は速い。じゃあせっかくだし昔話でもするか」
「これは俺が高校三年の冬の時のことだ。その時はもう推薦で今の大学への入学が決まっていたからな、バイトをしようと思ったんだよ。で、バイト先の工場で工場長に会ったのが始まりだったかな」
「へぇ、推薦だったんだ」
「そうなんだよ。で、他のところは知らんが、バイト先の工場の面接に工場長も同席したんだ」
「うわ、めっちゃ緊張したでしょ」
「ああ、もう変な汗が出たよ。けど、面接後の雑談、みたいな会話をしていた時にこう聞かれたんだよ」
~二人の人間がいて、一人は泣き、もう一人は泣いている人を見降ろしている。君はどうする?~
「なんか、心理テストみたいだね」
「そうやって人の傾向を見ようってことだな。ちなみに久琵だったらなんて答える?」
「え、うーん。私だったらすぐ助けるかな。泣いてるってことは何か非日常的なことが起きてるってことだろうから」
「勇敢だね。わたしなんかちょっと怖くて一人では介入できないよ」
「まあ、というように人の考え方を見る質問なんだろうな」
「面接でそんな質問があるなんて珍しいね。ちなみに究明はなんて答えたの?」
「まあ、無難に『なにがどう起こったのか分からないから、まずは様子を見ます。何も起こらなかったらそのまま通り過ぎますし、もし事態が悪化するようなことが起きたら止めに入ります』だな。そしたら、ほうって言われた」
反応薄っ。
「で、その話題は終わり。そのバイトには受かった。まあ工場長は何だかんだで頼りになる人だから、この前も相談した。そしたらちゃんと援護をしてもらえたってわけ」
...?途中で聞き逃した?
そんな『ほう』って感想を持っただけの若者にそんなに協力できる?『ほう』から援護までの経緯はさっぱり分からなかったのは私だけ?
「まあ工場長についてはこのぐらいかな」
この時はさらに突っ込む気が起きなかったから、このままこの話題は終わった。
「あのさ、二人に質問というか、確認というか…」
「おう、どうした?」
「…もし、またなにか事件とか起こったら協力してくれる?」
「もちろん」「わたし達でもよければ」
私は鹿田ちゃんの真っ白はがきについて話そうとした。けど止めた。
さっきの究明の言葉を思い出したからだ。
多分、今その話をしても意味はない。
まだ、何も起こっていない。本人も気にしていない。何らかのエラーである可能性もある。
それに、まだ私も夢で見ていない。
二人は少し戸惑ったかのような表情をしてお互いを見合っている。
急にそんなこと言われたらたぶん誰でもこんな表情になるだろう。
「あ、そうだそうだ。これ前から聞きたかったんだけどさ」
とっさに話題を変える。
「二人っていつから知り合いなの?」
冬ちゃんの温かみのある糸目がこっちに向いた。
「いつから、ねー。細かく言えば、高校で一緒ではあったんだけど、その時はお互いあまり認知してなかったんだよね」
「そうそう。で、大学での最初のオリエンテーションの時にお互いが母校が一緒だってわかったんだよ」
「へぇ、ちなみにどこ大学?」
「水岡」「水岡」
一緒やんけ。
「私も。え、どこキャンパス?」
「わたし達は波枝のキャンパスだよ」
「あー。二人とも理系なんだ。私はゴリゴリの文系だから勝木のほうなんだよね」
「あーちゃー。惜しい」
「種族が違ったか」
「え、じゃあそっちのキャンパスがどんな感じとか聞いても」
「もちろん」
場所⇒⇒⇒⇒島戸久琵の部屋
他愛もない会話でも、かなり楽しいものだ。
その後も買い輪は続き、最後に次また会いたいときにお互い連絡しようって話になり、そのまま解散した。明日からまた平日だから、遅くならないようにということで。
私は予知夢を見るが、それでも予知夢を見ない人のように生活する。だから誰にも話さないし、あの二人にも話さない。
