88 ジジイを買う
「どうも、お久しぶり」
「お久しぶりです……が、まだハルシュ様のギルド員資格は凍結されたままです」
ですよね。
久しぶりのコル・カロリの冒険者ギルド。
受付嬢は相変わらず冷淡だ。
あれ? 乙女座の女王様何とかしてくれるって言ってなかったか?
これだから高貴な人達は当てにならん。
「傭兵さんって、今の俺でも借りれるの?」
「駄目です。資格が必要です」
「そうかー……」
「……どう言ったご用向きですか?」
「いや、少し話を聞きたい奴がいてさ」
「そうですか。……ギルド内で良ければ席をご用意しますが」
「え? 良いの? それでも十分!」
「では、ご用意します。ご指名はどなたですか?」
「ガウラ。ありがとう。恩に着る」
「いえ。可能な限り取り計らうように通達が出ていますので」
なるほど。
ギルドのあの偉い人。
名前……なんだっけ? 顔も朧気だ。
それが一応気を効かせてくれたのか。
「奥の部屋でお待ち下さい。一応、料金はいただきますので」
「はーい」
◆
「何の用じゃ?」
通されたギルドの一室。
小さな応接室のような部屋。
そこに、ジジイが入ってくる。
「時間が無いので単刀直入に言う。
駆け引きはナシ。
取引が必要なら可能な限り応じる」
「ふむ」
「裏に詳しいと、そう踏んで聞きに来た。
裏から手配された。
取り消したい」
「無理じゃな。自業自得。何をした?」
「逆恨みを買ったみたいでな。真っ当に生きてたつもりなんだが」
「まあ。感情は人それぞれじゃからな。他人から見て小さなことでも当人にとってはそうでないことも往々にしてある」
「理不尽な世の中だ」
「一番簡単な方法は依頼者を消すことじゃ。その後さらなる深みに嵌るだろうがな」
「それが出来りゃ苦労はしないんだよ。相手は王様と来たもんだ」
「王!?」
悠然としていたジジイの表情が変わる。
ま、王様直々に手配されるなんてそんなに居ないだろうしな。
「どう言う事じゃ?」
「この紋を持った俺が闘技大会で優勝した。それに金牛王が激昂した。結果、手配された、らしい」
その俺の言葉にジジイの顔が殊更険しくなる。
「……儂を買わんか?」
突然の提案。
いや、要らないよ。アンタなんか。
「そうでもせんとここから離れられん」
露骨に表情に出ていたのだろう。
ジジイが説明を続ける。
「裏のギルドには多少顔が利く。
本当であるならばその依頼、取り下げさせよう」
「出来んのか!?」
「出来る」
ジジイの買取価格……。
貸出の値段はこのギルド一だが、買取価格は下から数えたほうが早い。
つまり、売り物としては買い手が少ないということだろうな。
ま、好き好んでこんなジジイを手に入れようなんて奴は居ないだろうし。
「理由如何でその話、乗ろう」
地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸。
そう思えた。
その先に、蜘蛛の巣が待ち構えているのかもしれないが。
「裏のその甘ったれた態度が気に食わん。
権力に迎合するなど持っての他じゃ」
「ふーん。任侠か」
「そうじゃ! 弛んだ根性を叩き直してくれる」
もし可能なら、見返りとしては安い、気がする。
そもそもおかしな出費なのだが。
「ふむ。そうだ、ジイさん、魔法使いだよな?
古代魔法って知ってるか?
ピクシスにあるって聞いたんだが」
「知っとる。が、あの島に行く手段がないので諦めておる」
「島に行けたら、俺でも使えるのか?」
「どうかの。それが何かわからんからな。儂とて使えるかわからん」
「どんな魔法なんだ?」
「強力過ぎる力故、使い手が少なくなり、衰退した魔法と伝承には残っている」
ふむ。
その魔法、手に入ればジジイを買ってもお釣りが来るんじゃないか?
