畑にお散歩
今日の彼は畑にお出掛け
書いてる私も忘れかかってますが彼の特殊能力は
自分を食べた者
食物連鎖上位の細胞になり意識を乗っとる事です
「おはよー」
「おはようございます 」
オーク村は朝が早い。
朝靄がかかる中、鍬を片手に歩いていく姿がちらほら見える。
昨夜酒宴で大騒ぎしたのだが、こんな朝早くから生真面目に起きてくるこの種族はとても魔獣には思えない。
しかし昨夜の酒宴は俺の人生の中でワースト3に入る物になってしまった
呪いを解除しエルフに生まれ変わり、そして美男に生まれ変わった迄は良かった
問題はその後だ
2メートル強の筋肉質なハイオークの体だったのが、どちらかというと線の細いエルフに生まれ変わったのだから服のサイズが合うわけがない。
美男になった方に意識を取られほぼ全裸になってる事に気付かずブラザーを披露しながら狂喜乱舞していた俺はその場を誤魔化す為に、そのまま裸踊りに突入した
素面に近い状態で裸踊りをする気持ちはわかるだろうか?
そしてミントのあの白い目は一生忘れられないだろう
俺はウィンドウを開く
職業 エルフ
HP 3853
MP 8421
特技 自己再生 鞭 分身 金縛り
そう。 新特技金縛りを覚えたのだ
ミントをブラザーでフリーズさせて覚えた特技でない事を祈りたいのだが、ほぼ間違いないだろう
だって裸踊りの最中にステータスウィンドウが光ってたもん
(…泣きそうだ)
人間形態に近づいた矢先に美女二人の前で裸踊りとか
身の毛もよだつ所業である。
そして今、その二人を畑に連れていく為、ミネヴァ宅へ迎えに
行く道中なのだ
ミントはミネヴァと気が合うらしく、昨夜はミネヴァ邸に宿泊したと聞いている。
ステータスを見ながらHPに目が止まる
HPが半分以下になってしまった。
まさかハイオークがあんなにハイスペックだったとは。
俺が入っているから強化されているにしても、殴れば拳は地を割るし、自己再生を使えば筋肉の鎧
なんという事でしょう。
裸でも戦えるステータスだったのです。
今の現状では間違いなく、装備で強化しなくては戦えない
ドラゴン等に捕食された場合ならひとつの目的を果たせるから良いのだが、今のステータス具合を見ると人間よりは強いけど…
魔獣じゃなくても野獣に負ける
野獣に負けたら厄介なのだ。
この世界の食物連鎖はまだ詳しくない
例えば熊に負けたとしよう
熊を乗っ取っても熊を捕食する者がいなくては詰みなのである
1からやり直す手はあるが、また…ねぇ。
それと、この金縛りが使える特技なのかイマイチわからない。
今朝、小鳥に試したのだが1秒くらいしか動きを止められなかった。
戦闘中、相手の動きを1秒止めたらとんでもなく有利に運ぶというのはバトルマンガの常識だが、その相手の動きを止める為に、俺は発動に数秒かかる
1秒の為に数秒を失うってどうなんだろう?
