表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/224

175 記念すべき日になれ

 遂に、遂にこの時が来たのだ!

 ゲーム開始から実に176日!

 奇しくも2月22日!

 そう!

 ニャンニャンニャンの猫の日だ!

 そうか!

 だから体は虎である鵺退治だったのか!


「アリアシア、今日は猫の日だ!」

「はい?」


 対応に困るアリアシアの顔に冷静になる。

 猫の日は……関係無かった。


「いや、何でも無い。さて、何を食べようか」


 落ち着こう。

 薬は宿に帰ってからだ。


「そうですね……あそこは何のお店でしょう?」

「蕎麦屋か。麺、パスタ見たいなもんだな」

「おお。行きましょう」

「よし、行こう」


 ◆


「力うどんがある」


 蕎麦屋のメニューを眺めながら呟く。


「何ですか? それ」

「餅が乗ってる筈だ」

「あ! 月のウサギちゃんのですか?」

「そう」


 あったな。

 餅。

 まあ、団子も似た様な物だけれど。


「私、それにします!」

「了解。すいませーん。力うどんと鍋焼き」

「あいよー」

「鍋焼き? お鍋焼くんですか?」

「まあ、くればわかる」

「お餅……どんな野菜なんですかね。楽しみです」

「いや、野菜じゃないよ?」

「違うんですか?」

「違うよ。何で?」

「だって、ウサギちゃん、野菜しか食べませんよ?」

「そういや、そうだけど。

 何て言うのかな。きっとご馳走なんだよ。

 めでたい時に食べるんだ。

 今日にぴったりだ」

「今日、おめでたい日なんですか?」


 この後、第二の誕生日です。


「はい、お待ちどうさま。

 鍋焼き、もうちょっと待ってね」


 先にアリアシアの分だけ運ばれて来る。


「先食べな」

「はい。じゃ、いただきます」


 たどたどしい手つきで慣れない箸を手にするアリアシア。


「それが餅」


 うどんの上に乗った焦げ目のついた四角い餅を指差す。


「伸びる!?」


 箸でつまみ上げ、いちいち驚きながら恐る恐る口に運び、そして笑顔になる。


「おいしいです!」

「それは良かった」


 ◆


 お代わりして天蕎麦も完食し満足気なアリアシアと店を出て、そして、そう言えばぜんざいなんかもあるかなと、少し探せば見つかる訳で。


「甘い餅「食べます!」


 えらく食い気味に答えるアリアシア。

 うん。

 好きなだけ食え。

 今日はお祝いだ!


 ◆


「お帰り。遅かったね……どうしたんだい?」


 寺田屋に戻った俺たちに女将が心配そうな顔をする。


「食い過ぎ」


 アリアシアは両手でお腹を抑えている。

 餅は腹で膨れるらしいからな……。

 ぜんざい、何杯食べてただろうか。


「……苦しいです」

「布団敷いてあるから。

 横になって休みな」

「……はい」


 アリアシアを部屋まで送り届ける。


「ゆっくり休め」

「……はい。ありがとうございます」


 そして、俺は風呂へ。

 風呂へ!


 ◆


 別に風呂で無くても良かったんだがまあ、最後に自分の裸を見てからでも良いよね。


 すっかり揉み慣れたこの胸ともお別れか……。


 感慨深い……。


 木で出来た風呂に浸かりながら半年付き合ったアバターの名残を惜しむ。


 しかし、新たな世界が俺を待っているのである!

