63 魔王と降臨イベントに行く
「じゃ、アリア、リヒトをよろしくね!」
「はい」
「すぐ帰ってくるわ!」
「はい!」
「リヒトもいい子にしてるのよ?」
ジルヴァラはしゃがみこんで少女の足元に座るワンコの頭を撫でる。
目を細め大人しくされるがままのワンコ。
少女が抱きかかえるにはすこし苦労するほどに大きくなった。
「そろそろ行こう。アリアシア、行ってくる」
「はい。お気をつけて」
ジルヴァラを抱きかかえ、日の落ちかけた夕焼けの空へ。
目的地はすぐそこ。
今は何もない、ジェミニ島の横の空。
考えた末、降臨イベントはジルヴァラも誘うことにした。
LPに余裕があるので盾にも囮にも使える。
ま、本人には言って無いが。
◆
「本当にここで合ってるの?」
背中にしがみついたジルヴァラから疑問の声。
「アリアシアが言うんだ。信じよう」
双子座の北の空の上。
少女が地図の上で指し示した場所の辺りを飛んでいる。
イベント開始まで、およそ五分。
「何であの子が知ってるの?」
「俺達よりはこの世界の知識があるんだろ」
「随分と作り込んでるのね。NPC一人ひとりに過去があるのかしら」
「あるんじゃないか? と言うか、過去が必要になった時点で構築されるんじゃないのか? 観測した時点で世界が確定するんだよ」
「そうなの?」
「いや、知らない。適当に言ってみた」
「何なのよ……」
「でもまぁ、俺も疑問には思う。運営の用意したイベントであるはずの敵が、この世界のNPCに脅威として設定されている。島を落とすそうだ」
「島を、落とす?」
「アリアシアがそう言ってただけだから具体的な事はわからないけど。
俺達プレイヤーがこのイベントを全員放置したらどうなるんだろうな。
どこかの島が消えてなくなるのかな?」
「そんな事ありえるのかしら?」
「無いか……。
答えの無い問答なんて『利』の無いことだったな」
「あら、とりとめのない会話も悪くは無いと思うけど?」
微かに挑発するような口ぶりのジルヴァラ。
それにお付き合いするような間柄では無いのですよ。上司殿。
「そろそろかな」
現実の時計では間もなく日付が変わる。
こちらの世界は、日が沈み切った。
「じゃ、盾を展開するわ」
ジルヴァラの持つ、魔王の力。黒い霧。
とても盾には見えないが、その性質から彼女はそれを神話の盾になぞらえ盾と呼んでいる。
俺達の周囲に、薄っすらと黒い霧が現れる。
そして、足元の景色がモザイクの様に歪み、次の瞬間、そこに大地が出現していた。
時刻、0時丁度。
<ポーン>
システム音。
<イベントフィールドに侵入>
<プレイヤーを専用フィールドに転送します>
その声の直後、一瞬景色がぶれる。
これは、そう、離脱と同じ感覚。
別の座標へ転移するゲーム内だけの事象。
しかし、目に映る世界は変わらず先程出現した大地のまま。
いや、違うのが一点。
大地に佇む一つの影。
黒いローブを見に纏い、その顔には不可思議な紋様の仮面。
ローブから出た、白い右手に肉は無く、赤い本を抱えている。
彼我の距離、およそ100m弱。
「炎。全てを無に」
「全弾・光射す雨」
ジルヴァラの魔法とほぼ同時に、俺が武技を放つ。
地上に佇むダンダリオンの足元のより、黒い炎が立ち上る。
そこへ、俺の放った神聖魔法を組み込んだ魔法の弾丸が、白い煌きを上げながら上から豪雨の如く襲いかかる。
……。
<ポーン>
システム音。
<降臨モンスター・ダンダリオン討伐おめでとうございます>
<フィールド上のプレイヤーには初回撃破ボーナスが送られます>
<特別フィールドから通常フィールドに転送します>
再び歪む景色。
「……終わり?」
背中で魔王が、間抜けな声で尋ねて来る。
「……みたいだな」
一発で沈めて置いて何だが、アンドロマリウスに比べて全然歯ごたえが無かった。
レベルも上がって無い。
つまり、それだけ弱かった、と言う事だろう。
運営のバランス調整の結果か?
