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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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見世物

 




 実際講義が再開されたのは大体十日後のことだった。

 これは対応が遅いなどというものではなくて、伝達が全て人力となっているのが原因だ。


 鐘塔に力が満ちた切っ掛けが聖女が滞在していた構内にあるという推測はすぐに経ち、国が抱える研究所の人たちが学校に来るまでに約三日掛かり、調査に二日程度、国に報告が言ってその後の指示がくるまでに約二日。

 ああいうの見ると、電話とかメールがどれだけ発達していたものかよくわかる。


 なにはともあれ、学校側と国が出した結論は様子見だ。

 聖女様がこの国に来て慣れ始めていることにより起きた奇跡だということで、下手に事を騒がせても彼女の精神状態に良くないだろうと現状維持。


 流石に色々褒賞等は国を挙げて聖女が呼び戻された際にあったようだが、その辺は特にこちらに関わりがないので興味がなかった。


 聞いた話では本人に自覚はないということで否定していたらしいが、いっそ逆にそれが稀少なものとして市民たちからは受け止められてしまっている状態だ。

 祀り上げられて、変に期待値があがって彼女の負担が増えないことを祈るばかりだ。


『各所の土地を収める有権者たちが聖女の力で各土地を栄えさせろなどと言っているところもあるようですが、あの騎士……エンヴィー様でしたわね、その手の話を彼女の耳に入らないようにしているようですわ』

「へえ、いいひとじゃない」

『その分彼への批判も多いようですが』


 そうなの?と首を傾げると、メティは詳しく教えてくれる。

 聖女の奇跡を所謂、おとぎ話で眉唾の話程度にしか考えていない若い人たちが国政の中でも多かったらしく、彼女が召喚されたときにはそんな意味の分からないものに国税を使うなどと批判があったらしい。


 ところが徐々に実際に聖女は歴史に違わぬ功績をあげていく上に、今回のような騒ぎ。手のひら返しも良いもので、それまでは小娘の子守程度に笑われていた彼の存在も、今では逆に彼女に取り入るための存在になっているということだ。


 結構構内では悪い話はなく女性陣からも男性陣からも人気あったけれど国ではそうではないのだろうか。お兄さんがいるって話だったりしたから、本国側ではいろいろあるのかもしれない。


『権力者連中がどうにかして取り入ろうとするのを、たかだか騎士が一刀両断しているからねぇ。そりゃ自分達より下だと思っている存在が邪魔してくるんだから面白くはないでしょ』

「私もあの人が口が上手い人だとは思ってなかったけれどねぇ」


 数度会話した程度だけれど、いろんな手を尽くして聖女に近づこうとしている人をバッサリ切っている様子のあの強面を想像するに難くなかった。

 まぁだからこそ灯に近づいて来ようとしている変な虫避けには一番よかったのだろうけれど。

 聖女本人も私へのお礼の品を彼に預けたりする程度には信用している様子だったし。


 話したのはあれきりだが、事の原因が自分にある自覚はあるので、心の中から彼が怪我などしないことだけを祈ることにした。


 まさか、その数日後に彼と話す羽目になるだなんて思いもせずに。










立ち上る粉塵は、勢いよく落下したことを示していた。


「怪我は……?」

「い、いいえ……」

「そうか」


 誰が想像できるよ、あれから二人っきりになる羽目になるだなんて。

 しかも最悪の状況で。


 それ以上の会話がない。

 辛い。世間話をこの状況下でしたいというわけではないのだけれど、弱った。そんなに私は会話上手でもないし、いつもエレンに頼ってきたツケがこんな時に露わになるなんて。

 あんまりじろじろ見るのも、と思って崩れた竪穴の崖の方を眺めていたがかなりの高さだ。覆い茂る木の隙間からなんとかもともといた場所が覗けるが、そう簡単には戻れそうもない。

 穴の中は意外と広く、地中の中だからかかなり冷え込んでいた。


「おーい」


 駄目元なのはわかっている。

 でも一応、大きく声を上げてみたが穴の中で反響するばかりで、穴の外にまで届いているのだろうか。


「……」

「……」

「…せ、聖女様がご無事だといいですね?」

「無事だ。君が彼女の腕を引いた後、部下が抱きとめていた。あの様子なら問題ない」


 流石、噂に違わぬ有能っぷり。しっかり見てらっしゃる。

 彼女を心配していなかったわけではないけれど、会話の種が欲しくて必死に探したものだったのにあっという間に会話終了してしまった。

 ああ辛い、何よりこの状況下で何をすればよいのか分からず、この人に頼るしかないという状況がまた辛い。自分に出来ることがないってのが、息苦しいよね。


「少々待っていれば俺の部下が探しにくるはずだ。下手に動かずにこのまま待機していよう」

「はい……」


 話しかけてくれるな、って遠回しに言われている気がする。

 偶に女の子に囲まれて、真顔に少し眉が寄った時があった様子をみたことがある。あまり詮索されたくないのか、仕事は仕事として割り切って専念したいのか。はたまたどちらもか。


