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36 魔王を抱いて空を飛ぶ

 周囲のクズ共を見下す様に、下げずむ視線を送りながら浮遊。

 クズ共からは戦意の欠片も感じられない。


 そのままゆっくりと、魔王の元へ。


「さ、参りましょう。愚か者は居なくなりました」


 ここからでは俺が何をしていたか見えなかったであろう魔王様は一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた後、頷く。

 俺は魔王の背中に腕を回し、膝を抱き上げ、そして、ゆっくりと浮遊を開始する。


「えっ……」


 突然浮かび上がり、驚いたのであろう。

 魔王が俺の首に両腕を回ししがみつく。


 口を開け、呆然としているクズ共を一瞥し、そして、加速。一気に上空へ。


 ここで悲鳴を上げられたらかっこ悪い事この上無いな、と飛びながら思ったが、魔王は俺に必死にしがみつき静かにしていた。


 声すら出ないのかも知れないが。


 街の明かりが小さく見える、それくらいの高さで、一度停止。


「予想以上に上手くいったな」


 自分で立てた計画とは言え、余りに上手く行き過ぎて拍子抜けしている。

 クズ共が魔王を襲撃しようとしていると知り、そして、英雄の力は、おそらく言葉もしくは演説、そう当たりをつけ、更に魔王自体が状況から抜け出したいと望んでいるだろうと言う想定のもとの計画ではあったが、その全てが上手く転がった。