契約で縛ってしまえば逃げれないだろうし、最悪盾にしよう。
「よし。アンタの身柄、買わせてもらう」
「賢明じゃ」
ニヤリと笑うジジイ。
その笑顔に一抹の不安を覚える……。
仕方ないとは言え何が悲しくて、ジジイなんぞ買うはめになっているのか……。
出来れば若くて可愛い女の子が良かった。
◆
「はい。では、ガウラさんの契約解除及び、ハルシュさんとの契約を行ないます」
ガウラの代金をギルドの受付嬢に渡す。
人を買う。
その商品がジジイであるから若干罪悪感が薄れるが、あまり気分の良いものでは無いな。
そして、アンドロマリウス退治で大量に手に入れた貴金属もそろそろ底を尽きそうだ。
「契約の為の血を採取します」
「血?」
受付嬢が、ナイフを手に俺の前に立つ。
血って……アバター体を傷付けてもそんなの出ないんだが。
そんな疑問を余所に受付嬢が俺の手を取り親指にナイフの刃を当てる。
小さな痛み。
見るとナイフの刃に赤い液体。
直後、受付嬢が回復魔法で傷を癒す。
……深く考えるのは止そう。
ゲームの都合だ。
「では、こちらで暫くお待ち下さい」
そのナイフと隷属の条件を書いた紙を持って別室へ消える受付嬢。
条件は俺に逆らわない事など。
奴隷契約の儀式自体は見せてもらえないらしい。
解除方法も極秘。
しかし……血か。
ひょっとしてあの城で飲んだワインの様な液体。
あの中に少女の血が?
◆
「ハルシュさん、ガウラさんの契約で問題が」
別室で待つこと暫し。
そんな台詞と共に受付嬢が、申し訳なさそうな顔をぶら下げて入って来た。
「問題?」
後ろにジジイも居る。
「結論から言うとガウラさんをハルシュさんの奴隷にする事は出来ません」
「え? 何で?」
「お主が既に奴隷だからの」
ジジイが口元に笑みを浮かべながら言う。
その首には既に入れ墨は無い。
「……嵌めたな?」
ジジイは知ってた筈だ。
「何の事かの?」
クソジジイ。
「どうしましょうか?」
どうって……。
「心配するな。約束は守ろう。手配の事は任せよ」
「裏切ったら殺すからな。絶対に」
クソ。
また余計な悩み事が増えた。
◆
おかしい。
俺が何をしたと言うのか。
昨日まで女子三人と行動していたのに。
たった一日でそれがジジイになってしまった。
あーあ。
ピエラのパンツも暫く拝めないのか……。
いや、それよりも風呂に入れなくなるのかなぁ……。
そんな事を考えながら宿屋の風呂を堪能し、ログアウトした。
◆
「お前、枯れ専なの?」
「……殺されたいのか?」
アルデバランから少し離れたフィールドの上。
俺はもう、街に入れない。
ここまでジジイをオンブして飛んで来た。
そして、裏に明るそうなトーヤを呼び出した訳だ。
「何じゃ。男か」
「黙れ」
「それはコッチの台詞だ。ジジイ」
「五月蝿い。話が進まない」
「やる気が起きんのぉ」
「奇遇だな。俺もだ」
銃を取り出し二人に向ける。
「話をしても良いかな?」
笑顔と共に。
引き攣った顔で頷く二人。
素直でよろしい。
「こっちはガウラ。素性はよくわからないが裏に顔が効くらしい。で、こっちはトーヤ。賞金稼ぎだ」
簡単に二人を紹介。
「これからジジイが裏のギルドに行く。
トーヤにはジジイが逃げないか見張りを頼みたい」
「何だよそれ。自分でやれよ」
「信用が無いのぉ」
「目出度く表からも手配されて街に入れなくなった」
「はあ? アンタ本当に何やらかしたんだ?」
「何にもして無いんだな。これが」
「そんな訳無いだろ。
場合によってはオレは下りるぜ」
「あっそ。
これは独り言だけど、俺の上司の魔王さんは世界を敵に回しても俺を助けるって言ってたなー」
「マジか! 流石は魔王ちゃんだ!」
「協力者が居なくなった今で、頼れるのは彼女だけだなー。少々不本意だが、ジジイの監視を頼むか」
「ほう。あの小娘か! そっちの方が良いぞ!」
「ざけんな! こんなジジイと魔王ちゃんを二人に出来るか! それに裏のギルド何て陰気な場所、彼女に似つかわしく無い!」
「じゃ協力してくれるか!?」
「当たり前じゃねーか!」
「助かる!」
「儂は小娘が良い!」
うん。
こいつら二人まとめてジルヴァラの炎で焼き払ってもらいたい。
「じゃ、ジジイ約束だ。高い金払ったんだからその分は働いてくれ」
「わかっとるわい」
「トーヤ、おかしな動きしたら殺して良いから」
「お前、そこまではっきり言わなくても良いんじゃね?」
「吉報を待つ!」
俺の締めの言葉に二人が顔を顰める。
いや、マジで頼りにしてるからな。




