22 ミノタウロスと戦う
休憩を挟み、改めて北の島を散策。
吊り橋から、島の奥へ獣道が伸びているのでひとまず道沿いに進む。
散発的に襲い来るゴブリン共を始末しながら。
「ミノタウルスって、少女を生贄に献げる話だっけ?」
しかし、目的の獲物が見つからない。
二人に問い掛ける。
「確かそんな話だよ」
と、ウミ。
「そうかぁ……。
良し、じゃ、生贄役が必要だな。
どうだろう。この辺で寝転んで待って見るのは」
そう、ウミに提案する。
「は?」
「我々は、物陰に潜んでミノタウルスが現れるのを待つ」
「はあ?」
「という訳で生贄役、ヨロシク! もちろん全裸で!」
「馬鹿じゃない?」
「ハルシュさんが裸で寝転べば良いんじゃ無いですか?」
二人から冷たい視線が突き刺さる。
「それはー、恥ずかしいなー」
「死ね。ネカマ」
「最低ですね」
うーん。
良い作戦だと思ったのだが。
◆
結局、森の中をウロウロウロウロする訳で。
やっぱ、生贄作戦しか無い。
そう、再提案しようと思った時だった。
モンスターの気配の中に、微かに異物感がある。
何だ?
俺は、その異物感の方向へ足を進める。
二人が、遠巻きに付いてくる気配がする。
異物感の近くにぽっかりと、空洞が口を開けていた。
「まいったな……」
おそらくミノタウルスは、この洞窟の奥だろう。
それは、予想していなかった。
「洞窟?」
「結構広そうですね」
「引き返そう」
「え?」
「何でですか?」
俺の提案に、疑問を返す二人。
「明かりが無い」
洞窟を照らすアイテムを持っていないのだ。
「……あるよ?」
と、ウミ。
そう。こんな事もあろうかと、ちゃんと……え?
「あるの?」
「ほら」
ウミが取り出したのは、彼女が持っていたキャンプセットに含まれるランプだった。
「あったのか」
「て言うか、暗視があるからこれすら要らない気もするけど」
……そうだった!
◆
この先にどんな化け物が居るのだろうか。
怖い。
その感情を自覚する。
そう、怖いのだ。
いざとなれば逃げれば良い。
そうと分かっていても、俺の命(LP)には後が無い。
その事実を忘れる事など出来ないのだ。
無理に頭の隅から追いやろうとするから、余計考えが回らなくなる。
暗視スキルに思い至らなかったり、生贄作戦何て馬鹿な事を提案してみたり。
いや、生贄作戦は、まあ、下心あった訳だけど。
改めて、感情を見つめ直す。
恐怖心は、崖っ淵だからこそ。
これは俺の武器だ。
よし。
行こう。
慎重に。
「命を大事に」
「「うん」」
いつもの通りのその作戦に、二人から力強い同意が返って来る。
それを確認し、俺達は暗闇の中へ足を踏み出した。
◆
暗視で、暗闇の中を見通せるものの、それでも小さなランプの明かりは心強く。
人が優に五人は通れる程の広さ。
高さは三メートルほど。
時折、分かれ道。
一本ずつ確実に潰していこうと言う、俺の意見と、思った道を進むと言うウミの意見が別れる。
その判断をリーザに委ねた結果、ウミの勘に任せると言うことになった。
うん。
信用されてない。
ま、良いけどさ。
道中は、天井からでかいヒルが落ちてきたり、保護色で擬態した大トカゲが急に飛びかかってきたりと、飽きることはなく……。
そして、この洞窟で果たして正解だったのだろうか?