たとえ予知夢を見ようとも、私の力ではどうにもならない。だからもう気にしない。気にしても意味がない。
そう思っていたのに。
私は夢を見た。
真っ暗な空間で、かたい床に横になっている。
片腕と片脚が痛い。
痛くない方の腕と脚を使って動こうとしても動けない。
痛い。片腕と片足以外も痛い。
痛い。
痛い…
私は目を覚ました。
気分が沈んだまま、私は手帳に今日の夢のキーワードを書いた。
『体 痛い 動けない かたい床』
とりあえず身支度をし、朝ご飯を食べ、大学へ出発した。
場所⇒⇒⇒⇒水岡大学勝木キャンパス
道中、あの二人に連絡すべきだと思いスマホを出したが、まだ何も起こっていないと思い、チャットを打つのを止めた。
なんなら、あの二人がかかわっているかどうかすら分からないのだ。やはり連絡しない方がいいのか。
結局、少し考えてから二人に『今日、身の回りに気を付けて』と送った。
二人から了解と感謝のスタンプが送られてきた。
大学についた後、自分が送ったメッセージが不気味がられるかと思われたらどうしようなんて思う余裕すらなく、あの状況になる瞬間がいつ来るのかということしか考えていなかった。
あの場面になる瞬間、だれが巻き込まれるか分からない。
私の場合もあるし、知り合いかもしれないし、何なら知らない人かもしれない。
ただ、私の生活圏内で起こることは確かだ。
講義が始まる。鹿田ちゃんも私と同じ机に…
いない。
出席をとっても鹿田ちゃんの現在位置を知る者はいなかった。
ああ最悪だ完全に失念していたそうだ鹿田ちゃんだって対象じゃないか場合によっては鹿田ちゃんに被害が及ぶんだそれなのに連絡の一つもしなかったあの鹿田ちゃんがいない理由が思いつかないこの前だって私に講義があることを教えてくれたのは鹿田ちゃんだ鹿田ちゃんが忘れているわけがなああああああ
「と、とりあえず連絡しなきゃ」
スマホを見て、メッセージを送る。
〈今どこ?身の回りに気を付けて〉
既読のマークすらつかなかった。
場所⇒⇒⇒⇒水岡大学勝木キャンパス・食堂
その日、私はお昼ご飯を一人で食べた。
今のところ私の身の回りで事件や事故は起きてない。
と、この時スマホが揺れた。メッセージが来た。ただ、鹿田ちゃんではなかった。
まさかの冬ちゃんからだった。
〈久琵ちゃん?何かあったの?〉
返事を送る。
〈そっちは二人とも今の所無事?〉
すぐに返事が来た。
〈うん〉
良かった。少しは気が楽になったが、それでもまだ安心しきれない。
冬ちゃんからもう一つメッセージが来た。
〈究明は「久琵の第六感は当たるからな」とか言ってた(´・_・`)〉
第六感て…まあ言うとしたら第六感かぁ…
でも何かチョトチガウ…が挽回はやめた。
〈やっぱり今回も、その...第六感?〉
少し悩んで、メッセージを返した。
〈まだ何とも〉
結局、この日を私は特に巻き込まれることなく終えた。
そして、鹿田ちゃんへのメッセージに既読のマークはつかなかった。
場所⇒⇒⇒⇒島戸久琵の部屋
翌日、鹿田ちゃんからの返事が来た。
良かった、と思ったのも束の間、内容はかなりまずかった。
〈昨日連絡できなくてごめんね涙
事故っちゃって、今入院してるけど今は大丈夫だよ~〉
ああ、やってしまった。
過去の自分を憎む。もっと早く連絡していたら。
場所⇒⇒⇒⇒水岡大学勝木キャンパス・食堂
〈…ということがあってさ〉
冬ちゃん、究明、そして私の三人のグループチャットに今回のことを連絡した。
〈事故はどのようにして起きたの?〉
〈交差点で止まってたら、後ろからきた車にはねられたって〉
〈久琵の友人は今はどんな状態なんだ?〉
〈左腕と右足を骨折したらしくて、数日は入院だって。検査とかは終わったらしい〉
〈連絡は本人からだよね?意識はあって、メッセージが送れる状態ではあるんだね〉
〈流石に家族が申告無しに連絡しないだろうし…〉
〈そりゃそうだ〉
