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いもうと×どらごん  作者: は
18/22

第十七話 どらごんと屋上の君




 ある日、屋上から女学生がひとり飛び降りた。


『今日は空がとても綺麗だからね。そりゃあ飛べたら爽快だと思いますよ』


 飛び降りた直後。

 僅かな浮遊が自由落下に切り替わる寸前、女学生の身体を包み込むように一柱の竜が校庭から離陸して彼女の身体を優しく受け止めていた。

 鈴木ドラゴン京一郎である。


『でも、今度から空を飛びたいときはあらかじめ教えて下さい。いきなりだと準備が間に合わないこともあるんです』


 ドラゴン京一郎は嘘をついた。

 女学生が命を断とうとして屋上から飛び降りたのを、京一郎は知っていた。

 屋上には靴と、古風な封筒の遺書が置いてあった。女学生が非常勤の講師と不倫し、講師の細君と取っ組み合いの喧嘩をやらかしたのも知っていた。

 妹の花子が言っていた。


 人間は恋のために生きて、恋のために死を選ぶことができる生き物なのです。


 ドラゴンである身には到底理解できない価値観だった。

 似たような生き物は他にいないかと、こーちゃんこと風見小太郎に訊ねてみたところ『えーと、蝉と蛍かな』という回答を得た。

 古い時代のヨーロッパ人は脱皮したてのセミをバターでカリッと揚げて食べてたらしいでえ、と続く話に『なるほどイタリア人はそうやって恋のパワーを外部から補給してたんですね』とドラゴン京一郎は納得した。


 つまり、この女学生さんは蝉の食べ過ぎで不倫とやらをしてしまったのだろう。


 今年の夏は涼しかったけど、それでも蝉は沢山鳴いていた。恋をするには十分な量だったに違いない。


 女学生は驚いていた。

 何もかもが嫌になって死を選んだのに、ドラゴンが自分の身体を抱えて宙に浮いている。

 わけがわからない。

 自分の学校に変わり種のドラゴンが通っているのは彼女も知っている。ドラゴン自身よりも、種族を越えたブラコンを発揮している妹さんと、その妹さんと日夜戦いを繰り広げているお隣のお姉さんの方が有名だったが。


 金茶の鱗に覆われたドラゴンが女学生を見る。

 爬虫類のそれとは違う、ドラゴン種独特の優しい眼差しだ。


『お嬢さん、もしおヒマでしたら僕にナンパされてみませんか』


 そう言った後で、ねーちゃん茶ぁしばかへんかーの方が良かっただろうかとドラゴン京一郎は悩んだ。人間に限らず女性の機微は難しい。


「……お星様の見える空でデートなら、いいよ」


 TVや新聞で報道されているドラゴン達の高貴な振る舞いや言動しか知らない女学生は、しばし面喰った後に少し楽しそうにリクエストしてみた。ついでに、震える身体を誤魔化すように強く抱きついてみる。想像していたよりもドラゴンの身体は暖かく、すべすべしていた。


『夜まで飛び続けるのと、夜空まで飛ぶのと、どちらにします?』


 京一郎の言葉が理解できず、女学生は「それじゃ夜空まで飛んで」とねだった。


 ぶわり、と。

 京一郎の翼が大きく羽ばたく。ドラゴンは女学生を抱えたまま垂直に上昇する。

 尾の先よりこぼれ落ちる、蛍のような光の粒。まるで箒星のように輝いているドラゴンの身体。空を昇る京一郎の姿に地上の学生達が歓声を上げた。


 ドラゴンは空を飛ぶ。

 翼に当たる空気が薄くなれば、翼から光の粒を噴き出して勢いを増す。女学生の周りには光の粒が集まり、彼女の周囲では不思議と空気が薄くなることはない。

 彼女の目に映る空の色が鮮やかな蒼から濃密な藍に変わり、遠い先に見える地平線が少しずつ弧を描いていく。

 やがて女学生の前には、瞬くことのない星で満たされた漆黒の空が現れた。


「──すごい」

『はい。新記録です』

 

 人工衛星と衝突しないように気をつけながら京一郎は頷き、ゆっくりと地上に向けて降下を開始した。





【登場人物紹介】

・女生徒

 引っ込み思案な性格をなんとかしたくて、高校デビューを機にギャル化程ではないが地下アイドルとして通用する程度には外見を磨いてしまった。結果として妻子ある非常勤講師を相手に大人の階段を三段飛ばしで駆け上がった挙句、揉めに揉めて屋上からコードレスバンジーを敢行したところ鈴木ドラゴン京一郎に救われた。

 惚れっぽい性格を自覚しつつ、異種族恋愛について真面目に調べている。


・非常勤講師

 正確には元非常勤講師。複数の学校で教鞭をとっていたがすべての学校でタイプの異なる美少女学生との間に不適切な関係を結んでいた。妻は学生時代の元担任で、在学中に子作りに成功した。反動で年下の愛人ばかり作っていた模様。諸々発覚してほぼすべての学校で契約を解除され、親権も失い、自棄になって元愛人の女生徒を襲おうとしたところコ〇ケ土産名物エロゲー会社の恥ずかしい紙袋を頭から被った謎の女性(ドラゴン、二十代後半)が繰り出した天上天下爆砕去勢拳によって男性機能諸共無力化された。


・ドラゴンの飛行能力

 翼や全身の鱗より光(正確には魔力)を噴出することで全身を覆い搭乗者諸共に保護しつつ推力を得る。これによって空中・宇宙空間・水中・地中・マグマ・亜空間と環境を問わず自在に【飛行】することができる。そのため本気を出したドラゴンは世界の壁や時の壁を超越して望む場所に辿り着くことが可能と言われている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんというラブコメ。京一郎、実は天然のタラシだったのか。
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