何度も練習して発動時間を短縮せねばなるまい
それに金縛り中、意識があるのかないのかが気になるんだよなあ。
金縛りを受けた間、意識がなければよし。
意識があれば、この技は未完成というか危険である
一度食らえば警戒されるであろう
それにこちらは発動に数秒かかるリスクを抱えなくてはならない。
1秒で俺はほぼ何もできないが、数秒も経っていれば相手は間合いは詰めれるだろうし一撃くらいは入れられる可能性はある。
オークの体力ならば耐えられそうだが、今はか弱いエルフなのだ。
自己再生というチート能力はあるが、自己再生を上回る速度でダメージを食らってしまえば終わりである
再生が間に合わない悲劇は、草の時、VS牛で充分に味わった。
まあ、後であの美女二人に試してみるか。
そんな事を考えているとミネヴァとミントがこちらに歩いてきた
小さく手を振るミネヴァ…と、その陰に隠れるように歩くミント
おはよう
「おはよー」
「おはようございます」
ん?今、他人行儀な挨拶が聞こえたような気がしたが気のせいであろう
…気のせいであってもらいたい
金縛りを試させてもらおうと思ったが、やめておいた方が良さそうだ
俺は女性に優しい
紳士
そう!!ジェントルマンエルフなのだ。
ジェントルマンエルフは裸踊りなどしない。
昨日の事はきっと夢でも見たのだろう
「さあ畑を見に行こう」
「うん」
「はい」
イタタタタ 痛い痛い
なんか胸がチクチクする
「そういえば昨夜ジェードの裸踊り盛り上がったね」
いきなり黒歴史を蒸し返すミネヴァ
きっとミネヴァの特技は「無慈悲」なのであろう。
「……」
沈黙のミント
こちらの特技は「ハートブレイカー」であろうか。
せっかくなら金縛りではなく、記憶消去とか覚えたかった
そんな息詰まる心理戦を乗り越えて畑に向かう
既にダメージは満タンだ。
男は死線を繰り返すと強くなるというが冷たい視線では強くなるのであろうか
(畑に着きさえすれば…)
畑までは数100メートルなのだが、それは果てなき旅に思えた
ゴルゴダの坂ってどんなところだろうと考えてしまったくらいである
「トウモロコシ畑着いたよー」
ミネヴァが声をかける
良かった。畑だ
俺はミントに畑を見せる。広大なトウモロコシ畑だ
ミントは呆気にとられていた。
魔獣が文化を持っている事にも驚いたようだが、農耕も行っていた事にも驚いているようだ。
俺が作ったわけではないのだが誇らしいものである
牛○は堆肥として使うんだと説明する
ミントは驚いた表情のまま頷いている
相当驚いているらしい
だが、驚かすのはこれからだ。
俺は鍋と水を用意しミントに声をかける
「火の魔法使えるか?」
「ファイヤーバーストか?」
彼女はここを破壊する気なのだろうか?
「いや。水を沸かしたい」
なんだ。そうかと言い炎を操り薪に火をつけた
俺は火魔法に憧れている。というか異世界に来ているのに攻撃魔法というスキルがないのだ。
チート能力なのに…まぁいい。いずれ覚えるであろう
畑に入り何本かトウモロコシを収穫し鍋に投入した
ミントもミネヴァも鍋の周りに座り雑談している
そうだ
聞かなければならない話があった。
畑を見て凍てつく心を溶かし始めたようだし、聞くなら今しかない
エルフと人間の関係だ
実のところどうなのだろうか?
ミントに聞くと概ね良好で、人間の支配する城下街でも出入りは自由らしい
まずは第1段階クリアだ。
そして
「トウモロコシが茹で上がったぞ。食べてみてくれ」
「!!…あまーい!!」
「おいしー!!」
あれ?ミネヴァも喜んでいる。
そういえばオークの村で朝からトウモロコシを食べたことがない
俺は得意になって説明する
トウモロコシは朝採れが一番甘いのだと。
「なぜ朝が甘いのだ?」
と聞いていたが、そこはスルーしておこう。
商談はタイムイズマネーなのである
このトウモロコシは人間界で売れそうか?
ミントの答えはイエスだった
味は間違いないと太鼓判である。
話してる間も食べ続けてるし
「だが問題がある。オーク産と言って売れるかだ」
そこは解決済みである
この辺りの地名、イズンの大地産として売り始める
ある程度人間界にここのトウモロコシが浸透してきてから、オーク村産だと少しずつ噂を流していくのだ。
そして人間界との相互関係を築いていきたいと思っている
まあオーク村産と言わずにエルフ村産と言ってもいい
嘘は言っていない。
俺も折りを見て皆の呪いを解除しようと思ってはいるし
しかし呪い解除もタイミングが必要だ
昨夜は衣類にしか頭が回っていなかったがエルフになった時の基礎攻防力の低下だ。
オークは弱い 弱いのだが肉弾戦ならばエルフよりは強い
逆にMPは上昇したから、魔力はオークよりあるのだろうが、呪いが解けたからといっても、いきなり魔法が使えるわけでもないようだし。
装備もなにもない状態で全員エルフに戻したとして、他から攻撃を受けたら村を守れないのだ
そう考えれば、やはり金が必要である。
オーク産のトウモロコシも人間の味覚で合格なら売れるであろう。
他にも城下街に搬入する前に仕上げておきたい事がある
口コミだ
あのトウモロコシがおいしいと噂を流してもらう人間が必要である
ミントは協力してくれるであろう。
まだ食べ続けてるし
後は…ロンベールと愉快な仲間達に協力を頼むか。
よし。ロンベールに会いに行こう
御意見御感想ありましたらよろしくお願いいたします