〈ところで久琵ちゃん、いつかお見舞いに行くの?〉
〈うん、明日は土曜日だから午後に行こうかなって〉
〈それにしても大変だな。また、と言っていいか分からんが〉
〈第六感(?)のこと?〉
さすがに触れずらいだろうから、自分から触れた。実際に第六感ではないことは言わないけど。
〈良くないことが続いてるけど、気に負いすぎないようにしてね〉
〈俺らができることがあったら手を貸すぞ〉
二人の思いやりをありがたく感じる。
そうだ、鹿田ちゃんだって事故に遭ってかなり動揺しているはずだ。だから私がこんな暗い雰囲気で行っていいわけがない。
〈明日会いに行く時、私の友達が少しでも安心できるようにするよ〉
二人からの応援メッセージと別れのメッセージを受けてチャットは終了した。
場所⇒⇒⇒⇒春風総合病院・鹿田亮子の病室
「失礼します。久琵だよ。会いに来たよ鹿田ちゃん」
お土産にリンゴを持ってきた。わずかな気持ちだ。
「あ…久琵ちゃん…」
病室のベッドに上半身を起き上がらせていた鹿田ちゃんの顔色は想像以上に悪かった。こんな顔もするのかって思ってしまうぐらい。
「えっと、その、左腕と右足は大丈夫なの…?」
「まあ、多分?そのうち治るってお医者さんも…」
そう言って鹿田ちゃんは目を伏せてしまった。
相当の負荷が鹿田ちゃんにかかっている。こういう時は無理して何があったか聞かない方がいいのか。
「今は、私がいるから大丈夫だよ。落ち着くまではそばにいるからね」
どうすればいいか分からないが、これ以外にどうすべきか分からなかった。
少しして、鹿田ちゃんのお母さんが病室に入ってきた。
「初めまして。島戸久琵です。今日は亮子ちゃんのお見舞いに来ました」
「ああ、こちらこそ初めまして。亮子の母です。わざわざご親切にどうも」
「あ、鹿田ちゃんのお母さん、私はいったんこの辺で」
「久琵ちゃん、その、こんなことも言うのもあれかもしれないけど、ちょっと話を聞いてくれない?」
場所⇒⇒⇒⇒春風総合病院・廊下
「鹿田ちゃんのお母さん、どうしたんですか」
「あのね、うちの子には見せないでほしいんだけどね、私もどうすればいいのか分からないのだけどね…」
そういって鹿田ちゃんのお母さんは私にはがきを見せてくれた。
「はがき…」
そのはがきには差出人も書いてあった。
裏は赤字で何か書いてあるが…
その本文を読んだとき、私は絶句した。
『お前を死んだ今でさえ恨む 許さない』
脅迫だ。
「しかも、差出人の方も不気味で…」
差出人は深川折尾となっている。
「この方、亮子の元カレで昔に亡くなってるんです」
〈そして、どうすればわからなくて俺らに連絡したわけか〉
私はその後二人に連絡をした。
私にどうこうできる問題では無さすぎる。
〈一応、私の友達のお母さんは警察に相談したって〉
〈そうか。ならいい〉
〈でも、いくつか問題があって…〉
鹿田ちゃんは今かなり動揺している。
〈だから、あの子今あまり人に話せる状況じゃないんだよね〉
だから、心当たりがあるかどうかすら分からない状態なのだ。
〈今は亡き元カレについても、私の友達は当時お母さんにあまり話さなかったらしくて〉
〈今すぐ引き出せる手掛かりは無し、か…〉
〈私、どうすればいいかな〉
返信までに少し間があった。
〈その、久琵の友達さんが少しでも良くなることをすればいい〉
〈事件については警察が動くはずだから、久琵ちゃん含めて私達は何もできなだろうし〉
二人の返信に少し安心した。
〈あと、一応言っておくが、こういうことはあまり第三者に言わん方が良いぞ。いくら俺たちが信頼できるからって、俺たちが情報を流さないとは限らないからな〉
場所⇒⇒⇒⇒春風総合病院・鹿田亮子の病室
初めて病室に訪れてから一週間がたった。
私がここに来るのは二回目になる。
「失礼しまーす。鹿田ちゃん、久琵だよー」