 更に、俺の手元に『拷問』『恫喝』のスキルがあった事も。

 いずれ、あの人形に使うかも知れない、と。

 この呪いを解く方法を隠している様ならば………。


「……ありがとう」


 魔王が耳元で小さな声を出す。


「どういたしまして」


 しかし、あいつらも根性無かったな。

 万が一魔王が殺されでもしようものなら嬉々としてLP回復薬を回収出来たものを。


 魔王が俺から顔を離し、下を見下ろす。


「……高い」

「怖い?」

「ううん。綺麗」


 そりゃ良かった。


「お望みとあらば一晩中飛んで見せますが」

「ふふっ。そんな事出来ない癖に」


 空には満天の星。

 眼下にはそれを零した様な街の灯り。

 目の前は風に揺れる白銀の短い髪。


「そう言えば、名前は?」

「今さら? 失礼な人」


 言葉とは裏腹に顔には笑みがある。


「ジルヴァラよ。貴方はハルシュで良いのかしら?」

「そうだよ。ジルヴァラ」

「ハルシュ」


 いや、単純に楽しかった。

 女の子を抱えと空を飛んでいると言うシチュエーションが。


 そうして、ゆっくりと、街へと下りて行く。


 この後どうしよう。

 ウミ達と合流してジルヴァラを紹介しようか。

 そう言えば、ウミを通信拒否してた。


「ちょっと、仲間に連絡を取ってもいいかな?」


 それに、ジルヴァラは少し拗ねた様な顔をし、しかし、すぐに笑顔を取り繕う。


「どうぞ」

「紹介するよ」


 その言葉に、わずかに彼女は眉根を上げる。

 ウミに通信。


『どこ行ったのよ!!』


 いきなり怒気を孕んだ叫び声。

 どこって……。


「街の上」

『はあ? 今すぐ闘技場の前に来い!!』


 かなりご立腹。

 何があったのだろう。

 仕方無い。


「ちょっと、急いで降りるから、しっかりつかまって」

「え、うん」


 ジルヴァラが再び首に腕を回し、体を密着させる。

 しかし、鎧が邪魔をしてその感触は微塵もわからない……。


 眼下に見える闘技場。

 そこへ一気に落下。


 ジルヴァラが、息を飲むのがわかる。


 地上、四メートル程で浮遊。


「ひゃあああぁぁ……」


 流石に声が出る魔王様。

 上空からウミを探す。

 あ、いた。リーザもか。三人でベンチに座っている。


 その前まで行って、そして、ゆっくり降りる。


「お待たせ」

「へ?」

「え?」


 間の抜けたウミとリーザの声。


 そして、その間に挟まれた人形が、ゆっくり顔を上げる。

 その顔は涙でぐしゃぐしゃである。

 俺達を、見てハッと目を見開く。


 そんな三人の前でゆっくり地面に降り、そして、魔王様も下ろす。


「どしたの?」


 その俺の疑問に返事は無く。

 代わりに、ジルヴァラに人形が飛びかかる。


「姉様!!」


 そう、叫び声を上げながら。


 急に抱きつかれ、そして、胸に顔を埋められ「姉様、姉様」と、泣き声を上げていると言う謎の状況に陥ったジルヴァラ。

 引き攣った困り顔を一度俺に向けたが、泣きじゃくるその人形に目を落とし、そして、優しくその頭を撫で始めた。


 ウミとリーザが俺に説明を求める様な目を向ける。

 いや、説明が欲しいのは俺の方なんだけど。


 泣きじゃくる人形が落ち着くまで暫くの時間が必要だった。


 そして、泣き止み、少し落ち着いた頃合いを見計らって移動。

 ウミが目星を付けていたという店へ。


 時折すれ違うプレイヤーが俺に手を振ったりする。

 それに笑顔で返す。


 有名になったなぁ……!


 俺がウミとリーザに挟まれ、その後ろからジルヴァラと人形が付いてくる。

 手を繋いで。

 指と指を絡めるように手を繋いで。


 何? あの百合百合した空気。


 チラと振り返る俺に、少しはにかんだ笑みを返すジルヴァラ。


 んー……。


 何だろう。何か、色々間違った気がする。

 いや、初期アバターの選択の時点で既に間違えているんだよな……。


 ◆


 ケーキバイキング……!?


 ウミが案内した店……。


 あ、パスタなんかもあるのか。良かった。

 ケーキなんて一切れ食べれば十分だろうよ……。


 俺が、三種類ほどパスタを皿に盛り付けている間に、ウミは全種類のケーキを、リーザは好きな物を好きなだけ盛り付けた四段のパンケーキを、ジルヴァラは山ほどの果物をそれぞれ運び込む。

