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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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伝説の獣

 



 結論から言おう、構内で発生したマルチドールの霧の件はなんとかなった。


「エーテルを扱える市民階級の生徒が皆体調不良だったなんて、聖女様がいなかったら大変だったよねぇ」

「そ、そうだね」


 本当に聖女様ありがとうだ。私じゃどうしたもんかと頭抱えて終わっていたかもしれない。


 事の解決をしたのは、次の日の晩だ。

 朝方に該当の生徒たちが寝込み、全く立ち上がれなくなっている中、アランを中心に各生徒たちの状況確認が行われた。

 そんな中、生徒たちがおぼろげな意識の中言うのは「伝説の獣がいた」という言葉だった。

 その姿はアランも見ていたらしく、例の池の中心の上、空を掛けるように白い獣が神々しい光を放ちながら池全体をまばゆい光で包み込み池のエーテルをその光を溶かしていった。

 これまで見たこともない光景は、エーテルを扱えない生徒すら見惚れたという。


 しかし、身体の中に吸い込まれたマルチドールの成分までがどうにかできたわけではない。

 それを吸い込んで、手当たり次第にエーテルを吸収し体内に無理やり溜め込まされた生徒たちに最初に出た症状は高熱と嘔吐。意識不明の生徒も一部いたらしい。

 学園で支給される食事はエーテルを扱える職員たちで構成されていたため、生徒たちにまともな食事が提供されたのはその日の夜。

 エーテルを使えない生徒も流石に空腹ではあったが、医療班もまともに作用せず、聖女のために派遣されていた国軍の人間も例に漏れず倒れていたため、その光景は地獄と言ってもいい。


 食堂に集まる生徒たちはいつもなら講義のことや今度の休みの予定で話し込むのに、流石に今日ばかりはどの人も九死に一生を得たといった風に話題に上がるのは今回のことだけだ。


「それよりエレンは?さっき向こうの部屋の子に話しかけにいってたの、それでしょ?」

「うん、こんな状況だし気を使ってたらいつわかるか分かんなかったし。嫌な顔はされたけど……」

「ご愁傷様」

「ちっさい話よねぇ。友達のこと心配して聞いただけなのに」


 大きくため息を吐いた後、ルオンが話してくれた内容は幸いエレンは大したことはなかったということだった。

 体調自体は悪く、寝込んではいたが立ち上がれないほどではなかったそうでいまも無事に回復して医療班の診療を受けているらしい。


「エーテルを扱える力が強い人ほど症状は酷かったみたいだね。まるで特定の人にだけ感染する病気みたい」

「感染症ね……」


 うまいこというもんだ、と事の原因を知っている私は本音を水と一緒に飲み込んだ。


 生前を思い出して、振り返ってみるとインフルエンザなどの症状がでたら医療はそれを治すために薬だったりワクチンを開発していった。勿論、それぞれの研究者たちの努力と時間と金が掛かっていたが、いずれは国内で普及されていずれ致死率の低い病として変わっていく。

 しかしこの世界はエーテルを扱う階層は病の多くもエーテルによって治すのが主流だ。

 だから、薬草学につよいアランが誰よりも先に自分で処方して対応できたのだろうけれど、体調が悪ければエーテルを使う、という常識で生きてきた人間からするとまさかエーテルを体内に取り込み過ぎて体調不良になったなんて思いもしなかっただろう。