いや、前回がやり過ぎ、これぐらいが適正なのかもしれない。
「帰ろ。アリアシアが心配してる」
「そうね」
俺の提案に同意したものの、魔王は背中にしがみついて離れない。
「ほら、君が離脱しないと帰れないんだよ」
「え?」
「俺が離脱で消えると、奈落の底へ一直線だろ?」
「あ、そうね。わざわざ飛んで帰る必要も無いのね」
「そう言う事。先に帰ってくれ。すぐ追いかける」
「わかったわ。離脱」
背中の魔王が消えたのを確認し、俺も後を追う。
「離脱」
一瞬、景色がぶれ、そしてアルデバランの中心にある広場に立っていた。
「これ、移動にも使えたら便利なのに、何で実装しないのかしら」
一足早く移動していたジルヴァラが、俺を出迎えながら言う。
少女とワンコが待つ宿に足を向けながら、そのジルヴァラの疑問に答える。
「そんな事したら、NPCの経済がガタガタになるからじゃないか?
あんなにでかい船で移動していて、それが不要になったら街は失業者で溢れかえる。
あっという間に世界大恐慌だ」
「随分と適当な知識ね」
「生憎、経済と歴史には興味無くてね」
恐らくは的外れな俺の思いつきにジルヴァラは呆れた口調で言う。
それを肩を竦め受け流す。
そんな下らないやり取りを挟みながら宿に着く。
「アリアー! リヒトー! 帰ったわよー!」
少女の部屋をノックしながらジルヴァラが声を張る。
ドアが開いて、中から白い毛玉がジルヴァラに飛び掛る。
それを撫で回すのを横目に見ながら、ドアの向こうの少女に声をかける。
「ただいま」
「お帰りなさい」
◆
宿屋の食堂で軽く労い。
ワンコは足元で肉にかぶりついている。
「大した事無かったわ」
ペンネを食べながらジルヴァラが報告。
「ま、魔王様の前ではな」
サラダを取り分け、少女に渡す。
「私も頑張ります。早く二人と一緒に行ける様に」
少女がジルヴァラと俺に決意のこもった眼差しを向ける。
あんまり頑張らなくて良いんだけど。
「さて、と」
【ダンダリオン撃破特別プレゼント】
独力でダンダリオンの元へ辿り着き、そして、これを打ち破った者への特典。
メニューから、勝利ボーナスを確認。
今回は、選択無しか。
<ポーン>
<白紙のスキルチケット(魔法の知識)を手に入れました>
【白紙のスキルチケット(魔法の知識)】
望む魔法スキルを取得出来るチケット。
対象は、知識を持つ魔法に限る。
ふむ。
好きな魔法……。
外れだな。これ。
確か魔法は一番高いランクで6の神聖魔法。
既に手に入れている。
前回のリーザのスキルがランク9だったので、難易度相当にボーナスも低下していると言う事か。
同じく、仮想ウインドウを操作していたジルヴァラも、複雑な表情。
そして、テーブルの上に紫色の液体が入った小瓶を置く。
「アリア、これあげるわ」
「え、何です? これ」
ジルヴァラは苦虫を噛み潰したような顔をしてそのアイテムの名を告げた。
「媚薬」
ハルシュ Lv.29
筋力値:31
魔力値:31
敏捷値:31
装備:
【英雄の槍】
【魔導銃・喇式】
【ミスリルスケイル】
【大魔導士のローブ】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.2
│├─【指南】Lv.1
│└─【疾風】Lv.1
├[2]【英雄】Lv.1
├[3]【防御】Lv.1
├[4]【魔法防御】Lv.1
├[5]【観察眼】Lv.2
│└─【暗視】Lv.1
├[6]【超反応】Lv.2
│├─【気配察知】Lv.1
│└─【魔力察知】Lv.1
├[7]【神聖魔法】Lv.2
│├─【槍】Lv.2
│└─【銃】Lv.1
└[8]【離脱】
所有スキル:
【回復】Lv.1
【夜目】Lv.1
【看破】Lv.1
【恫喝】Lv.1
【拷問】Lv.1