そんな疑問が微かに首をもたげ始めた時に、急に視界が開ける。
テニスコートほどの広さの空洞。
ランプの明かりの届かない、その奥に、しかし、暗視の力は優に三メートルはあろうかという巨体を捉える。
太い手足。腰を覆うだけの粗末な鎧。突き出た鼻。湾曲し上を向く二本の角。
牛の頭を持つ、大男。ミノタウロス。
右手に、戦斧。左手に、棍棒。
探し求めた、会いたくなかった相手。
「作戦確認」
「「命を大事に」」
「行くよ! 貫く投槍」
俺の放った武技が、戦いの幕開けとなった。
槍と共に、ミノタウロスに向かって飛び出すウミとリーザ。
そこから、一息遅れて俺も続く。
俺の放った槍は、ミノタウロスに当たること無く、その後ろ、洞窟の壁に突き刺さる。
外れたか……。
この技使うと、槍の回収に行かないといけないのが難点。
その分、当たれば強いのだが。
槍の回収のために走りながら、横目に戦いの様子を見守る。
「切り裂く風」
ウミの放った魔法を受け、ミノタウロスは顔をしかめる。
その上半身に薄っすらと一筋傷を負っただけだが。
構わず迫るウミの突き出した細剣に合わせ、棍棒を振り下ろす。
身を翻すウミ。
空を切った棍棒を持つ左手に、微かに細剣の剣先が傷を負わす。
そこに、リーザが横手から水平に戦斧を振るう。
右手の斧で、その戦斧を受け止め、そして、逆手の棍棒でリーザを横殴りにする。
リーザはその一撃を左手の盾で受け止めるが、その勢いを受け止めきれず、後ろに跳ね飛ばされる。
体勢を崩したリーザに追撃をしようと斧を振りかぶるミノタウロス。
「駆ける突き」
その背後から、突進を伴う鋭い突き。ウミの武技。
ミノタウロスの背に、細剣が突き刺さる。
僅かに背中を仰け反らせたその巨体の脇腹目掛け、俺が大きく槍を払う。
続けざまに痛打を浴び、怯んだ巨体の頭上から戦斧が振り下ろされる。
その一撃は、雄々しい巨大の角を半ばから斬り飛ばし、肩口に刃を食い込ませる。
目論見よりも、遥か手前で止まってしまった戦斧の刃に驚愕の色を浮かべたリーザへ、棍棒の一撃が直撃する。
盾で防ぐ間もなく繰り出されたその一撃を受け、リーザの体が宙に舞う。
「治癒」
神聖魔法による回復をリーザに飛ばす。
一旦、距離を取る三人。
一番近くに居た。
おそらくそれが理由。
牽制をしようと一歩踏み出していたウミに、ミノタウロスが手にした斧を投げ飛ばす。
予想外の飛び道具。至近距離から投げられた斧を、辛うじて躱したウミ。
そして、その先を巨体が待ち構える。
棍棒を大きく振りかぶって。
およそ5メートル程の高さから、一直線に振り下ろされたその一撃は小さな盾を構えたウミの左手を弾き飛ばし、肩口に突き刺さり、ウミの体を地面に叩きつけ押し潰す。
俺が全力で走り込み、そして、伸ばした槍の穂先が、背中に突き刺さった事など、まるで構いもせずに。
「治癒」
ウミに回復魔法を飛ばす。
その小煩い存在を次の標的と定めたミノタウロス。
俺に向かい棍棒を振り回す。
巨体から繰り出されるその素早い一撃を避けながら、槍で突きを繰り出す。
穂先に軽い手応え。
致命傷には全く至らない。
しかし、構わず槍を繰り出す。
ウミはまだ、地面に横たわったまま。
HPは回復されているはずだ。
ならば、何かの状態異常か?
思い当たるのは、気絶。回復までに少し時間が必要だ。
それまで、時間を稼がなくては。
その後、離脱。そう決める。
ミノタウロスの巨体の向こう。
リーザが、戦斧と盾を構える姿が見える。
槍が、ミノタウロスの肩を捉え、穂先が突き刺さる。
その槍を反対の腕でつかみ、そのまま引き抜き、そして力を込め、俺から奪い取る様に高々と上に上げる。
そのまま、その柄を俺に向け振り下ろす。
その一撃は、俺の頭部を直撃した。
鈍い音と共に小さく痛みが走る。
そして、体の自由が効かなくなる。
気絶……?
自由の効かない俺の体を軽々とミノタウロスが持ち上げ、そして乱暴に放り投げる。
その先に居たのは、斧と盾を構えたリーザだった。
避けろ!
