54話 予知
予定を変更して、現在の4章を断章に変更します。それに応じて次回更新は断章のキャラ紹介にして、そのでこの章で書くつもりだったけれど作者の筆力の問題で書けなかったものを書きます。ネタバレだと思う人は気を付けて下さい。
物書きの端くれとして設定は物語で書くものだと思うのですが、文章の質を理想に近づけようとすれば投稿できなくなりそうなので諦めました。
昼間でも日の光が届かない不気味な森の中を一筋の青い影が駆け抜けていた。
羽のように軽い踏み込みで大地を蹴り、目の前に展開した魔方陣をくぐると一気に加速。高速で森の中を縦横無尽に駆け抜け、魔力で出来た薄く透明な刃が煌めく。
「このくらい散らかしておけばいいかな」
アレットは手遊びのように魔方陣をくるくると回しながらあたりを見渡す。
アレットの開発した無属性魔術、加速陣。効果は円の中心にある小円を通過したものを加速させるという単純な効果だが、その分応用の幅も広い。矢を通過させ速度と威力を増加させ、ついでに方向も修正できることを基本的な使い方とし、アレット本人が通過すれば飛ぶように移動でき、加速度を一未満にすれば減速効果になり防御にも使える。
今回は加速効果を移動に使い通り魔のように魔物をすれ違いざまに殺害し、死体はそのまま放置する。
「上級冒険者の義務だっけか。C級でこれならもっと上の等級のやつらはなにやっているのか」
アレットが行っているのは、上級冒険者が受けなければならない依頼。いわゆるボランティアだ。
F級やE級のような低級の冒険者は危険生物である魔物を倒す実力がない。平均的なF級冒険者は一般人でも素手で倒せるゴブリンを倒せるのが精々であり、E級が倒せるのはランク2、野生動物でいうと狼を倒せる程度だ。一般的な町や村であれば魔境の外で活動する分には十分だが、ここリクマでは周囲の冒険者が活動できる場所全てが魔境。どこであれ最低でもランク3の魔物が出現する可能性が常にある危険地帯だ。
そのため冒険者ギルドが依頼を出している魔物を倒して死体を放置する依頼。通称「上級冒険者が通り掛けに魔物を倒して雑魚の素材だからと回収せずに放置、その死体を誰が持って行っても拾ったものが持ち主になってよい慈善事業」を上級冒険者が銅貨一枚で受けるのだ。
アレットが受けたのもこの依頼だ。受けなければならないという規則はなくあくまでマナーだが、明確な規則として定められていない分罰則も最大どの程度になるかも不明なのだ。大抵の冒険者は受諾する。
立ち止まった場所は森の中での特に暗く、分かる人の気配もない。
「二百くらい魔物を倒したからもう十分だろうな」
アレットは独り言のように呟きながら、胸の前で空気を包み込むように手を合わせる。そして手のひらの中で空気を空間ごと圧縮し、小規模な暴風を発生させる。
そのまま暴風を掴むように拳を握り、一気に両手を開く。
「【空凪】」
解き放たれた風が波打つように荒れ狂い、通り過ぎた後は風が凪いだように動くものが無くなった死の空間が生み出される。アレットの側方の樹々がなぎ倒され、地面が抉り取られる。
「お見事です」
「実力は衰えていないようですね」
なぎ倒され空中に打ち上げられた木々が地面に落ちてくると同時に、人影も二つ落ちてくる。
筋肉が人型になったゴリラの様な男性と、三メートルほどの棍棒を背負った女性。二人とも熊の耳と尻尾を付けているが、そんな種族的な特徴が消えうせるほど特徴的な二人だ。
「お前らはたしか……リオの配下だな。ヒオレナンとララザだったか?」
しかしアレットには二人に見覚えがあった。
ゴリラの様な男性がヒオレナン。棍棒を背負った女性がララザ。剛力無双で知られる傭兵だ。
「はい。お久しぶりです。この度は、不躾ながらお願いがあってまいりました」
「教団が御身と我らが主を狙っているという情報を入手しました」
「御身は大丈夫でしょうが、ご存じの通り我が主は呪いにより力を失っております」
「皆様がクランを解散したときからすでに一年。いまだに力が戻る兆しもありません」
「「どうか、我らが主を助けてくださらないでしょうか」」
粗野で知られる獣人とは思えないほどの礼儀正しい懇願。仮にも魔境なので膝を付いてはいないが、この二人を絵にすれば貴族が社交界で挨拶しているシーンと言われても疑わないだろう。
忠誠心に溢れる部下が主の身を案じて助力を請いに来た。そう理解したが、アレットは特に心を動かされていなかった。
(こいつら双子でもないのに息ぴったりだな)
そんな関係ないことを考えるほど心は不動だった。
というのも――
(あいつ、解こうと思えばいつでも解けるはずだからな。あの呪い)
――と、助ける理由がないからである。
アレットの友人、悪友であり戦友でもあるリオという男性は一年前にもう一人の友人が死んだときに呪いを自分から受け入れに行った。そのような人物であるため、全然助けなくても勝手に生き残れるとアレットは考えていたのである。
死ぬかもしれないが、あいつが死ぬときはあいつが死のうと決めた時だけだと信頼しているのである。
(あいつは口下手で、しかもガサツなやつだから説明しなかったんだろうな)
アレットの思考はすでに目の前の二人をどうやって追い返すかに移っていた。
「あー……リオの事なら心配いらない。呪いのせいで弱くなってもあいつなら勝手に切り抜けるし、本人が助けてほしいと思ったら助けに行くから」
アレットの返答に満足してはいないようだが、これ以上は無理だろうと判断したようだ。
「十分です」
「我が主の友よ。感謝します」
二人は一礼して去っていった。
森をさらに深く進むと水辺にたどり着く。いつも霧が発生しており、特に暗い場所だ。
地球のオカルトが好きな人ならばネッシーが出てきそうというかもしれない。
(いた)
そんなくらい水辺で、ミアが魔術を使っていた。両手の手首までを水の中にいれ、水の中に無数の魔方陣を展開。これらが複雑に絡み合い一つの巨大な模様を描き、ミアの両目に星のように明るい光と海の底の様な暗い光が輝きはじめ、アレットには見えないものを見通し始める。
水属性魔術による予知。正真正銘神の御業である未来予知だ。
アレットでも使用できない魔術であり、アレットの故郷であり十万年続いた研究船にも情報がない秘術だ。
(しっかし、いつ見ても綺麗だな)
魔力を使う時は特殊な光が漏れだす。魔術であれ武技であれ必ず発生する現象であり、これをいかに少なくするかが無駄な魔力消費を減らすとも言われている。しかしミアが発している光は漏れ出して無駄となっている魔力ではなく、オーラや威光と言いたくなるような雰囲気があった。
アレットはミアの魔術が終わるまでじっとそれを黙って眺めていた。