 凸凹とした状態の中で、まだましそうな場所を見つけて、しゃがみ込む。

 どうせ立ったままでいても体力を消費するだけだし。せっかくただで手に入ったとはいえ、上質な制服がぼろぼろだ。

 ちらりと竪穴の上から差し込む光の向こう側ほどの距離を取った彼を見てみると、彼の深い紺色のローブが砂埃に塗れ、一部引きずり破れたよう状態になっていた。

 というか…立った姿しかみたことのない彼が、座っているのを初めて見た。

 よくよく見れば眉が寄っている。距離があるため定かではないのだけれど。


「もしかして怪我されてます?」

「問題ない」


 返事がずれてる。

 これは多分、怪我している状態で間違いないだろう。


「大丈夫ですか、何かできることは……」

「ない。君は君の心配と身の安全だけを考えていなさい」


 そういえば彼から見たら、私はまだ学生で未成年だから幼い保護すべき立場にあたるのか。いや間違いないんだけれど。

 立てた膝にローブを覆う形でしゃがみ込む彼の姿から、怪我は見えない箇所にあるのかもしれない。RPGではないが、自分の手持ちの荷物を頭の中で思い返してみたけれど……だめだわ、ハンカチぐらいしかない。ゲームの勇者より装備が薄い。


 それより怖いのは、この高さから落ちておいて怪我無い私が可笑しいのよね。

 考えたくはない、考えたくはないけれど高確率で彼に庇われていたおかげだろう。気が付いた時にはすでに離れていたから分からないけれど、落下していた時に肩を掴まれた感触を思い出してきた。

 いやだぁ、これ間違いなく私の下敷きになっていらっしゃるわこれ。


 膝の中に顔をうずめて唸っていたら、エンヴィーが流石に怪訝そうな顔をしてこちらを見てきたが、彼からしたらきっと国民を守るのも責務だから位に思ってんじゃないかな。



 こんなことになった事の発端は、講義の再開に伴い各全生徒に発表された構内すべての生徒を上げての授業行事だった。

 体育祭、文化祭とは流石に異なるが各クラスごとでチームを分けて、クラス全体での実地試験に近いものになる。

 もともと私命名の聖女革命が起こる前は、上級、中級市民だけだったのである程度のエーテルが各々使用できることが前提で行われていた行事らしい。

 なんでこんなにあやふやかというと、かなりこの行事、今回のものがイレギュラーなのだ。


 通常は、エーテルを使って課題に沿ったものを作成し、制度の良かったものを提出したクラスに褒賞が与えられるというもの。

 大体一日を費やすが、普通はクラスが出来てから数年後に行われているものらしい


 しかし私たちの今回のこのクラスはどれだけ計算しても一か月程度。

 ましてやエーテルの扱いのあまり出来ない中級市民と、ほぼできない下級市民で出来たクラスなので行事を聞いた時には、なにをしろというのだと混乱した。

 というのも、聖女革命の中ではこの行事は流石になくなるだろうなという話で収まっていたからだ。そりゃエーテル使えない市民が混じってるしね。


 なんでこんな急に、実施する予定じゃなかった行事をと首を傾げていたら『見世物さ』とクリアが一番シンプルな答えを出してきたが、悲しいかな理解できたのは当日だった。

 講堂に集められた際、講堂の上部に設置された場所に国賓席が用意されており、なるほどこれは聖女を各地域に回せという連中を抑えるための苦肉の策だったわけねとまたしてもわざわざ足を運んできていた国王をみて苦笑した。

 この国を学びたいという聖女、国税を使っているのだ俺の地域にも聖女の奇跡のおこぼれを寄越せという連中、とにかく一目見させろという人たち諸々含めて、妥協案がこれだったというわけだ。


 それに巻き込まれるエーテルも使えない市民組はたまったもんじゃないけれどとため息を吐く。

 ちらりと横目で、国賓席に近い生徒たちの列の方に聖女が姿勢よく立っているのを見て無事に終わる様にと願っていたというのに。


 課題は、特殊な環境でしか採取できない薬草もしくは鉱物等を日暮れまでに探して採取してくることだった。





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