私の呼びかけに対し、病室からまあまあ元気な返事が返ってきた。
「一週間ぶりだねぇ。島ちゃん今日も来てくれてありがとぉね」
先週と比べて元気を取り戻している。
「よくなってそうで安心したよ。腕と脚は今どんな感じなの?」
「まだまだ安静に、て感じかなぁ」
「しばらく大変な時期が続くけど、体に気を付けてね」
あの日言えなかったことをやっと言えた。
少し話いていると、ノックと共に二人のスーツを着た男性が入ってきた。
「おはようございます鹿田亮子さん、とあなたは…」
「島戸久琵です。あの、あなた方はどちら様でしょうか」
スーツを着た二人が警察手帳を見せて自己紹介した。
「席省警察署刑事課の岩森瞬です」
「席省警察署刑事課の米柳圭太です」
先週鹿田ちゃんのお母さんが通報していたことを思い出した。
「あれ、というか岩森さん。もし勘違いだった申し訳ないのですが…」
顔を見たことがあったような気がした。
「数週間前の日曜日に席省駅にいませんでしたか?」
「えぇ。よくご存じで」
「あの時は私服であのおじいさんを連行したのも?」
岩森さんは驚いたような、感心したかのような表情をした。
「詳しいですね。もしかして現場にいたとかでしょうか?」
「湯西究明のサポートを少しだけしたので…」
「へえ、つまりあなたは彼の友人さんなんですね。ならある意味都合がいいです。あとで少しだけお話を伺ってもよろしいでしょうか」
「はい。私にできることなら」
警察の二人が鹿田ちゃんと話をするらしく、いったん私は病室を出た。
その後数分して警察の二人が病室から出てきた。
「島戸さん、お待ちいただきありがとうございます。できる限り手短に終わらせます」
私は廊下の椅子に座り、二人からの質問に答えることになった。
まさにこの前私がさせたことを今私はしている。
「鹿田さんとはどのような関係で?」
「友人です。大学で知り合いました」
「知り合ってどのくらいですか」
「およそ一か月です」
「鹿田さんが何かトラブルに関わっているか、聞いたことはありますか」
「実際はどうだったかわかりませんが、でも一つ気になることがあったとすれば、はがきですね」
はがきといった瞬間、二人の表情が少し変わった気がする。
「私が本人から相談を受けたのは真っ白のはがきです。宛先の名前も住所もなく、裏も真っ白でした」
「真っ白?」
「ええ、その時は様子見でいいかなと本人も言っていて、私も本人が気にしていないからまあいいかなんて思ってしまったのですが」
「その相談を受けたのはいつですか?」
「ゴールデンウイークの数日目の、お昼の時でした」
「それ以外には何かご存じですか」
「本人からではないのですが、鹿田ちゃんのお母さんが見せてくれたのが一つ。赤字で書かれてたアレです」
「あの、消印がなかったあれですね。それもご存じなのですね」
「ええ。お二人はそのことについて調べているのですか?」
米柳さんは渋い表情をして教えてくれた。
「…今現在、事故の相手側の過失について調べてる、と本人に伝えています」
「分かりました。本人の前ではそういうこととして振舞います」
「ご協力ありがとうございます」
「やはり、赤字の住所に確認されたのですか」
「それについてはお答えできません」
まあそうか。私は無関係だから。
「ちなみに、この手紙以外では何かご存じですか」
「いえ、この程度ですかね」
「そうですか。あらためて、ご協力ありがとうございます」
私への質問が終わった後、二人のうち一人が教えてくれた。
「実は本日中に今回の事故に目途が付きそうなので、明日にまた来て、捜査が終わったことを鹿田さんに伝えに行こうと思ってましてね」
「待て、あんま言わん方が良いぞ」
「ああ、そうでした。まあでも、この人ならあの湯西さんのお友達だし…」
「でも言わん方が良いだろ」
目の前の喧嘩を止めなければ。