それは、声に成らず、そして、リーザは、一瞬の逡巡の後、手にした斧と盾を捨て、俺の体を受け止めた。
放り投げられた人の体を受け止めきれず、まとめて弾き飛ばされる。
そして、二人共地面に転がる。
その間に、ミノタウロスは悠々と一度投げた斧を拾い直し、地面に転がる三つの体を順に見る。
どれから壊そうか、見定める様に。
「っく」
小さく声を出し、リーザが立ち上がる。
動けるなら、離脱しろ……。
その声は、出なかった。
彼女は、右手で剣を抜き、ミノタウロスに向き直る。
勝てる訳無い……。
「ハルシュさん」
こちらに背を向けた彼女が俺に話しかける。
「もし、ここで死んでしまったら」
クソ。回復はまだか?
あと、何秒だ?
「ハマルに迎えに来て下さい」
うっせ! その前に借金返せ!!
いや、逃げろ!
そして、ここで退場になる俺のリスタートに合わせてハマルに来い。そこで、借金を返せ。
そうすれば幾らかマシなリスタートになる。
今度は、男のアバターにするんだ。
「今度は、男の子にしようかな」
リーザは剣を振り上げ、ミノタウロスに向かい跳躍をした。
上段から振り下ろされるその刃を棍棒で弾き飛ばそうと乱暴に振るう。
結果、宙を待ったのは手元から切り落とされた棍棒の方であった。
リーザの剣から、そして、体から微かに、紫の炎の様な物が立ち上っている。
素早く振るわれる二の剣。
すくい上げる、その一撃がミノタウロスの腹部から胸部にかけて深い切り傷を刻む。
そのまま、大振りに剣を引き、反動を付けるように身を捻る。
振り下ろしたミノタウロスの斧が、突き出されたリーザの空手の左手を捉える。
その一撃は、リーザの左手の肘から先を体から切り離していた。
リーザは、全く意に介さず全身を回転させ剣を横一文字に振るう。
その剣は首を捕らえ、ミノタウロスの頭部を胴体から切り離していた。
化物は粒子と化し空に消え、そして、それ以上の化物も脱力し膝から崩れ落ちた。
「リーザ!」
ウミが駆け寄り、リーザが地面に倒れ込む前に受け止める。
俺も体の自由を取り戻し、二人に歩み寄る。
「大丈夫か?」
二人に声を掛ける。
「また、無くなっちゃいました」
ウミに抱かれながら、リーザが肘から先のない左手を動かした。
俺は、その腕に手を当てる。
「再生」
初めて使う神聖魔法は、瞬く間にリーザの腕を元通りにした。
「すごい! ありがとうございます!」
その言葉、そっくりそのまま返すよ。
「どう言うことか聞いても、良いのかな?」
リーザに問い掛ける。
もちろん言いたくなければそれで構わない。
「その前に、帰ろうよ」
そう、ウミが提案する。
「帰るの?」
俺が聞き返す。
「だって、もう目的は果たしたよ?」
不満げなウミに、俺はそっと洞窟の片隅を指差す。
そこには、口の空いた木の宝箱があり宝石やら金貨やらが入っている。
ベタだなぁ。
そして、どうやら、この場所に感じた違和感。異物感。
それはあの中にあるようだ。
何か、魔力の込められたアイテムでも在るのかもしれない。
違和感を感じた原因はどうやら魔力察知スキルのようだから。
ハルシュ Lv.13
筋力値:15
魔力値:15
敏捷値:15
装備:
【ダマスカスランス】
【ワイバーンスケイル】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.1
├[2]【槍】Lv.2
│├─【防御】Lv.1
│└─【魔法防御】Lv.1
├[3]【神聖魔法】Lv.1
├[4]【観察眼】Lv.2
│└─【暗視】Lv.1
├[5]【超反応】Lv.1
├[6]【気配察知】Lv.2
│└─【魔力察知】Lv.1
└[7]【離脱】
所有スキル:
【回復】Lv.1
【夜目】Lv.1
【看破】Lv.1