 その傍らでやや困った顔を浮かべる人形。


「好きなの食べな」

「えっと、どうしましょう……あ、あれは……何でしょう」


 そう言って人形は、不思議そうな顔でゼリーを手に取る。


「ちょっとずつ食べればいい。君が決めないと、お姉さん方がお預けを食らったままだから早く行こう」

「あ、はい。ごめんなさい」


 ◆


 皆、思い思いの物を口に運び、そして、さて何から説明を始めたものか……。


「あ、そう言えば優勝おめでとう」


 思い出したようにウミが言う。


「おー、そうだそうだ」

「優勝祝いにここは私の奢りで良いよ!」

「え、良いの? 何で?」

「ふふふふー。儲けさせていただきました!」

「おま、賭けてたのか!?」

「良くやった!」


 そう言って親指を立てる。


「でも大変だったんだよ! 決勝の途中でアリアが叫び声上げて泣き出しちゃうし」

「ごめんなさい」

「あー良いの良いの。アリアを責めてるわけじゃないから」


 俺ですよね。

 責めてるの。

 そうか。あの叫び声はこの人形が発したのか。


「あれは……ハルシュ様の槍が、姉様を……」


 そう言って、また下を向く人形。

 そして、その頭をそっと撫でるジルヴァラ。


「私は、大丈夫よ。アリア」


 優しい声でそう言い聞かせる。


「で、その子が?」

「ジルヴァラです。宜しくお願いします」

「ウミです」

「リーザです」


 三人が頭を下げる。


「何で一緒にいたんですか? 元々お知り合い?」

「いや、取引した」

「取引?」

「そう。賞品の交換」

「「え!?」」


 ウミとリーザが声を揃って驚きの声を上げる。


「じゃ、今LP回復薬はジルヴァラさんが?」

「はい。持ってます」

「使っちゃえば?」


 持ってると誰に狙われるか分からないし。

 そう。俺とか。


「そう、ですね。良いんでしょうか?」


 何故、俺に許可を求める。


「良いよ。俺はもう英雄使ったから」

「「え!?」」


 再び、驚きの声を上げるウミとリーザ。


「ハルシュが」

「英雄!?」

「うん」

「え、ちょっと、英雄って何が出来るのさ?」


 ん。


 スキル【英雄】

 その声は、世を動かす。


 仮想ウインドウを展開し、皆に見せる。


「なんかよくわかんない説明なんだけど、ついでに空を飛べるみたい」


 さらっと嘘。


「いやいや、説明と能力が合ってないじゃん!」

「そんな事、俺に言われても」

「でも、実際飛んでるんですよね……」

「ま、そういう訳で、LP回復薬は魔王様に献上差し上げた訳」

「やっぱりジルヴァラは魔王なの?」

「はい」


 ジルヴァラも仮想ウインドウを展開。

 別に見せなくても良いのに。


 スキル【魔王】

 全てを消し去る炎。全てを拒む盾。

 その力は邪に非ず。


「魔王だ」

「魔王だね」

「こっちはちゃんと説明通りなんですよね」


 何故かジト目でウミとリーザが俺を見る。


「ほら、LP回復薬、使おう」


 興味の矛先をジルヴァラに向ける。

 武技、受け流す会話(トーク・パリィ)


「じゃ、折角なので」


 そう言って仮想ウインドウを操作するジルヴァラ。

 その直後、彼女が目を丸くする。


 なんだ?


「え、っと、LPが、全快しました……わ」

「「「何ぃ!?」」」


 大声を上げる、俺とリーザとウミ。


 全快?

 マジで!?

 LP9?


 ……圧倒的に損した!!

 英雄なんてクソスキルと比べようもない程の価値!!


 顔を引き攣らせる俺とリーザとウミ。


「え、何か、すいません」


 その反応にジルヴァラが、心底申し訳なさそうに言う。


「そうかぁー全快したかぁーよかったねー。変な取り巻きもいなくなったしー……」

「ええ、ありがとうございます。……これでやっと普通に楽しめそう」

「そういや、何でバイトしてたの?」

「え…………お金が………無くて」


 顔を伏せ、小さな声で答える。


「お金って、ギルドでいくらでも仕事あるだろ」

「そのギルドも見張られてて、入れなくて……」


 あ、そういう事か。


「どういう事?」

「彼女、集団PKの標的にされてたんだよ」

「「え!?」」

「で、見るに見かねた心優しい俺が追い払ってあげたわけ」

「「あ?」」


 え、何その反応。

 何で二人して睨むのさ。


「え、そしたらジルヴァラってレベルいくつなの? 狩りも行きづらいよね?」

「レベルは……3です」

「「「さん!?」」」


 俺とウミとリーザが一斉に立ち上がる。


 3?

 うっそ。

 それであの強さって……いやいや、同ランクで強さのばらつき大きすぎでしょうよ……。


「3……レベル3に……負けた……」


 取り分け衝撃が大きかったのはリーザの様だ。


「え、負けたって?」


 ジルヴァラが質問を投げる。

 ……さてさて、何て返答するのかな? 黒騎士さん?


「いえ、なんでも無いです。聞かなかった事にして下さい」


 はぐらかした!


「え、どうしたんですか? 黒騎士さん」

「ハルシュさん!!」

「え、黒騎士さんって? え? あの、準決勝の?」


 ジルヴァラは混乱の極地の様だ。


「え、あの、ごめんなさい」

「いやー、あやまらないでー! 惨めだから!」

「いい試合だったけどな」

「うわ。超上から目線」

「何でそんな勝ち誇った顔してるんですか!!」


 賑やかな一時。

 笑い声に包まれる室内。

 その中で、控えめに、皆と共に笑う人形、いや、少女。

 その豊かになった表情に、改めて、あの子の人並みの幸せとは何だろうかと、考えさせられるのである。

ハルシュ Lv.17

筋力値:19

魔力値:19

敏捷値:19


装備:

【英雄の槍】

【魔導銃・喇式】

【ミスリルスケイル】

【大魔導士のローブ】


セットスキル:

├[1]【飛行】Lv.1

├[2]【英雄】Lv.1

│└─【恫喝】Lv.1

├[3]【拷問】Lv.1

│└─【銃】Lv.1

├[4]【観察眼】Lv.2

│├─【暗視】Lv.1

│└─【看破】Lv.1

├[5]【超反応】Lv.2

│├─【気配察知】Lv.1

│└─【魔力察知】Lv.1

├[6]【神聖魔法】Lv.1

└[7]【離脱】


所有スキル:

【回復】Lv.1

【夜目】Lv.1

【防御】Lv.1

【魔法防御】Lv.1

【槍】Lv.2

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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