「あ、えっと…聞かなかったことにします。誰にも言いません」
米柳さんはまた渋めの表情を岩森さんにした後、私には申し訳なさそうな表情をした。
「すみませんね。鹿田さんにはもちろん、俺やコイツのためにもお願いします」
「ええ」
そういって、二人は病院を後にした。
場所⇒⇒⇒⇒春風総合病院・鹿田亮子の部屋
「ただいまー。待たせちゃってごめんね」
「全然大丈夫だよぉ?とりあえず座って座ってぇ」
そう言われ私は鹿田ちゃんのベッドのそばの丸椅子に座った。
「真っ白のはがき、心当たりがあったなってぇ、今思うと」
あまりにも予想外の話題に、内心ギョッとした。
「昔の話なんだけどぉ、仲良かった人がいてねぇ、でもその人はもういなくてぇ」
多分鹿田ちゃんの元カレの事だ...
「あの人、バイクの免許を高3のうちに取っててねぇ、そのバイクに乗ってる時に...」
事故…だろう…
「しかも、場所は今回の事故と同じ場所だったのぉ」
…
「なんか、情けないなぁ、ていうかねぇ」
…
「もしかしたら、天国から気をつけろよ、って意味のおしらせだったのかなぁって」
…そうだろうか。
「あ、ごめんね。なんか変なこと言っちゃって」
本当はもう一通来ている。内容は…鹿田ちゃんの思うものとは正反対だが。
そんなこと、言えない。
「ねぇ、島ちゃん。あなたはどう思う?」
「いや、そうとは思わ…いや、そう、かも?」
一瞬出かかった答えを止めた。
「やっぱ、この前からずっと様子が不思議だよぉ。隠し事とかあるのぉ?」
言えない、何も返せない。
「…明日とか、また警察の人が来るだろうし、その時質問したら...?」
会話が途絶えた。沈黙が妙に長く感じた。
「…やっぱりなんか隠してるんだねぇ」
ごめん、と一言言って、私は病室から逃げるように退出した。
場所⇒⇒⇒⇒島戸久琵の部屋
私は今回の事故は偶然が故意か知らないし、昔の元カレを知っているわけでもない。
私は第三者なのだ。
だから究明も言っていたではないか。
なのに私は深くかかわりすぎてしまった。
多分私は鹿田ちゃんの所にはもう行かないだろう。そう思っていた。
翌日、鹿田ちゃんからメッセージが来た。
〈今回の事故の捜査終わったって。相手も事故後の対応はちゃんとしてたらしい〉
そうか。特に問題はなかったのか。
〈うん。あの白いはがきも今回の事故とは何の関係も見つかんなかったって。
白いはがきについては言った覚えはなかったんだけど…〉
そう…え?
〈誰が出したとかは分かったの?〉
〈ううん。関連性なしって判断されたって〉
〈そっか。〉
〈とりあえず一安心だよ。病院生活もちょっと慣れてきたし〉
〈それは良かった〉
私も、鹿田ちゃんが今後さらに大きな事故に巻き込まれる心配はないことに安心した。
また、自分勝手ではあるが、鹿田ちゃんも起こってそうでもなかったことにも安心した。
そう思ってメッセージのやり取りを終えた。
「じゃあ、あの赤字の手紙は…?」
場所⇒⇒⇒⇒席省駅1・2番線ホーム
捜査終了の一週間後の日曜日、お昼に私は冬ちゃんと究明の三人で駅のホームの椅子に座っていた。
広告による仕切りの向こうにも椅子は並んでいる。
究明は赤と緑が目立つ、かなり奇抜なデザインの帽子をかぶっていた。
究明の座っている椅子に封筒が一つ置かれた。
究明は仕切りの向こうの椅子に座る人に顔を向けずに話しかけた。
「名前、控えておいていただけますか」
その一言の後、中年の男性と思われる声で返答が返ってきた。
「オリオ・フカガワ」
「…お手紙、確かに頂きました。わざわざ遠方からありがとございました」
場所⇒⇒⇒⇒湯西究明の部屋
【この手紙は深川折尾の父によって書かれました。この手紙が読み終わる頃には私は署に出所しているでしょう。この手紙では湯西さんから送信された質問に沿って回答しています。
Q1.はがきを投函した理由はなんですか?
