最終回
「「やった!」」
一斉に鬨が上がる。
ここからでは確認できないが、セドを倒した事でオーク村の呪いも解けたのではないだろうか?
そんな期待で俺の胸は高鳴った。
そして……。
ブラッドはミントに近付き頭を下げる。
「王女ミント様、今までの非礼を御詫びしたく参りました」
その姿を見てガーネットとロンベールが慌てて飛び込んできた。
「女王様! 俺からも頼む! ブラッドを許してやってくれ!」
「女王様! アッシからもお願いいたします!」
ブラッドは続けて口を開く。
「私は死ねぬ体です。命を捨てて詫びる事はできません。しかし王女様の御英断であらせられるオーク村との国交。魔獣との相互理解は私の夢でもあります。許されるならば今日の就任式を拝見させていただきたく……。」
ミントが口を開こうとしたその刹那であった。
「これで死ねますよ」
突如、バランサーがブラッドの胸を貫いたのである。
「「ブラッド!」」
ガーネットとロンベールが近寄ろうとしたが、バランサーが一喝した。
「近寄るな! ……邪魔をなさらぬよう。ホントに殺してしまいますよ。」
バランサーは慎重に腕を抜いていく。
その手には真っ赤なリンゴが握られていた。
「ガハッ!」
ブラッドが咳き込む。
俺は直ぐにブラッドの体を支えたのだが、貫かれたはずの胸に傷も出血もなかったのだ。
「まったく……命の実などと、くだらない物を作るとは。これは数多の命で作られたエネルギー体。1人の器に納めるものではありません。それと、そこの貴女も命の実を食べたのではありませんか?」
バランサーはミントを指差した。
ミントは、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。
静かに頷き一歩前に出る。
「静かにしておいてくださいね」
バランサーは即座にミントの胸を貫いた。
そして命の実を取り出したのである。
今までの冷たい表情は鳴りを潜めバランサーは優しく微笑んだ。
「病があるからこそ健康が有り難いように、死があるからこそ命の尊さがわかるのですよ」
バランサーは命の実にフッと息を吹き掛ける。
命の実は輝きを増し、小さな塵となり、大地に舞っていった。
するとどうだろう。
メフィストの爪により死に絶えたと思われた草木が再び咲き誇ったのだ。
「この世は命に溢れています。願わくば、見えるもの全てに感謝と慈しみの心を持ってください」
ミントは頷き、ブラッドを見つめた。
「ブラッド。就任式を迎えていない僕ははまだ女王ではない。だから、貴方を裁く権利は僕にはないのだ」
ブラッドは驚きの表情を浮かべる。
「それでは私の気が収まりません!」
「ならば……明日からここユグドラシルは勇者不在になる。ブラッド。君は勇者に返り咲き、我が国を支えて欲しい」
「そ……それは……」
「死して償うより生きて償ってくれれば嬉しく思うぞ」
ミントはブラッドの肩に手を置く。
ブラッドは小さく頷き肩を震わせた。
その姿を見たフェンリルが呟く。
「ブラッドは自分の居場所を見つけたんだね……ヘルちゃん。行こう」
フェンリルは俺の手を引き踵を返した。
このままブラッドと別れる気なのだろうか?
バランサーが口を開く。
「待ちなさい。銀狼の少女よ。本来ならホムンクルスなど許さぬ私だが、ここには1つ器のない魂がある」
バランサーは俺とジェードを呼び寄せた。
「そろそろ体を返してあげなさい」
「ヘルは良いとしても、ジェードはこれから調印式がある。体から抜けて大丈夫か?」
「今までの事は総て貴方が決めていたとでも?それは傲りです。それに今までの記憶は彼等にも残ってます」
「え?マジか?」
「ええ。ジェードは今から人間と国交を結ぶのでしょう?大事な決断は人間の記憶がある貴方ではなく、呪われたオークである彼にさせるべきです」
「……そうか。そうだな。」
「では、そろそろ体から出ましょうか」
バランサーは俺を促すが、俺が今から銀狼族のホムンクルスになるには最大の難関がある事をわかっているのであろうか?
「じゃあ……今からプリっと……行ってくるから、バランサー……後は頼んだ」
俺の言葉に気づいたバランサーは慌てて俺を静止した。
「ま! 待ちなさい! 私に任せなさい」
バランサーは俺達に手を翳し俺という細胞を抜き取る。
そして今、バランサーの体である銀狼のホムンクルスに定着させた。
(さて。私は本来の任務に戻ります。銀狼族を頼みましたよ)
俺は新たな体を確かめる。
ステータス
銀狼族
HP 18230
MP 520
特技 自己再生 分身 鞭 甦生 重力 雷 高速移動
(うん……。銀狼族はやはり強いな)
「ねえ?」
「うわっ!」
フェンリルが俺の顔を覗き込んできた?
「急に雰囲気変わったね? 君の名前は?」
「俺の名前……」
「私はフェンリル。彼女はヘルって言うんだよ。君は?」
「……俺の名前は高橋斗真」
フェンリルはニッコリ笑って手を繋いできた。
「トーマ君か。よろしくね」
いかがでしたでしょう?
最後は皆様の想像した結末ではなかったかもしれません。
しかし、高橋斗真君の未来は皆様に想像していただきたく、敢えてあののような終わり方にさせていただきました。
そして皆様に読んでいただいた事で力をいただき、完結を無事に迎える事ができました。
途中で読む事をやめた方、最後まで読んでくださった方、私の拙文にお付き合いいただきありがとうございました。