 食堂を振り返ると、食事の席に付けているのはエーテルを全く扱えない下級市民が半数。

 扱える生徒はまだ診断を受けている真っ最中だろう。


「そんな時にあの伝説の獣が天空に現れるんだもの。聖女様伝説って本当だったのねぇ」

「その伝説の獣って文献に書かれてるだけで、実際の姿は誰も見たことないんじゃ……」

「何言ってるのユラ、あの鐘柱に描かれてるじゃない」


 びっくりしてフォークに刺していた肉団子が皿の上に落ちた。


「え!?」

「いつも見えてるでしょあの柱の彫刻。あれがそうじゃない」

「いや、あれ獣に見える……?」

「何言ってるの、どうみても獣じゃない」


 どうみても抽象画……エジプトの壁画みたいな感じで、しかも白一色だからなんなのか全然わかってなかった。神様だとは聞いていたけれど、たまたまもたまたまだ。


 だって皆が勘違いしている伝説の獣は私のエーテルで実像化したクリアなのだから。

 でっかいワンちゃんを想像したらああなってしまった。もっふもふ。威厳も何もないと個人的には思っているが、あれからクリアに言われて私のエーテルで池を零していったらそれはもう発光しまくって、おかげで地上から見上げた生徒からはそれに騎乗している私が見えることは全くなかったのだけれど。


『このまま降りる?』

『馬鹿言わないで!!悪目立ちも悪目立ち!!!!こんな目立ち方望んでないから!』

『いっそお前たちを救ったのは私だって降臨してやれば?』

『やめなさい!』


 かなり高所だったから、こちらからも生徒の顔の見分けがつくことはない。

 とはいえ構内がざわついて、こちらをみていることだけはわかった。伝説の獣だとか叫ぶ生徒がいた気もするが、気のせいだと耳を塞いだけれど、残念ながら気のせいではなかったらしい。


 その後、隠れて戻りたいと願った私の気持ちを汲んで塔の鳥がそのまま塔に近づいてくれれば一度塔の中に隠してくれるというので有難くその提案に乗り、クリアの実体化を解いてこそこそと構内へと戻ったというわけだ。

 部屋にいなかった私を心配してくれていたルオンには平謝りしたけれど。


 日が昇り、騒ぎは構内すべてへと広がった。

 アランが煎じた薬を他のなんとか動ける生徒や、私が頼まれて各寮へと配り周り、昼過ぎを越えて、時間を超すごとにどんどんと悪化していくのが目に見えている生徒が増えてきたころだった。


 歌が聞こえた。


 ぞくり、と身体全体に広がるそれはいつぞやに感じた聖女のエーテル。

 これは怒りだ。彼女は怒って歌っている。


 アランも聞こえた歌声に手を停めて、空を見上げた。アランだって例外ではないはずなのに、あれだけ身体を動かせているのはおそらく何かを服用しているからだ。

 それでも多少は顔色は悪い。

 歌を聞いて、その歌声を聞きながら手を停めていたのはほんの一時。

 それでも彼が緊張の糸を一瞬弛めたのは、私が見ても分かるほどだった。


 新しく出来上がった薬液を受け取る際に「配る際にはもし今の歌で改善しているなら無理に飲まないようにと伝えてください」と言われる。


「飲まなくていいんですか?」

「歌の効力がきちんと体内入った異物を塗りつぶすためのものでしたから。僕の中にあった異物もいまので全て無効化されていましたし、聖女様は原因を分かったうえで歌ったんでしょう。それで問題ないなら、この薬は逆に毒になります」


 私はクリアとメティに教えてもらったから分かっていたが、あの状況だけでよくもここまで分かったものだと改めて感心した。やはりアランはこの構内でも抜きん出て優秀だ。

 若干研究にのめり込む質らしいが、きっとそうでもないとこうはなっていない。


「しかし、君が元気ということはやはり君のもつエーテルは普通の物とは違うのかな」

「まだ私にエーテルが扱えるって疑ってたんですか」

「ええ、逆に今回のことで確信しました」

「?」


 え、なんのこと?と驚いていたら配布を終えた生徒がまた戻ってきて、続きを話すことなくアランはその生徒に新しいものを渡して同じ説明を繰り返していた。

 確信したってなに?あの姿が見えていたとか?それはいくら何でもないはずだ。

 それ以上を詰め寄ることも出来ず、優先順位は薬を運ぶことだろうと研究室を出ると、生徒たちの顔色が明らかに違う様子が見れた。


 当然、聖女は力を使いすぎて倒れたものの、命に別状はなく数日安静にする予定だと噂で流れてきていた。

 言うまでもなく、聖女信仰が増したのは当然だろう。


大変遅くなってしまってすみませんでした。どうかよしなに。

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