第四話 幼馴染とどらごんといもうと
渡辺夏子が鈴木家のお隣さんになったのは、彼女が生まれた直後だった。
源頼光に仕えし四天王の筆頭にして数多の魑魅魍魎を名刀髭切で斬り伏せた剛勇の武士、渡辺綱を祖に持つ……とは言うものの、別段直系のそれと言う訳でもなく両親祖父母七代さかのぼっても平平凡凡な人生を送ってきた家系である。
そんな彼女に転機が現れたのは、鈴木家に長男ドラゴン京一郎が誕生した時であった。
誕生とはいっても卵が孵化しただけではあるが、それと同時に渡辺家の屋根を落雷が直撃し、ベビーベッドで眠っていた赤子の夏子の傍らに二振りの刀が置かれていたのである。
髭切と膝丸。
ともに制作者不明なれど、鬼だの土蜘蛛だのを斬り伏せてきた逸話をもつ代物である。
二振りの刀は、よりにもよってその銘を名乗ったのである。
『やはり一度は竜に挑んでみたいというのが退魔の霊刀としての矜持ではないか』
物ごころつきある程度の思慮分別がつくようになった頃、二振りの刀より半透明の武人が現れて夏子に言った。
『という訳で夏子殿、渡辺綱の子孫として竜退治を是非』
「いヤっ」
即答であった。
その頃すでに渡辺夏子は将来の夢として鈴木ドラゴン京一郎のお嫁さんであることを確定させ、両親を説得させた上で花嫁修業を開始していたのである。
どうして将来の婿(希望的観測)を退治などできようか。
「ひざまるさんも、ひげきりさんも、きらいっ」
とうとう幼い渡辺夏子は泣き出してしまい、髭切と膝丸は困り果ててしまった。
竜退治は主が認めぬ。
さりとて霊刀として奇々怪々の異形を見過ごすことなどできない。
かくして髭切と膝丸は主が竜退治の使命に目覚める日を夢見て、今日も彼女の周りを飛び交うお邪魔虫達を成敗しているのである。
【登場人物紹介】
・膝丸と髭切
魑魅魍魎の類を滅する退魔の霊刀という概念が実体化したものであり、実在する十分とは多分無関係である。どこぞの野良仙人が鍛えた武具に世紀末思想の集合無意識が融合した結果『我は悪を断つ剣なり(ダダーン)』と思い込んで、メジャーどころの刀の銘を勝手に名乗ったというのが実情。
ただし性能的には非常に素晴らしく仙人が鍛えただけあって、使い手次第ではドラゴンどころか天上天下に念動する無双の剣みたいにアニソン帝王声のラスボスをダダーン(意味深)できる程度の破壊力を発揮できる。ただし渡辺夏子では無理。