 生まれ変わったら何しよう。

 希望に胸を膨らませつつ、チビ巫女にもらった薬を手に取る。


 ……よし。


 湯船から出て、瓶の蓋を外し口をつける。

 ミントの様な爽やかな香りが鼻から抜けていく。


 そして、覚悟を決め、一気に飲み干す。


 液体が流れ込んだ先。

 喉。

 食道。

 胃。

 順に焼ける様な痛みが走る。

 体が内側から徐々に熱を帯び、脈が早くなって行く。


 明らかな異変に襲われる体を自分の両腕できつく抱き締めた。



 ………………



 …………



 ……



 ……



 ……



 ……



 ……。




 薬を飲んでから十分以上経っただろう。

 脈は収まり、体の熱も引いた。

 濡れた体で風呂場に蹲っていたせいだろう。少し肌寒くすらある。


 自分の手で……股間を確認する。



「何も変わってねーじゃねーか!!」



 思わず叫び声が出て、それが狭い浴室に反響する。

 ちなみに外界とは隔絶されているので、いくら騒いでも誰かが駆け込んでくる様なことはないらしい。


「ふざけんなぁぁ! あのガキ!!」


 俺の!

 期待を!

 返せぇ!!


 冷えた体を再び湯船に漬ける。

 いや、あのガキ、別に男になるなんて一言も行ってなかったなと思い出す。


「何が占いだよ。ヘボが」


 やり場の無い怒りを抱えたまま、湯船から出て脱衣所へ。

 いっそ、このまま降臨にでも八つ当たりに行くか。

 いや、そこまで時間の猶予はないな……。


 脱衣所の姿見に結局何一つ変わっていないアバターが映る。


 ……ん?


 ……あれ?


 え?


 うそ。


 両手で胸を包み込んでそれを確認。


「大きく……なった?」


 確かに大きくなっている。

 胸が!


 毎日触っているからこそわかる変化!

 体の悩みって……。


「そっちなの!?」


 逆方向に行っちゃったよ!


 ◆


 しかし、まあ、これはこれで悪いことでは無いんだよなぁ。


 再度湯船に浸かりながら、自分の体に起きた変化をしっかりと確かめる。

 胸だけでは無い。

 腰から尻に掛けてのラインにも凹凸がついた。


 そう!

 あの薬は確実に私を次のステージへと押し上げたのだ!

 女として!


 ◆


 翌朝。


「おはよう」

「おはようございます」


 少し、アリアシアの前で胸を強調して見る。


「……?」


 ポカンとした顔をするアリアシア。


 もう一回。


「どうかしましたか?」

「……別に」


 何で気付かないのかな。

 相当に鈍いぞ。

 こいつ。


「え、どうしたんですか?」

「何でもない」


 食堂の座布団に腰を下ろす。

 流石は旅館。

 食事は広間で。

 他に客は居ないので貸切だが。


 女将がお膳を運んで来る。

 米、魚、豆腐、醤油!

 オーソドックスな和食。


「「いただきます!」」

「はいどうぞ」


 食べ慣れない和食で心配したがアリアシアはお櫃を三合空にした。

 食い過ぎだよな?


 ◆


「さて、今日はどうしようか」


 食後に緑茶を飲みながら考える。


「一回、御所に顔を出そうか。

 その後、異変は無いか」


 あわよくば、他の事件など華麗に解決してあの薬をもっともらえないか。


「え、ええ」


 それに答えるアリアシアの返事がやや弱々しい。

 見ると少し青い顔をしている。


「……食い過ぎか?」


 そっと目をそらすアリアシア。


 御所に行く前に散歩だな。


 ◆


「昨日は久しぶりに良く眠れたのじゃ」


 庭の池の鯉に餌をやりながら嬉しそうに言うチビ巫女、イヨ。


「そうか。良かったな」

「……何じゃ?」

「……別に」


 胸を張って見せているのに、こいつも気付きやしない。

 所詮は子供か。


「それで他に困り事は無いか?」

「無いの」

「何か無いのか?」

「無いと言うとるじゃろ」

「何で無いんだよ」

「ひとつあった」

「何だ?」

「お主、五月蝿い」


 ……。

 さーせん。


 後ろでアリアシアが笑いをかみ殺す気配がした。


 ◆


 結局新たな依頼は無く、薬は暫くお預けとなった。

 残念。


 ……。


 違う!

 行くべき方向が!


「バッレバレだったじゃないでぇすか!」


いや、びっくりした(棒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