→私の一人息子が今年の一月にバイクの事故で亡くなりました。息子の葬式では私たちは哀しみ、鹿田さんも来てくださりました。その後引っ越しをしようと考えておりました。ですが、四月の某日、引っ越す前に私は鹿田さんが自転車をこいでいる瞬間を見ました。彼女が折尾が事故を起こした交差点で止まることもなく、素通りしていくのを目撃していくのを見てしまいました。それを見た私は怒りがわいてきました。折尾の死を何とも思っていない、それに怒り、戒めてやろうと。後に、自分勝手なことをしてしまったなと思い、深く後悔しています。
Q2.白いはがきの意味はなんですか?
→戒める、といってもいざなにか書こうとしても何を書けばいいか分からず、複数のはがきを用意して書きました。何枚かは失敗してしまいましたが、全部使いきることはなく、数枚、宛先は書いたけどそれ以外何も書いてないはがきがありました。おそらくそちらを不手際で直でポストに投函してしまったと思います。
Q3.赤字のはがきの意味はなんですか?
→戒めです。詳細については上記を参照するよう、お願いします。
Q4.事故との関係はありますか?
→いいえ。まさかこんなことになってしまって、お気の毒に思います。ただ、本音を言ってしまえば、生きて帰れたことに羨ましささえ感じてしまいます。そして、落胆してしまったところもあります。
最後に、私の軽薄な行動によって鹿田さんを含むいろいろな方に迷惑をかけてしまい申し訳ございんせんでした。】
これが、はがきの全てだった。
ただ、一つ。
「事故が起きた理由が間違ってるな、こりゃ」
究明がそうつぶやいた。
「で、久琵。このことをどうする?友人に伝えるか?」
「…うん。本人が知りたがってたし」
「そうか。俺たちができるのほここまでだから、後はお前が何とかしてこい」
頷いて、究明の部屋を出ようとしたとき、究明に呼び止められた。
「あ、久琵ちょっと待て。その、だな。自覚があったらスマンのだが」
「どうしたの?」
究明は私に言う前、冬ちゃんに確認した。
「なあ、冬子、久琵って表情にめっちゃでるよな」
「うん。この前とか、究明のちょっと変な一言に対してお目目真ん丸の歯をむき出しにして他の見た時は、びっくりしたかな」
えっ?
「今もそうだぞ。めっちゃ表情に出てる。もっと気持ちを声に出してもいいんじゃないか」
「え、私ずっと自分ってポーカーフェイスだなーって思ってたんだけど」
二人は困ったかのような、憐れむような表情をした。
「久琵ちゃん。あなたにそれは無理よ」
天を仰ぎ、今までの自分を悔いた。
「大丈夫だ、楽しい時に笑って悲しい時に泣けばいいだけだ」
「アドバイスが極端すぎるって!」
こうして、無事事件は解明された。
いや、まだ鹿田ちゃんには伝えていないから、まだだ。
でも、あの手紙をそのまま伝えるべきか。正直迷っている。
そう思って自転車をこぐ途中、交差点で一回止まった。
真っすぐへの道もあれば左右への道もある。
そして、どの道もどこかに続いてる。
…どの道を選んだって、どうなっても、大丈夫だってそう思おう。
その道を選ぶのは本人だ。
この後も、そしてこの後も。きっとこの連続なんだろう。そう思った。




